自爆
【前回までのあらすじ】
・マキちゃんさん、ゴリる
・主人公、エキィーンの群れから逃走中
※ 主人公サイドの話です
「チクショウ、キリがねぇ!」
ニックの悪態が響く。俺たちはまだ、生きていた。隙間なくエキィーンに取り囲まれ、さながらゾンビ映画のラストシーンのように視界を埋め尽くさんばかりの敵に囲まれながらも、どうにか生き延びていた。
前方にはエキィーンの群れ、後方にはエキィーン・エリート。逃げ戻ることも進むこともできなくなった俺たちは、追いすがる敵の群れを切り、撃ち、爆破してどうにか追い払いつつ、細い脇道に滑り込み、もはや自分たちがどこを目指しているのかもわからないままに遺跡の中を逃げ回った。
「電車は、来ないのかしらね!」
サリーが言いながら、長い刀でエキィーンの群れをまとめて切り飛ばす。まるで芝刈り機のようにバッサバッサと敵を切り飛ばしていくが、そうしてできた隙間を一瞬で新しいエキィーンが埋め尽くした。
彼女が言うように、俺たちは地下鉄の駅のホームのようなところで敵の群れに囲まれていた。敵は幸い、あまり戦闘能力の高くない普通のエキィーンばかりではあるが・・・それにしても数が多すぎる。ホームを埋め尽くし、その下の線路までエキィーンで溢れかえっている。通勤ラッシュも真っ青な数だ。もしこの状況で電車が来るのなら、例え通過列車だろうとも喜んで乗らせてもらうだろう。確実に人身事故になるが、このホームに残されるよりは生き延びる可能性があるはずだ。
今やレイのネコもボロボロになり、俺のホワイティが持っていた銃も弾が切れて、白い触手を振り回して攻撃している。生身の人間であるニックとリリィも疲労の色が濃く、そろそろ弾薬も尽きる頃だろう。いよいよ本当に終わりが見えてきたようだ。
「くぅ!」
レイのネコが、敵の群れに弾き返されて俺の足元に着地した。見れば前足のツメが折れて、黒い煙を上げている。酷使するあまり、マイクロウェーブカッターを内蔵したツメが破損したのだ。
「レイ、大丈夫・・・じゃないよね?」
俺の言葉に、しかしレイは静かに微笑んで見せる。
「ご主人さま、皆さん、聞いてください!レイが進路を切り開くです!」
「レイ、何を・・・何をする気だ!?やめろ!」
「これが、レイに残っている最後の武器なのです。」
レイのネコがにわかに光を放ち、バチバチと放電しはじめる。これは機体に内蔵されたプラズマドライブのオーバーロード・・・つまり、自爆だ。ネコ型ロボットに搭載された小さなドライブでも、手榴弾数十個分の爆発を起こすことはできるだろう。
レイは俺を見た。とても静かで、そして優しい目だった。
「ご主人さま・・・この数ヶ月間、ふたりで旅ができてレイは幸せでした。」
「ダメだ、やめてくれ、レイ・・・!お前までいなくなったら、俺は・・・!」
「さようなら、ご主人さま。レイはいつまでも、お側にいるです。」
俺の制止を無視して、レイのネコは敵の群れの中へと突進していった。敵の群れをかき分け、すぐに姿が見えなくなった。
「レーーーーーーーーーーーーーーーーーーイ!」
激しい爆発。無数の敵が吹き飛び、天井の数カ所が崩落して敵を潰した。俺たちは爆発で産まれたわずかな安全地帯に滑り込み、そのままの勢いでホームを直進していく。進むにつれて敵の密度が薄れ、武器を乱射しながらどうにか前進することができる。
「レイ・・・レイ・・・。」
泣いている場合ではない。レイが命と引き換えにして作ってくれたチャンスを無駄にしてはいけない。ひたすらに足を動かしながらも俺は自分の目から溢れ出すものを止めることができず、彼女の名前を呼んだ。
「はい?なんですか、ご主人さま?」
そしたら返事が聞こえた。俺の腕時計からだ。
