4-25 貧乏令嬢の花婿探し ~なぜか、悪役令嬢に溺愛されるなんて聞いてませんけど!?~
貧乏貴族の家に生まれた私、アーシェ・エトワルの役目。
それはずばり、大貴族の子息を婿にもらうこと!
大好きなエトワル子爵領のみんなの為にも。
王国の魔法学校で、素敵な貴公子をゲットするぞ!!
そうして入った魔法学校で、憧れのレオン王子に出会えて舞い上がる私。
……と思ったら、王子の正体は公爵令嬢のイザベラだった。
彼女が言うには。
ここは乙女ゲーム【なんとか魔法学園】の世界で、選択を間違えると滅亡エンドが待ってるんだ、って。
しかもその選択のカギを握る主人公というのが、どうやら私らしい。
「つまり、あなたはわたくしとずっと一緒にいる運命なのですわ」
頬を染めながらさらりと言うイザベラ。
おまけに、本物のレオン王子や宰相と剣聖のご子息、学校の先生までゲームと関係があるみたいで。
……私の学校生活と花婿探しは、いったいどうなっちゃうの……?
突然ですけど。
なんで私、銀髪の超絶美少女に抱きつかれてるんでしょうか。
しかも、この感じ。
泣いてるよね? なんで?
「あ、あのー……どうしました?」
美少女が私を見上げた。
その目はどこかとろんとしている。
「ああ、目の前に憧れの主人公がいる……しかもゲームと同じ姿に成長して…………。夢みたい」
「えっ、えっ、えっ?」
「わたくし思うんですの。悪役令嬢が主人公をいじめる必要なんて、ありませんわよね。むしろ……」
銀髪美少女は私から離れると、胸の前で手を組みながら目を輝かせて私を見つめる。
動くたびに彼女からはとってもいい匂いがする……。
「主人公と悪役令嬢が結ばれてもいいんじゃないかしら? って!」
「……はい?」
「そうよ、わたくしたち二人で、真のハッピーエンドを作り出すのよ……!」
「いやいや、ちょっとよく意味がわからないっていうか……」
銀髪美少女は、冗談を言っているようには見えない。本気の本気で言っているようだ。
ええと……つまり?
あの……そういうこと?
だけど、私、私……。
『花嫁』は募集してないんですけど!!!!
◇
――――1時間前。
馬車の外が草原から森へ変わって、窓に自分の姿が映る。
家で何度も確認したから服装におかしなところはない……はず。
編み込んだハーフアップのストロベリーブロンドは、制服に合わせた赤いリボンで結んである。
お父様に似たエメラルドグリーンの瞳を綺麗に見せるためまつげを長くカールさせたし。
唇の色もつやつやの桜色にしてみた。
王都の流行を取り入れて、私史上、一番かわいい私になってる。
――これなら、田舎者ってバカにされないよね?
「ははは、大丈夫だアーシェ。かわいいよ」
「本当に?」
「本当だとも、アーシェは領内では一番の美人だ。なにせ、あのグラン号よりもかわいいからなぁ」
あの、お父様?
私たちの子爵領って……人間より牛とか馬とかの方が多いよね? あと『グラン号』ってお父様の馬の名前だよね?
思わず突っ込みそうになったけれど……ぐっとこらえた。
「あ、ありがとう、お父様!」
「これなら、魔法学校卒業までに大貴族の子息くらい簡単に捕まえられるだろう!」
「任せてお父様! お父様とお母様が安心できるくらい、素敵な貴公子を捕まえてきます!」
「ははは。頼もしいなぁ」
うちのエトワル子爵家は、王国でも指折りの貧乏貴族だ。
そんな貧乏貴族の娘である私の使命は、大貴族と結婚して玉の輿に乗ること!
なんてったって、貧乏貴族にはそれしかないんだもの。
「貴公子といえば……確か第三王子のレオン様が、今年から魔法学校に入学するって聞いたなぁ」
「えっ!?」
レオン様といえば……幼い頃、父に連れられて王城に行ったときに何度か遊んだことがあるんだよね。
青みがかった銀髪で、涼し気な目元をした少年。
お人形さんみたいに綺麗でかわいくて……素敵だった。
「レオン様……」
彼の事を思い出すだけで、胸がきゅうっと締め付けられた。
「おやおや。アーシェはレオン様が気になっているのかな?」
「……そ、そんなことありません」
私はスカートをぎゅっとつかみながら、満面の笑みで応えた。
「はは、隠さなくてもいいんだよ」
「もう。お父様ったら! からかわないでください!」
「いや、私はアーシェの幸せを願っているんだよ」
「お父様……」
優しく微笑むお父様につられて、私も微笑み返す。
でもこの恋は絶対に叶わない。
だって彼はすでに『婚約者』がいるらしいのだ。
「大丈夫です。私は自分やるべき事をやるだけですから!」
お父様もお母様もお祖父様も優しいし、使用人たちも村のおじいちゃんもおばあちゃんも、みんなみんないい人ばかり。
だから私は、エトワル子爵領が大好きだ。
お金持ちになって、みんなに楽をさせてあげたい! そのためには、まずは魔法学校を卒業して……それから大貴族の子息と結婚して……。
よしっ! 私、頑張る!!
