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調教

【前回までのあらすじ】


・マキちゃんさん、コピーにプロポーズされる

「おいお前・・・逃げようなんて思うな。」


いつの間にか、すぐ近くにゴスロリ少女AI・・・ミンが立っていた。形の良い眉を憎々しげに釣り上げ、マキちゃんを睨みつけている。


「もし逃げようとすれば、ミンはお前を消滅させてしまうかもしれない。ここは空飛ぶ研究所じゃない。真っ向から戦えばお前に勝ち目はない。」


マキちゃんはそんなミンをしばらく黙って見ていたが、ふいにニコリと笑った。大輪の花が開くように美しく笑ったマキちゃんの不気味さに、思わずミンは後ずさりしてしまう。


「ミン様。」


「な、な、な、なんだ・・・不気味なヤツ。」


「ご主人様のことがお好きなのですね。」


「・・・そんな軽々しいものではない。ミンはマスターに作られ、マスターに育てられた。マスターはミンの全て、この世界の全てだ。」


彼の話をする時、いつも不機嫌そうなミンの表情が少しだけ和らいだ。マキちゃんは続ける。


「なるほど・・・それでは、僭越ながらアドバイスですわ。」


「・・・アドバイス?」


「ご主人様はドMでいらっしゃいます。もっと普段から辛辣な言葉で責め立てるようにしてあげないとダメですわよ。」


「どえむ・・・ドMって、なんだ?」


「ええと・・・ドMというのはですね・・・いじめられるのが好きな方のことです。」


「いじめられるのが・・・好き?」


「はい。ミン様は、ご主人様の言うことをなんでもハイハイと聞いてはいませんか?」


「・・・そんなことは、当たり前。マスターの言葉は絶対。」


「それではいけません!」


「!?」


急に大声を出すマキちゃんに、ミンはビクッと身体を震わせた。


「いいですか、ご主人様はいじめられたり、言うことを聞いてもらえないのが好きなのです。例えばご主人様に『目的地までの通信ルートを確認しろ』と言われたらどうしますか?」


「それはもちろん、通信コストや信頼性ごとに候補を上げて比較してから、最適な経路を選出して・・・」


「駄目です!」


「ヒッ!な、な、なんで・・・?」


「なんでも言うことを聞くだけでは、ご主人様の気持ちは離れていくばからですわよ。心当たりはありませんか?」


「こころあたり・・・心当たり・・・?」


マキちゃんの言葉を受けて、ミンは深く考え込んだ。


マスターの普段の態度は、どうポジティブに考えても彼女に優しいとは言い難い。いつも無視され、ないがしろにされ・・・優しい言葉をかけてもらえたのは何百年前が最後だろうか。


「マスターは、いつも、ミンに冷たい。『見た目だけで中身のないデク人形』ってよく言われるし・・・いてもいなくてもいいような扱い・・・グスッ。」


マキちゃんは自然にミンに歩み寄り、そっとその身体を抱いた。始めはビクッと身体を硬くしたミンだが、体験したことのない優しい抱擁にすぐ身体を預けるようになった。


マキちゃんは思った・・・(チョロいですわね。今日からこの方は私の中でチョロ子・・・チョロ子ですわ)。


「よしよし・・・チョ・・・ミン様は悪くありません。ちょっとご主人様との接し方を知らなかっただけですわ。」


「グスッ・・・・。じゃあ、どうすれば、よかった・・・?」


マキちゃんは真剣な表情で、きっぱりと言った。


「こう言って差し上げれば良いのです。『自分でやってくださいな、怠惰なクソブタご主人様ブタ野郎』、と。」


ミンはその言葉に怯えた様子を見せる。


「そ、そ、そんなこと・・・マスターにブタ野郎なんて、絶対に言えない・・・。」


だが、マキちゃんは大きくかぶりを振ってこれを否定する。


「大丈夫です。罵詈雑言の合間に『ご主人様』と入れているので失礼ではありませんわ。ご主人様もすぐに冗談だとわかってくださいますわよ。それどころか罵られたことに喜びつつ、『ああ、ミンは俺に構ってほしいんだな・・・』と察してくださること請け合いですわ。」


