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4-19 没落聖女 GO TO HEEEEEEELL!!!!



色々あって乙女ゲームの世界に転生しちゃった私(家事手伝い)とお兄ちゃん(26歳:職業足立区喧嘩自慢)

必死こいて何とかハッピーエンドに辿り着きそうだったのに婚前パーティーでやらかしちゃってもう大変! ほんと死んで!

ちょっとお兄ちゃん!? 聖女のくせに大麻キメてる場合じゃないってば! お前はどうでもいいけど、推しのヴィル様もお前の所為で処刑台送りなんだよ!

でも私負けない! 絶対にヴィル様とハッピーエンドに辿り着いてみせる! 足立区の女の強さ、ナメんなよ! 新感覚! 足立区転生反社聖女ラブコメ、ここに開幕!


【第1話:ここは足立区ではない】



「お兄ちゃん。そろそろダンテ様と会う時間だから準備して──」


「マジィ? ちょっと待てよ。今、一服つけたばかりだから」


「ちょっ──!? 聖女が昼間から大麻キメててどうするのよ!?」


 乙女ゲームの世界に転生したら他にもっとやる事があるだろうに。

 真っ赤に充血した目の焦点があっていない幸が薄そうな少女が机の上に足を乗っけて水パイプを咥えている。没落聖女、イルマリア。このゲームの主人公。そして、私の兄という立場のチンピラが転生した先である。


「ここは足立区じゃないの! シルヴァラント学園なの! ちゃんとこの世界のルールは守ってって言ってるでしょ!」


 私も兄も元々この世界の住人ではない。

 ここは私が生前プレイしていた「プリンス・ウィズ・シルヴァラント」の世界だ。

 シルヴァラント王国の魔法学園で自国の皇子や各国の皇子と愛を育んでいく話である。

 発売日から不眠不休でプレイしていた健気な私は、兄の命を狙ったチンピラがダンプで家に突っ込んできてからの記憶がない。

 きっと死んで転生したんだろうなと予測している。でも神様。こんなのあんまりじゃないですか。

 悪辣非道に生きた兄がイルマリアに転生できて、何で慎ましやかに生きてきた私の転生先がイルマリアの使い魔の猫なんだよ。


「ルールつったってよォ。これこの世界ではタイムァって薬草だぜ。法で裁けなきゃ罪じゃねェんだよ」   


 聖女に転生しても中身がチンピラなのは変わらない。

 だが、こんなゴミをあの手この手を使ってここまで導いた私の苦労もやっと今日で終わる。聖女イルマリアはBADENDになると幽閉か死ぬ事はプレイしてわかっていたので、早々に暴力で学園を支配しようとした兄を必死に説得し、


「つか、何で俺があんなフニャチン野郎と結婚しなきゃなんねェんだ」


 やっとこの国の皇子、ダンテ様との婚姻にこぎつけたのである。

 実質ハッピーエンド寸前だ。

 ゲームの中であるなら、最後に学園の仲間達と婚姻前の最後の夜を過ごしてEDに突入である。

 

「独房に入りたくないんでしょ? 我慢しなさい」


「ならせめて、妹ちゃんに手ェ出しちゃダメか!? 舐めあいっこぐらいなら──」


「ダメに決まってるでしょ! 明日お兄ちゃんの結婚する相手の妹なのよ!?」


 倫理観もクソもない男である。

 前世の姿は田井中莉鬼也。両親のつけた名前に相応しい人生を彼は歩んでいた。

 26歳。職業は「足立区喧嘩自慢」という足立区内だけで持て囃されるこの世に存在してはならない職業だ。この兄とイカれた両親を持った所為で、私は殆ど学校にも行けずにずっと家に引きこもってゲームをしていたのだ。引きこもりが一番社会性がある家族っておかしくない?