見ると、普通にネコの身体から腕時計に引っ越しを完了したレイがこちらを見ていた。
「レイ・・・お前・・・」
「え、いや、だって、いつまでもお側にいるっていったじゃないですか?え?泣いた?泣いちゃったですか?レイちゃんがいなくなったと思って泣いちゃったですかぁー?」
「うぜぇ・・・。」
「ほらほら、大好きなレイちゃんが帰ってきましたよー?この勢いで、愛の告白してくれてもいいんですよー?」
「ほんとうぜぇ・・・。」
俺たちのやり取りを見て、みんなの空気が緩むのを感じた。レイがネコのボディを失ったので、冷静に考えれば戦力ダウンだ。
だが、もう大丈夫だ。
敵の密度はますます薄くなり、数十メートル先に、ホームから上の階へ脱出する階段が見える。ニックとリリィが視線を交わして笑い、サリーが剣を振りながら俺にウインクする。
もう大丈夫だ。
なぜだか分からないが、そんな気がした。
その時、ズンとひとつ、地響きがした。見ると、脱出しようとしていた階段から、大きな人影が下りてきている。
その人影をよく見ると、腕が4本生えていて、2本の槍を持っている。
さらに近づいていくと、その全身がベトベトの粘液でまみれているのもわかる。
どう見ても、俺たちが逃げてきたエキィーン・エリートだった。
大丈夫だと思ったのは気のせいだった。
背後を振り返ると、エキィーンの群れが退路を塞いでいる。しかし追ってくることはやめて、ただただ無数のエキィーンが道を塞ぐように整列し、こちらを見ていた。きっとエキィーン・エリートが彼らをコントロールできるのだろう。「お前たちは手を出すな、こいつらは俺が殺す」って感じだろうか。
目の前に、絶対勝てないから逃げてきた相手。
背後には、退路を塞ぐエキィーンの群れ。
ここは地下鉄のホームだから、壁を破って逃げることもできない。・・・そもそもリリィさんの爆弾も底を尽いているだろうけど。
サリーは愛用の剣を失って、今はエリートから奪った剣が1本あるだけ。
レイは身体を失って、俺は役立たず・・・それは最初からか。
状況を冷静に判断すると、いよいよ完全な手詰まりになったことに気がついた。
「あれ・・・いよいよ本当に詰んだ?」
俺の言葉に、レイが言う。
「詰んだですね。」
ニックも言う。
「詰んだな。」
リリィさんも言う。
「詰んだねぇ。」
イヌのバリィもついでに言う。
「ばうっ!」
そして、お願いだからその言葉を口にしてほしくない人、サリーも言った。
「・・・詰んだわね。」
エリートが憎らしいほど悠然と、のんびりした動作で槍を構える。
ニックはタバコを取り出し、リリィさんはしゃがみ込んでバリィを撫でた。サリーも刀を構えるが、素人目に見ても覇気が感じられない。戦っても勝てないことは、先の戦闘で彼女自身がよくわかっている。
だがその時、俺の耳にある音が聞こえた。それは線路の向こうから、規則正しいリズムで響いている。
タタン、タタン・・・
タタン、タタン・・・
そして、少しずつ、確実に大きくなっていく。近づいているのだ。
「・・・電車が・・・来るのか?」
「ご主人さま、ついに頭がおイカれになって・・・え、ホントに音が聞こえるですね?」
こんな無人の駅に電車が来るとは思えないが、もし本当に来るのなら・・・これは確実に最後のチャンスになるだろう。
俺は祈った。
どうか電車が来ますように。
マキちゃんは見つからなかったけど、どうか、みんなの命だけは助かりますように・・・。
俺の祈りが届いたのだろうか。それはやってきた。
タタン、タタンという音は徐々に重くなり、いつの間にかズシン、ズシンと鳴り響いている。規則正しく重低音を響かせて走ってきたそれは・・・
「・・・ゴリラ?」
鋼鉄のゴリラ、だった。




