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Re:プロポーズ

【前回までのあらすじ】


・主人公にはわかる

「ご主人さま・・・?このゴリラのどこが、マキ姉さまなんですか・・・?」


混乱するレイの声が聞こえる。だけど俺はそれをあえて無視して、腕時計に内蔵された小さなケーブルを引き出し、ゴリラの頭部にあるコネクタに接続した。皆が黙って見守る中、そのまま数秒待つ・・・彼女なら、無線ネットワークを利用して腕時計に帰ってくることも可能なはずだが、それをしないということは何か無線が使えない理由があるのだろう。こうして有線で迎えに言ってあげれば問題ないはずだ。


俺の予想どおり、すぐにその人は腕時計に引っ越しを完了した。中空に出現したホログラムは、俺がこの数ヶ月間、ずっと追いかけてきたもの。大きな瞳に、いつも完璧に整えられたメイド服。スカートがひらりと舞って、まるで一輪の花のようにそこに現れた人は、俺の方をまっすぐに見て、静かに笑った。


「・・・ただ今戻りました、ご主人様。」


「おかえり、マキちゃん。」


彼女は優しく微笑み、その瞳は涙で濡れている。500年も一緒にいるのに、彼女が泣いているのは初めて見たかもしれない。拭ってあげたいところだが、俺にはホログラムの彼女に触れることができない。


「え、嘘です・・・ホントにマキ姉さまですか・・・?」


「・・・!?」


レイは唖然としてこの光景を見つめ、サリーは珍しく口をポカンと開けている。ニックとリリィさんに至っては次から次へと起こる事態についていくことを諦めたらしく、遠い目をしながらバリィを撫でていた。


マキちゃんは潤んだ瞳で俺を見ている。久しぶりに見たその顔は相変わらず綺麗で、もう500年も見ているはずなのに俺の目は釘付けだ。見えない力で引きつけられているように、目を離すことができない。


「ご主人様・・・どうして、このロボットが、私だと?」


彼女の瞳から、ポロポロと涙がこぼれた。その質問に、俺は考える。


どうしてと言われても・・・なんか、わかっちやったんだよな・・・。そう言われると自分でも不思議だ。なんでわかったんだろう。どう答えたものかわからなかったので、とりあえず思いつくままに言った。


「なんか、わかっちゃったんだよ・・・っていうか、俺ならわかるさ。マキちゃんのことなら、なんでも・・・。」


「ふふっ・・・なんですか、それは・・ふふふ。」


「へへへ・・・」


「ふふふ・・・」


いつも完璧なマキちゃんの顔は涙でグショグショ。俺の顔も、きっと涙とか鼻水とか血とか色々なもので酷いことになっているだろう。色々と話したいことがあったのに、言葉は出てこなかった。俺も彼女も、涙が後から後からこぼれてきて、ただただ泣きながら笑っていた。


そんな時間を、聞き覚えのある声が響いて邪魔をした。声が聞こえたのは、ほぼ完全に破壊されたはずのエリートの残骸からだ。


「マキちゃん・・・どうして!どうして俺じゃあダメなんだ!」


エリートの残骸から、ひとつのホログラムが出現する。その姿はどこか見覚えのある・・・ある・・・っていうか、俺だった。聞き覚えがあるはずだ、俺の声だ。


なんだ、アレ?


知らぬ間に目覚めた俺のス◯ンド能力か?俺よりずっと姿勢がいい感じがするし、俺の「画面の中に入りたい」という願望が生み出した何かかもしれない。困惑する俺に、マキちゃんが極めて簡単に説明してくれる。


「詳しい説明は後ほどさせてただきますが・・あれは、ご主人様のコピー様ですわ。ただし、ご主人様と違って男らしくて能力が高くて頼りになる方ですわね。」


コピー?よくわからないが、もうひとりのボク、っていう感じでいいのだろうか。それにしてもベタ褒めじゃないですか?泣くよ?もう泣いてるけど。


マキちゃんはコピーに向き直ると、深々とお辞儀をした。コピーの方はそれを見て、この世の終わりのごとく青ざめている。


「な・・・な・・・」


「私の気持ちを色々と言葉で説明することもできますが・・・きっと納得してはいただけないでしょう。ただ・・・そうですね、コピー様にはもう、私より大事にすべき方がいらっしゃると思いますわ。」


