電子化人間の話
【前回までのあらすじ】
・主人公(電子)登場
「被告人を、冷凍睡眠200年の刑に処す。」
っというわけで俺は200年ぐらい冷凍庫に入れられることになったわけだ。俺からするともうずっと昔の話だけど、マキちゃんにしてみれば、ついこの間の話だね。
冷凍庫に入った時のことはよく覚えてるよ。次は捕まらないように、もっとうまくやってやるとかそんなことを考えてた。
で、次に目が覚めた時。俺は1人で真っ暗な空間にいた。
いや、少し語弊があるな。何も見えていなかったし聞こえてもいなかった。自分の身体が溶けたみたいに感じて、自分がスライムか何かになったのかと思ったよ。
悪いスライムじゃないよ!
いや、犯罪者だから悪いスライムか。
とにかくそうやって、ただ真っ暗に感じる空間の中を漂っていたんだ。苦痛はなかったけど、気を抜くと意識まで溶けていくみたいで焦ったよ。俺は死ぬのか、それとももう死んだのかと思ったね。
左腕に巻いてたはずのマキちゃんの存在は感じないし、そもそも声の出し方すらよくわからなかった。
冷凍刑ってのは、なんて恐ろしい刑罰なのかと思ったね。てっきり意識もなくなって寝て起きるだけだと思ってたのに、スライムになって200年。耐えられるわけないよ。
どれくらいそうやっていたのかは分からない。
ある時ふと、「数字を感じた」んだ。
どう表現すればいいのか分からないけど、とにかくゼロとイチが大量に流れていくのを感じたんだよ。それと同時に気がついた。
「俺は今、画面の向こうにいる」ってね。
ほら、よく言ってたでしょ。画面の向こうにの世界に行きたいって。二次元の世界に入り込んで、美少女に囲まれて暮らすんだ。そうすると決まってマキちゃんは
「ご主人様が二次元の世界に行っても100%誰にも相手にされないモブキャラですわ」
って言ってたじゃん?アレだと確信したね。まぁ、数字の流れを感じるだけで、美少女とかは一切出てこなかったんだけど。
そこからは割と順調だったよ。
原因は分からないけど、自分がAIのような電子状になっているんだとしたら。そう仮定すると、不思議な事に自分の存在を正確に知覚することができるようになった。自分を形作っているビット列の端から端までを手に取るように理解できるようになった。自分は今、どこかのコンピューター上で実行されているプログラムのひとつなんだということを把握した。
それと同時に、俺を観察しているヤツの存在も知覚できた。
そいつらの顔を見てやろうと意識すると、目の前にどこかのカメラの映像が浮かんできた。初歩的なハッキングだね。今まではキーボードをカタカタ叩かないとできなかったことが、意識するだけで簡単にできてしまうことがわかった。ヤツらはハッキングに気づいて驚いていた。俺は近くにあったスピーカーをハッキングして、ヤツらに話しかけてみることにした。
「あ、あの、あの・・・」
「なっなんだ?スピーカーの混線か?」
「・・・!信じられませんが、被験体14993号が話しているようです!」
「バカな、自我を維持するだけでなく、ハッキングを仕掛けてくるだと・・・!?そんなことが・・・」
「あ、あの、あの・・・」
「・・・やあ14993号。君と話ができて嬉しいよ。」
「14993・・・?いや、お、お、俺は・・・」
「どうかね、電子の身体は?」
俺と主に話をしたのは、メガネと白ひげのじいさん・・・ドクターとかハカセとかそういうあだ名が付きそうなじいさんだった。
物腰が柔らかくて思慮深い話し方をする、まさに研究者って感じの人だったな。
俺はドクから詳しい説明を受けた。そりゃもう酷い話だったよ。
「・・・人類電子化計画?その研究のために、お、お、お、俺は電子化されたんですか?」
「ああ、そうだ。済まないと思っているよ。」
「じゃあ俺の身体は、まだ生きてるんですか?」
「ああ、冷凍されている間にこっそりと脳のデータをコピーしたからね。君というコピーが産まれたことも知らない。」
人間をAIのような電子的存在に置き換える計画。
そういうのがあったんだってさ。当時の人間はナノマシンのおかげで不老不死。なんでもかんでもやりたい放題で、とにかくほとんど神様みたいになってた。でもそれだけじゃ飽き足らず、今度は電子の世界に入れるようにしようとしていたらしいんだ。人間ってのはどこまでも欲張りだよね・・・まぁそれはどうでもいいか。
とにかく彼らは人間の脳をスキャンして、電子データに置き換える技術を開発した。でも問題があったんだ。
電子データにされた人間は自我を維持できなくて、すぐに無意味なデータ列に崩壊してしまったんだってさ。そりゃそうだ、アレはキツイ。やってみた俺が言うんだから間違いない。人間はスライムにはなれないよ。
彼らはなんとかしてこれを成功されるため、大量のサンプルを必要とした。ひとりでも成功すれば、人間を電子化できる条件みたいなものが絞りこめる可能性があるからね。でもなかなかサンプルは集まらなかった。
そりゃそうだよ。自分のコピーを作られて、そいつが自我の崩壊を起こすところを見たい人なんていないからね。特に当時は人権意識がやたらと高かったから、コピーとはいえ人格のあるものを表立って実験に利用することは難しかったんだ。
そこで彼らが目を付けたのが、冷凍刑にされた人間だ。
凍っている間にこっそりと運び出し、脳のデータをスキャンして戻す。もちろん、国もこれを黙認する。っていうか元々国が主導している計画だからね。黙認するに決まってる。
これなら誰にもコピーの存在を気づかれないし、コピーが自我の崩壊を起こしても気にする人間はいない。最悪、この情報がリークされても、まぁ「どうせ犯罪者だし」っていう逃げ道がある・・・といえなくもない。そんな感じの計画だ。酷い話だね。
こうして産まれた記念すべき「電子化人間第一号」が俺だったってわけさ。
ここまではいい?
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「彼」の話を黙って聞いていたマキちゃんは、驚きのあまり言葉を失っていた。
あまりにも突飛で、荒唐無稽な話である。
しかしかつて冷凍施設に侵入した際に、その裏付けとなるデータを入手していたのも事実だ。主人は知らぬ間に一度解凍され、そしてまた知らぬ間に再冷凍されていたのだ。
辻褄は合う。
だが同時に、困惑も産まれた。この話が本当なら、彼はつまり本物の主人である。コピーではあるかもしれないが、それでも主人その人であることは変わらないのだ。
主人が2人存在している。
その事実をどう受け止めていいか分からず、マキちゃんはただ困惑するばかりだ。なんと言って良いのかわからなかったが、なんとか言葉を絞り出す。
「それで・・・私の知っているご主人様より、ずっと自信に満ちていらっしゃるのですね。こんな世界になっても、『電子化人間』としてたくましく生き延びていらっしゃったのですか・・・。」
そんなマキちゃんの言葉を嬉しそうに聞きながら、「彼」はボソリと言った。
「マキちゃんにそう言われると嬉しいな。まぁ、大変だったけど・・・自業自得といえば自業自得だから、ね。」
「・・・はい?」
「世界をこうしたのは、俺なんだ。」
ようやく話が核心に近づいてきました。
予定では100話ぐらいでここまでくるはずだったのに・・・。