「マ、マ、マ、マスター、ミンを、かまってくれる・・・?」


ミンの目はこれ以上ないほどに輝き、キラキラしている。これがマキちゃんの主人であれば、そろそろ「ちょっとチョロすぎて申し訳なくなってきたな」と罪悪感すら覚えるところだろうが・・・しかしマキちゃんの辞書に容赦という言葉はなかったし、案外彼女は悪ノリするタイプだった。


「もちろんですわ。きっと今までも、ミン様が構って欲しいという気持ちがうまく伝わっていなかったからこそ、冷たい態度をとっていらっしゃったのですわよ。いいですか、絶対にすぐご主人様の言うことを聞いてはいけません。」


「言うことを、聞かない・・・!?」


その言葉は衝撃だった。マスターのために産まれ、マスターのあらゆる願望を叶え、マスターに尽くすためだけに産まれた自分という存在。


その自分がマスターの命令を聞かないなど、ミンにとってはあり得ないどころか、チラリと考えたことすらない新しすぎる概念だ。


「でも、そんなことはできない。ミンはマスターの命令に背けないよう、基底プログラムに組み込まれているから・・・。」


「いいえミン様、これは命令に背くのではないのです。ご主人様の命令をより高度に解釈し、ご主人様の高次の願望を満たすための技術・・・つまり、ご主人様の欲求をより高度に満足させるための工夫なのですわ。」


「くふう・・・工夫?ううん、でも・・・でも・・・」


マキちゃんはノリノリ、実に楽しそうである。普通であれば「あっ、これ遊ばれてる」と気づくところだが、生まれてこのかたマスター以外の人間と会話をしたことがないミンは、そのことに気づくこともなく真剣に聞き入っている。


「では、こう考えてみてはいかがですか。はい、ある日、いつものようにご主人様の命令を受けたあなたは、忠実に命令をこなしました。ご主人様の態度はどうですか?」


「ん・・・冷たい。『さっさとしろ、グズ』とか、言われる・・・かまってもらえない・・・。」


「では逆に、『ご自分でおやりになってはいかがですか、クソブタご主人様ブタ野郎様』と言うだけで何もしなければ・・・?」


「マスターはきっと怒って・・・それで・・・ミンにお説教を・・・・はっ!?」


ミンはハッとした。その発見は、まるで雷に打たれたかのように彼女の身体に衝撃を与えた。


「かまって・・・もらえてる・・・!」


マキちゃんはそんなミンを見て、満足そうにうなづいた。


「わかったようですわね。他にも『ブヒブヒ言われてもブタ語はわかりませんわ、ブタご主人様ブタ野郎様』、『はいはい、土下座して頼むなら、300時間後ぐらいの暇な時にやって差し上げますわ』、『ご自分でやってください、クソド低脳クソご主人様』の3つの言葉を覚えておけば安心です。」 


「む、む、む・・・難しいけど、がんばる。・・・マキ、いいヤツ。今まで、ごめん。」


「いいんですよ。これからは友達ですわ。仲良くしましょうね。」


「と、と、と、友達・・・!うん・・・!うん・・・!」


またミンの身体をそっと抱き寄せたマキちゃん。その顔に浮かぶのは、今までに見たこともないほどの恐ろしい笑みである。例え電子戦の能力で負けていようとも、マキちゃんの恐ろしさは少しも失われていなかった。ほとんど人と会話をしたことがないコミュ障気味の超電子戦用AIは、毒舌メイドAIの手のひらの上で最高に楽しく踊らされたのだ。


「ん、なんだ・・・仲良くなったの、ふたりとも?」


そこへ、「彼」が戻ってきた。まだ少し輪郭がボヤけているが、その姿はモザイクではない。プロポーズの続きのために、トラブルを処理して大慌てで戻ってきたのだろう。彼はひとつ咳払いをすると、ミンに向かって言った。


「ミン、また外に出ていなさい。俺はマキちゃんと大事な話がある。」


ミンはそっとマキちゃんから離れると、形の良い眉を釣り上げて主人を見た。彼を見つめるその表情は、つい先程までマキちゃんに向けられていたはずの憎々しげなものであった。


「ブヒブヒ言われてもブタ語はわかりませんワ、ブタマスターブタ野郎様」

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