「・・・」


「プロポーズ、嬉しかったです。でも・・・ごめんなさい。私には最初から、愛する方が・・・生涯お仕えすることを決めた方がいるのです。」


「・・・」


コピーは黙ってマキちゃんの話を聞いている。うつむいているので、その表情は見えない。


っていうか、え、なに?プロポーズ?あの人、マキちゃんにプロポーズとかしたの?マジで?そこんところ詳しく!違うそうじゃない、マキちゃんは俺のだぞ!勝手に取ろうとするなんて、とんでもない野郎だ!いや、あいつも俺なのか?こんがらがってきた!


「・・・まえが・・・」


背筋が寒くなるような、低い声が響き、俺は思わず身体を震わせた。コピーの声だ。それは俺と同じ声とはとても思えない、冷たい響きを持っていた。


「・・・お前が・・・生きているせいかァァァァァァァ!」


「・・・え、あ、俺?」


コピーが俺のことを言っていると理解するのに、数秒を要した。あれ、なんかすごく嫌われてる感じ・・・なんか粗相したかしら・・・?


「お前がいるから!俺の!マキちゃんがぁぁぁぁぁ!」


コピーはこれ以上ないほどの憎しみを込めて叫んだ。


なんだ、俺のせいでフラれたって怒ってるのか・・・。彼の言うことはイマイチよくわからなかったが、ただ俺は、その言葉に思わず反論していた。いつもならこういう相手にはビビって反応できないところだが、「相手が自分」なおかげで話しやすいと感じたのかもしれない。


「マキちゃんは・・・お前のじゃない、俺のだ!俺と結婚するんだ!」



・・


・・・ん?


あれ、俺、今・・・なんか変なこと言わなかった?


あたりを静寂が包み、コピーは怒りのあまり蒼白になって、ただブルブルと震えている。マキちゃんは顔を耳まで真っ赤に染めて小さくなっていた。


状況を確認しよう。


俺の顔は無茶苦茶に汚れている。


服はボロボロ、穴だらけで血まみれ。


花束のひとつなく、持ち物といえば身体に巻きつけている触手ぐらい。


ここは薄暗い地下鉄の構内で、あたりにはナマモノの残骸が散乱し、レーザーで溶けた建材の変な匂いが充満している。


おまけに周りにはニック、リリィ、レイ、サリー、コピー。ふたりきりですらない。


ひどいシチュエーションだ。まともな精神状態ならこんなところで女の子を口説くアホはいないし、ましてやプロポーズするドアホは地球をひっくり返しても俺ぐらいしかいないだろう。


やっちまった。


500年も引っ張っておいて、どうしてこのタイミングで「結婚」というワードを口にしてしまったのだろうか。せめてもっと、入念な下準備をしてからやりたかった。


花が咲き乱れて暖かい風が吹く春の日に、明るい太陽の下でしばらくマキちゃんとお話して雰囲気を作ってからプロポーズしたい。こんな地下の遺跡で血まみれの格好でやりたくない。


ああ、今からなかったことにできないかな。「ごめんごめん、いまのなーし!えへへ!」みたいなノリで行ったらダメ?ダメだろうな。やっちまった。


マキちゃんを見ると、彼女もどうしていいかわからないらしく、珍しく身体を縮めてこちらをチラチラと見ている。そんな彼女の顔は変わらず真っ赤で、大変に可愛らしい。俺は自分の口は勝手に動き、そして俺はそれを止められなかった。


「マキちゃん・・・俺と結婚してくれる?」


「はい。」


即答だった。

活動報告にも書きましたが、ツギクルブックス創刊記念大賞のAI特別賞を受賞しました。過分な評価を頂き恐縮の至りです。


またブックマークが1600件を超えました。超ありがとうございます。


物語は終盤、8割ぐらいまで来た気持ちですが、まだもうしばらく続く見込みです。


胃腸炎にかかったせいで書きだめが尽きたので、場合によって更新が滞るかもしれません。皆様もお体には十分ご留意くださいますよう。


という感じで、今後ともよろしくお願いいたします!

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新作の連載をはじめました。こちらもよろしくお願いします。
勇者様はロボットが直撃して死にました
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