鬱蒼と茂った森の中を抜けると、そこには整備された美しい街道が通っていた。
「……うわぁ、すごい……」
「王都に続く道だからね」
「そうなんだ……よし!」
私は馬車の中から青空に向かって大きく手を伸ばす。
「真昼の星に誓うわ! 私は必ず、素敵な花婿を捕まえてみせます!!」
◇
――そうして到着した王立魔法学校。
王国の魔法使いの卵たちが通う教育機関で、基礎的な学問から専門的な学問までを学ぶことができる場所。
貴族や王族は魔力を持つものばかりだから、十五歳になったらほとんどこの魔法学校に来るんだよね。
「アーシェ、頑張るんだよ」
お父様はそう言うと馬車に乗り込み、私に手を振りながら帰っていった。
その後ろには、数台の豪華な荷馬車が連なっている。
我が家の馬車って、普段はお野菜や小麦などを売りに行くためにも使ってるし……見るからにガタがきているから、あんな風に並んでるとすごく……悪い意味で目立つなぁ……。
それにさっきから私も、ちらちらと周囲から見られてるみたい……。
きっと、あの馬車から降りてきたのはどんな娘なんだろうって思われてるんだろうな……。
はぁ、貧乏って悲しいね……。
「………よし、魔法も花婿探しも、全力で頑張るぞ!」
心の中だけで気合を入れたつもりだけど、つい大きく叫んじゃった。
すぐ後ろからくすくすと笑う声が聞こえてくる。
「あ……」
うわぁぁぁぁぁぁ、しまった……。
恥ずかしい……。
「あはは、さすがこの世界の主人公だね。本当に何をしてもかわいいなぁ」
「え……?」
恥ずかしさに顔を覆いながら振り返ると、そこにいたのは私よりも少し背の高い男の子。
柔らかそうな美しい銀色の髪に、優しそうな青い瞳。
そして、雪のように白い肌。
お人形さんみたいに整った顔立ちで、まるで絵本の中から出てきた王子様みたい!
「あ……あの……。えーと……?」
「僕のこと覚えてる?」
「ご、ごめんなさい……わからないです」
「あはは、いいよいいよ」
彼は私の前で片膝をついた。瞳がきらきらして……なんかいたずらっぽい感じ。
「会えて嬉しいよ、僕のお姫様!」
彼は私の手を取ると、小さな音を立てて手の甲にキスをした。
きゃー! なにこの展開!??
「はは、びっくりさせちゃったかな? ごめんね」
「ううん、大丈夫……」
手の甲に触れた彼の唇の感触が、いつまでも残っていて離れない。
まるでおとぎ話の王子様みたい……。
王子様…………ん? あれ?
「……もしかして、あの――――。……レオン……王子様ですか?」
「思い出してくれたかな?」
「は、はい!」
彼はにっこり微笑むと、私の手を包み込んだまま立ち上がる。
わわっ! あの可愛かったレオン様が、こんなにかっこよくなってるなんて!! なんだかドキドキしちゃうんだけど……!? あ、あれ……?? でもどうして王子様が私の手を?
公爵家のお姫様と婚約したってウワサよね? それと主人公って何の話??
うわわわわわ、どうしよう。恥ずかしさと緊張で頭が混乱してきた。
「ああ、ごめんね。困らせちゃったね。キミがあんまり可愛かったからさ」
レオン様は楽しそうに笑う。
その笑顔は私が今まで見たどの男の人よりも素敵で……。
「ちょっと待ってくれ! 騙されるな、アーシェ!!!」
レオン様の向こうから現れたのは、背が高くて髪の長い男の人。
青みがかった銀色の髪に青い瞳で……。
って、え……ええ!? 王子様が二人……!??
「そいつはレオンじゃない!! おい、お前、僕のアーシェにそれ以上近づくな!!」
え……。
どうして私の名前を知ってるの? それに……私の事を『僕の』って言った??
「ど、どういうことですか、レオン王子様?」
「違うんだ。今そこにいる子は僕の幼馴染み、イザベラ・ネル・フォロワ公爵令嬢だよ」
「ええっ!?」
イザベラ公爵令嬢って確か、レオン様の婚約者だよね。
どういうこと!?
「はぁ……すぐばらしちゃうんですのね。本当につまらない男ですわ」
レオン王子を名乗った男の子の服が私と同じ女性用の制服に変わっていく。
銀色の髪も、いつの間にかふんわりカールしたロングヘアに変わっていって……わわ、もしかして変身魔法だったの?
私が驚いていると、彼女がぎゅっと抱きしめてきた。
……どうやら、泣いてるみたい?
「あ、あのー……どうしました?」
「ああ、目の前に憧れの主人公がいる……しかもゲームと同じ姿に成長して…………。夢みたい」
彼女はよくわからないことをつぶやいた。
◇
――――そして現在。
「おい! 僕のアーシェから離れろ!」
「はぁ? アーシェちゃんは私のなんですけど!?」
なんか口論していらっしゃいますが、お二人は婚約してるんじゃないの?
訳が分からないけど、とにかく立ち去ろうとしたら、
「待って、僕のお姫様!」
「待って、私のお姫様!」
左と右から手をつかまれて動けなくなってしまった。
おかげで周囲からはさらに注目されて……なに、この状況!
ううう。
私の花婿探しと魔法学校生活は、いったいどうなっちゃうの……?





