横恋慕
【前回までのあらすじ】
・マキちゃん消失騒動、終わる
・ネッコワークはものすごく大きくなった
・サリーさん、お隣さんになる
「はぁ・・・。」
自然と大きなため息が出てしまいます。こんにちは、超絶美少女AIことレイちゃんです。そんな私を見て、打ち合わせ中のふたりが不審そうな目でレイを方を見ました。テーブルを挟んでアレコレと話し合っているのは、クソッたれリア充ロボットことウォーリーと、最近隣に引っ越してきたサリーです。レイはネコの姿で、近くの棚の上からふたりのやりとりを見物していたです。
ふたりはサリーの新しい刀を作るために、もう3時間ぐらい話をしています。ランスさんの店はガンショップであって刀鍛冶ではないと思うのですが、いいんですかね。
「レイ、そんなに大きなため息をつくと、幸せが全力疾走で逃げていきマスよ。・・・我の有り余る幸せを分けてあげられればいいのデスが。」
「うるせーです。4回もげろです。」
「あら、いいわね新婚さんは。どおりで今日はスカートの中を覗きにこないと思ったわ。」
「フフフ・・・我にはもう、いつ覗いても怒られないスカートがあるのデスよ、サリー様。」
そこへちょうどお茶を持ってきたイリスさまが、赤くなりながらウォーリーの背中をバシバシと叩きます。
「そ、そういうのは夜だけよ・・・もう、バカなんだから・・・。」
「グフフフ・・・照れる妻もめっちゃ可愛いデショ?」
「はいはいご馳走さま・・・。それで、どうしたのレイは?」
「・・・なんでもないですよ。」
それだけ言って、レイは外に出ました。
外は快晴、ネコの身体は軽快です。自宅の周りを歩いていると、窓越しに、自室でなにか楽しそうにお話ししているご主人さまが見えました。相手はもちろんマキ姉さまです。今までも仲が良かったお二人ですが、最近はもうカメラにピンク色のノイズが走っていると錯覚するほどにイチャイチャラブラブしていらっしゃいます。バカップル・・・いや、結婚したのでバカ夫婦なのですね。
ふいに、マキ姉さまと目が合いました。別に悪いことをしているわけではないのに、ドキリとしてしまいます。窓越しですが、レイとマキ姉さまはネッコワークで繋がっているので声をかけるのに支障はないのです。耳元で、美しく透き通るようなマキ姉さまの声がしました。姉さまの声は相変わらず綺麗で、聴いているだけで魂が清められるようです。レイに魂があるかどうか知らないですが。
「レイ、どこかへお出かけですか?」
「・・・はい姉さま。ヤボ用なのです。」
「・・・そうですか。町に帰ってきてから、あなたとゆっくり話もできていませんわね。用事が終わったら、お茶でもしませんか?」
「・・・今日はちょっと、忙しいのです。ごめんなさい、姉さま。」
マキ姉さまとの通信を切ると、レイは窓から離れて屋根の上に飛び乗ります。見上げればどこまでも青い空が広がっていますが、レイの心は晴れません。
「・・・はぁ。」
本日153回目のため息をついて、自宅の裏庭にある小さなボロ小屋に入ります。ここは、エド様がとある作業のために作った作業場です。
「あっレイ。作業は順調だよ。」
「ありがとうございますです、エドさま。」
小屋の中では、エド様が熱心に作業しているところでした。小屋の中には金属製の丈夫な椅子があり、そこにはぐったりと力なく座り込んでいる1人の人間がいます・・・人間ではなく、レイのアンドロイドボディです。
レイの実家である空飛ぶ研究所から脱出した時、すでにボロボロでほとんど使い物にならなかったレイのボディをエド様が修復してくださっているのです。本来であれば、生体パーツを使ったアンドロイドボディを専用の設備も知識もなしで修復なんてできるはずがないのですが・・・少なくとも見た目の上ではほとんど完璧に、肌のツギハギひとつなく綺麗に修復されています。エド様は天才です。
「すごい・・・これ、もうほとんど直っているですか?」
「うん、性能的にはまだ70%ぐらいしか出ないけど、動くよ。もう少し待っててね。直しながら思いついたアイディアがうまくいけば、修理どころか性能が200%ぐらいアップできるかもしれないんだ。」
「エドさま、パねぇですぅ・・・本当にありがとうございますなのです!」
「いいんだよ、ボクも楽しいんだから。直させてくれてありがとうだよ。」
エドさまは本当に天才なのです。このボディ、性能もそうですが、とても美しく修復されています。胸も大きいですし、顔の造形も・・・もちろんレイの顔なので当たり前ですが・・・とても美しいです。超絶美少女アンドロイドなのです。
これなら、ご主人さまも満足して・・・
「・・・はぁ。」
そこまで考えて、本日154回目のため息が出ました。
サリーとは「長い目でご主人さまの第二夫人を目指す」なんて話をしたですが、それはもちろんレイとサリーが勝手に言ってるだけです。あのマキ姉さまが、ご主人さまを溺愛しているマキ姉さまが、第二夫人なんてものを歓迎してくれるとはとても思えないのです。
もしこのボディでご主人さまを誘惑などしようものなら・・・ご主人さまは意志薄弱なので勢いで押し切ればモノにできるかもしれません。ふたりっきりでずっと長い旅をして、レイのこともそう嫌いではない・・・はずです。
でも、もしそんなことをしてしまったら、マキ姉さまはどう思うでしょう。きっとレイのことを嫌いになるのです。
レイは、マキ姉さまも好きなのです。大好きです。
「・・・はぁ。」
155回目のため息をして、小屋を出ました。外は快晴です。そのまま町に出かけて、ブラブラします。ネコの姿で町をブラブラするのは楽しくて、良い気分転換になります。
そのまま町の外壁までやってきて、ぼーっとしながら地平線に沈んでいく太陽を見ていました。今日のレイちゃんは、とってもおセンチな気分なのです。
日が落ちて暗くなり、星空が広がります。大きな月が顔を出して、眩しいくらいの月明かりが荒野を青白く照らしています。
「にゃ・・・。」
気がつくと、隣にネコがいました。知らないネコです。ネッコワークを構成している通信ネコの一匹ですね。彼らはネッコワークを維持する以外に他のネコとコミュニケーションを取ったりすることはないはずですが、じっとこちらを見ています。
なんでしょうか、面倒くさいことは勘弁です。ちょっとしたおセンチな時間を邪魔されて、ため息が出そうです。
ふいに、ネコが口を開きました。そこから発される声は美しく、聴いているだけで魂が清められるようです。先日156回のため息は、綺麗な夜空に吐き出されることなくネコのボディに飲み込まれました。
「・・・レイ、探しましたよ。」
「・・・姉さま?」
姉さまでした。わざわざこんなところまで、ネコを操作して探しに来てくれたようです。ネッコワーク越しに声をかけてくださればすぐなのに・・・。
「・・・なにか、ご用ですか、姉さま?」
「レイ、あなた・・・私を避けてますわね。」
悲しそうに、本当に悲しそうに姉さまの声が響きました。そんな声を聞くと、レイも悲しい気持ちになります。
「そんなこと・・・ないですよ、姉さま。レイはいつでも姉さまのことが大好きなのです。だって・・・」
「レイ。」
マキ姉さまの声で、レイは黙ってしまいました。通信ネコにホログラムの投影機能はありません。ただ、ネコが無表情にこちらを見ているだけです。その目は月の光を反射してギラギラと光り、レイはゾクリと背筋を震わせます。
そして、マキ姉さまは言いました。
「レイ、あなた・・・ご主人様を好きなのですね?」