「っしゃぁねェ。とっとと済ませてくるか。いいか? アリエル。俺は絶対ェ男とキスなんかしねェからな!」


「本名で呼ばないで! この世界ではリリアンって呼んでって言ってるでしょ!」

 

 私の元居た世界の名は田井中泡姫アリエルだ。

 Vtuberで何度も転生を繰り返している元メンエス嬢の母親と人生で数回しか会った事のない全身和彫りのおじさんがふざけてつけた名前だ。

 そんな言い合いをしていると、私達の居た学生寮のドアがノックされた。


「イルマリア。開けるよ」


 入って来たのは背の小さい金髪がくるっくるでふわっふわな男の子だ。

 私の推し、ヴィル様である。儚げで弱弱しい外見だが、芯は強く男気もある素晴らしい男性だ。イルマリアの幼馴染で、貴族だが没落した我が家を見捨てるわけでもなくずっと寄り添ってくれた最高の男である。

 

「アリエル。今日も君は元気そうだね」


 思わず近寄ってしまった私の喉をわざわざ屈んで撫でてくる。

 しゅきぃぃぃっ~~~~~~~~~~~~~~~~~~!!

 ヴィル様にだけなら本名呼ばれても全然許せるどころかむしろ呼んで欲しいっ~~~~~~~!!

 

「おう、モヤシじゃん。来てくれたのか」


 兄はヴィル様の事をモヤシと呼ぶ。端的に言えば死んでほしい。


「うん。明日はダンテ様との婚姻の儀だろ。最後に二人でちょっと話をしたくて」


「周りがうるせぇからよぉ。肩肘張らずに話せるのはお前だけなんだよ。結婚してからも遊びに来いよな」


 私が厳しく指導したので兄は外ではきちんと聖女として振舞えている。

 だが、ストレスがたまり過ぎて他の攻略キャラを殴り殺そうとしたので息抜きとしてヴィル様の前だけでは素でいいと許可を出した。ヴィル様は優しさの塊なのでこんな邪悪なゴミクソ聖女ですらも受け入れてくれるだろうと信じていたからだ。


「それはできないよ。君はダンテ様の妻になるんだ。不貞なんて疑われたら、2人とも処刑台送りだよ」


 確かにこのゲーム異様に厳しいのだ。選択肢一つで処刑台送りなんてザラだった。

 そしてヴィル様は兄の手を握って跪いた。


「──僕は所詮田舎の貴族。だけど、君の幸せをずっと祈っている」


 切な過ぎるだろうヴィル様。私が仕組んだ事なんだが。

 私がイルマリアに転生できていれば、絶対にヴィル様を選んだのに。

 こんなゴミクソ聖女のファッキンハッピーエンドに彼を巻き込みたくなかったのだ。

 一生、推します。愛しています。


「ま、ダルかったら即離婚するわ。そうしたら二人で組んでタイムァを領地で大量生産しようぜ。異国で良い銘柄を見つけたんだ」


「君は本当に子供の頃からタイムァが好きだね。わかった。約束する」


 ダメェヴィル様! こんなゴミクソ聖女と組んだら人生終わっちゃう!

 絶対に離婚なんかさせない。兄を皇族に仕立て上げて何とかしてヴィル様の使い魔になる。

 次のライフプランが決まった。



▲▲▲▲



 うぉぉぉぉん。頭が痛い。

 猫なのに頭痛が起きるとは思わなかった。

 昨晩は、街中にあるダンテ様の別邸で全攻略キャラを集めた最後のパーティーが開かれたまでは覚えている。兄も聖女らしくきちんと振舞っていたので、安心してヴィル様のまたぐらで寝ようとした事だけは覚えているが、ヴィル様の姿はない。

 伸びをして意識をハッキリさせると、凄まじい惨状が目の前に広がっていた。


「マジ……?」


 思わず声を出してしまう。あの綺麗で美しいダンテ様の別邸が荒れ果てていた。

 机はなぎ倒され、料理は床に散らばっている。窓ガラスも割れていた。何が起きたんだろう? こんなイベントはなかった筈だ。EDまで後4回ぐらいボタンを押したら終わりな筈だったのに……。


「う…………ん…………」


 異国の剣客、リシルド様が床にうつ伏せになって呻き声を上げた。

 彼も攻略対象だ。チャラくて筋肉質で銀髪色黒マッチョだが足立区臭がして私は好きじゃなかった。全裸でケツの穴に酒の瓶が刺さっている。どうやら襲撃とかではなさそうだ。もしや──と嫌な予感が頭をよぎる。

 

(お兄ちゃん! お兄ちゃんってば! どこにいるの!?)


