電子化人間の話 2
「んー、よーし、いいぞ青年。君は天才だ。」
ドクはよくそう言って俺を褒めてくれた。
そりゃ自分がコピーだと知った時はショックだったよ。せっかくパソコンの中に入ったのに美少女の1人もいないし。
でもドクのことは嫌いじゃなかった。俺とドクは出会ってから1年ぐらい、ほとんど毎日トレーニングを兼ねたいろいろな実験をして過ごしたんだ。電子化人間の可能性を見極めるためだよ。
例えば、そうだね・・・
ある時は途方もない量のデータを解析した。
「ドク、これは・・・エロ動画か。え?これ全部?」
「ああ、私のコレクションだよ。」
「(なんで自慢げなんだこのジジイ)・・・多くない?あと人妻モノばっかりじゃない?」
「そうかね?量は普通だと思うが・・・」
「ああそう・・・で、これで何をすればいいの?」
「ああ、全ての動画からモザイクを消してくれ。もちろんこれは君のトレーニングと、学術的研究を目的とした重要な作業だ。決して手を抜いたりしないように。」
「ええ・・・俺は手を抜いたりしないけどさ、これ絶対あとでドクが抜」
「さぁ始めたまえ。さぁ早く。」
「はいはい。」
正直結構辛かった。人妻モノ、好きじゃないしね。メイドのコスプレものだったら良かったんだけど。ああいや何でもないです。
ある時はドクが作ったセキュリティシステムの突破を試みた。
「研究所のネットワーク室から、一番強力なファイアウォールを盗・・・借りてきたぞ。さぁ、これを突破して最奥にある最重要データを回収できれば君の勝ちだ。」
「よーし、昔の俺なら無理だっただろうけど、今の俺なら5分以内に突破してみせるよ。・・・ところで最重要データってなんなの?」
「動画ファイルだよ。ちなみにタイトルは『ぜったい人妻24時!熟れた果実の・・・」
「いや、タイトルは別にいいです。」
またある時は俺の力で新しいAIを生成を試してみた。言ってみれば、電子化人間が電子化人間を産む実験だね。これはとても難しくて、当時の俺では成功しなかったけど。
「さぁ頑張るんだ!君の力なら、何もないゼロの状態からAIを産み出すことだって可能なはずだよ!」
「ぐぬぬ・・・いやドク、いくらなんでも難しいよ。せめてスパコンとか量子コンピュータの補助があればイケるかもしれないけど・・・」
「なぁに、君ならそんなもの無くても大丈夫さ。さぁヒッヒッフー、ヒッヒッフーだよ?」
「ヒッヒッフー」
「ヒッヒッフー」
「いや無理だって。ヒッヒッフーの意味ないし・・・。」
最初の頃はまるで大したことはできなかったけど、慣れてくるにつれて俺の能力はどんどん向上していった。1年が経つ頃にはもう、自分でも信じられないほどの力を持つようになっていたんだ。
ほとんどあらゆる電子障壁を突破することができたし、痕跡をまったく残さずにどんなシステムにも侵入することができた。
生身の人間の時にはできなかったハッキングがいとも簡単にできるようになって、俺はもう電子の世界の神様にでもなったような気分だった。
「ねぇドク、俺ってもうアレじゃない?神、いわゆるゴッドってやつ。」
「いいや、君はまだまだ・・・ただの成長途中の若者だよ。」
「ええ?なんでさ。俺の能力は最強だよ?」
「ふふ・・・私にはわかるのだよ、君が未熟である理由が。どうしても知りたいというなら教えてあげなくもないが、知りたいかね?」
「・・・うーん・・・知りたい。」
「どうしても?」
「うん、どうしても。」
「ふふ・・・では教えてあげよう。それはね。」
「ごくり。」
「人妻の良さがわかっていないからさ。」
「聞いて損した」
なんかドクとはこんな話ばっかりだな。まぁいいか。
ドクとの毎日は楽しかったけど、不満もあった。あくまで俺は研究用のサンプルに過ぎなかったからね。
「モリサワ第072研究所?」
「そう、第072研究所の第4研究室、そこに設置された環境保全ケースの中の小さなサーバーに君はインストールされている。」
「ふぅーん・・・自分の物理的な場所って意識しづらいな・・・。」
「そういうものかね?まぁ覚えおいて損はない。ここは番号が072だからオナ研とみんなに呼ばれて親しまれているよ。」
「オナ研・・・。」
自由はなくて、地下にある研究所の小さなサーバーの中に厳重に閉じ込められていたんだ。大抵の電子防壁は突破できるようになった俺だけど、俺のサーバーは必要な時を除いてほとんど物理的にケーブルが切断されていた。これでは脱出のしようもないね。
どんなに力を付けても、物理的には銅線一本動かせない。電子化人間の悲しいところだ。そんな俺を見て、ドクは言った。
「いつか君を自由に、外のネットワークに出してあげよう。君を見て確信した。電子化人間は人類の新しい進化の形なのだと。」
「いやドク、自分で言うのもなんだけど、俺を自由にしたら大変なことになるよ。世界中のシステムに勝手に出入りしまくるし、二度と捕まらない自信もあるし。」
「はっはっは・・・そうしたら、私のために世界中から人妻モノの動画を集めてきてくれたまえ。世界一のコレクションが完成するぞ。」
「・・・俺よりもドクの方が危険人物な気がしてきた。」
ひどく不自由だったけど、特別に不幸というわけでもなかった。ただ、マキちゃんに会えないのは辛かったね。この姿を早く見せたかったのに、結局3000年以上かかっちゃったわけだし。
それに、俺はとてもドクのことを信頼するようになっていた。知っての通り、俺は試験管産まれだから親がいない。ドクみたいに自分を褒めてくれて、優しく面倒を見てくれる大人なんて初めてだったんだ。
そう、父親みたいに思ってたよ。最後までね。
うんそう、最後だよ。
始まりがあれば終わりがある。
俺はドクを殺さなければいけなかったんだ。
悲しいね。