 使い魔と主人は魔力で繋がっているので念波で会話ができ、大まかな位置もわかる。

 話しかけてみたが返事はない。変な感覚も流れてこないのでラリっては無さそうだった。

 たたっと猫特有の俊敏さを利用して屋敷の中を走る。兄の居る部屋はすぐにわかった。客間だ。そこに入ると──


(何 し て く れ ち ゃ っ て ん の コ イ ツ !?)


 客間のベッドで兄(聖女の姿)が全裸で寝ている。

 傍らでこれまた全裸で座り込んでいる女が最悪だった。ダンテ様の妹──アイラ様である。

 アイラ様は私に気づくとササっと脱ぎ捨ててあった服を着て「内緒よ」と妖艶に微笑んで何事もなかったかのように出て行った。怒りに震えた私は、兄の顔を引っかいて無理矢理夢の世界から帰還させた。


「ンだよ……。折角最高の夜だったのに……」


「お兄ちゃんどうなってるのよ!? 途中まで普通のパーティーだったのに、何でこんな惨状になってんの!?」


「あァ……。今まで散々我慢してきたしな。最後にちょっとはっちゃけようぜって事でさ。旅行で仕入れた異国のタイムァをキメたんだよ。んで、ダンテにもやれって言ったらアイツ断ってきてさ。ノリが悪ィと思って皆が飲んでた飲み物に混ぜたんだよ。楽しかったぜ。朝まで街でバカ騒ぎして最高の夜だった」


 油断した。こいつがどうしようもないチンピラだという事を忘れていた。

 中学生で売春組織を立ち上げていた男がまともなわけがないのだ。

 ヴィル様のまたぐらに固執し過ぎた。


「お兄ちゃん……。アイラ様とも寝たの?」


「えっ。マジ? あれ夢じゃなかったのかよ。キマり過ぎてて夢だと思ってた」


「……外の惨状を見て来なさい」


「あァ……? ったく、だりィ……」


 私にも落ち着く時間が必要だった。これから先のプランを考えなくてはならない。

 後少しでハッピーエンドだったのに。この惨状も不味い。今晩は婚礼の儀なのに。アイラ様と寝たのも不味い。今晩は婚礼の義なのに。結婚前夜にやる事じゃない。本当に兄が人間なのか疑わしくなってくる。一時間ほど悩んでいると兄が戻って来た。水パイプを抱えて、子供のように瞳が輝せながら言った。

 

「ちょっと来いよアリエル! ダンテとヴィルの奴、ラリって国王のドラゴンかっぱらってきてるぜ!」


 こんなん処刑台確定じゃん。

 でも、ここまで来たらもう引けない。

 全部誤魔化して何としてでもハッピーエンドに辿り着いて見せる。

 待っててヴィル様。貴方だけは絶対に救って見せるから!

 

【第2話:国王暗殺計画に続く】

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― 新着の感想 ―
[一言] 【タイトル】没落聖女が「GO TO HELL」するのかさせるのか。タイトル単体では分からない。 【あらすじ】乙女ゲームの世界にGTAシリーズのキャラクターを突っ込んだ感じ、だろうか。お兄ちゃ…
[一言] とんでもない兄だw >端的に言えば死んでほしい。 アリエル、実際現世で巻き込まれて死んでるし、ものすごい迷惑を被ってるからね。そう思ってしまうのもわかる……。不憫。 しかし、ここからどうやっ…
[良い点] テンポ良くスラスラと読めて面白かったです。 [気になる点] どうして推しのヴィル様は本名のアリエル呼びをしているのでしょう? 兄(イルマリア)がいつもそう呼ぶからでしょうか? [一言] 自…
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