3-16 引きこもり魔法少女の異世界放浪記
ひょんなことから魔法生物を拾ってしまい、魔法少女として謎の組織と戦うことになってしまった推し活が趣味の陰キャ女子高生、細谷千咲。
敵との戦闘中に不幸にも異世界に飛ばされてしまう。
得意の魔法で異世界無双──かと思いきや、重要な問題が……。コンセントがないのでステッキの充電ができない!? 現地住民の協力を得られたものの、勇者として魔王と戦う役目を押し付けられて……? 千咲は残った魔法でピンチを切り抜け、無事元の世界に帰ることができるのか!
異世界×魔法少女のバトルコメディー!
「うーん……ここ、どこだー?」
鬱蒼とした森の中で私は呟いた。
人生というのは数奇なものだ。捨て猫かと思って拾った生物が実は魔法生物で、魔法のステッキを与えられて謎の組織と戦うことになったり、敵と戦っていたら、いきなりこんな見たこともない異世界のような場所に飛ばされたりするなんてこともよくある。……ないか普通は。
落ち着くためにとりあえず呟いてみたものの、もちろん私の疑問に答えてくれる者はなく、代わりに足元をどちゃくそ大きなムカデのような虫けらが這っていって流石に嫌悪感をおぼえた。
早く帰ってゲームがしたい。
「ま、なんとかなるでしょ」
と自分を勇気づけながら周囲の探索をすることにする。日が暮れる前に森を抜けるなり、誰か人に会わないとヤバげなモンスターが出てきて本格的に詰みそうだ。いつもやたらと口うるさい魔法生物は、転移したときにはぐれたのか見当たらないし、充電式のステッキはいつまでもつか分からない。
私が意を決して歩き出そうとした時、ふと前方から地響きのような音がし始めた。何かデカいもんが来るのかもしれない。逃げるか、戦うか、そもそも異世界の生物相手に戦えるのかと悩んでいる間に、ものすごい勢いで走ってくる人影が見えた。どうやら私くらいの年齢の女の子のようだ。
女の子は私の姿を認めると必死の形相で叫ぶ。
「逃げて、スタンピードです!」
「へ? なんて? スタンピィ?」
それはあの、トイレの便器の中にくっつける感じのものだったりするのでしょうか? が、間もなくそんな可愛いものではないということは分かった。女の子の後ろから数体の巨人が追いかけてきたのだ。身長5メートルはありそうな巨体に黒い肌、血走った一つ目、大きな牙と手に持ったデカい棍棒。見るからに恐ろしいモンスターである。
「グォォォォォッ!!!」
モンスターが咆哮する。
こういう時はだいたい言語が通じる方につくといいと死んだおじいちゃんも言っていた(言っていない)。すっかり戦い慣れてしまった私の体は即座に反応した。モンスターに向かって走り出しながら、ステッキのスイッチを入れて叫ぶ。
「変身!」
途端に私の全身をピンク色の光が包んだ。そして、体から四肢にかけて順々に変身が完了していく。白ベースの半袖のセーラー服のような衣装にミニスカート(スパッツを履いているので派手に動いても見えない)は小さな女の子や大きなお友達が好きそうなコスチュームだと思う。だが、変身をすることで身体能力は飛躍的に向上する。どういう仕組みなのかは分からないけど。
私は女の子を捕まえようと腕を伸ばす巨人の懐に飛び込むと魔法のステッキを振るう。
「マジカル☆ソード!」
ステッキから伸びた光の刃が巨人の腕を音もなく斬り落とす。
「グギャァァァァァッ!」
苦悶する巨人。まあ、すぐに楽にしてあげることにしよう。
振るわれた棍棒を体勢を低くしながら掻い潜ると、飛び上がって目ん玉を一突き。巨人はどっと倒れる。振り向きざまに別の巨人の胴体を真っ二つ。すると残りの一体が逃げ出したので、追いかけて魔法を放つ。
「マジカル☆フレイム!」
ステッキの先から放たれた無数の火の玉が巨人の背後から襲いかかり、瞬く間に火だるまにした。
「ふぅ……」
あっという間に三体の巨人を片付けた私が変身を解くと、すぐに助けた女の子が駆け寄ってきた。よく見ると、その姿は人間に似ているのだけど、頭にはウサギの耳のようなものがついているし、人間じゃないのかな? ポンチョのような服装がどこぞの民族のようでよく似合っている。
「お強くてびっくりでした……助けていただいて、ありがとうございました」
「私もびっくりした。なにあれ?」
「トロルです。群れからはぐれた個体みたいで」
「ふーん、見た目的にてっきりサイクロップスかなにかかと思ったよ。まあ、あの程度なら組織の怪人の方が手応えあったかな」
「『巨神』サイクロップスと戦ったことあるんですか!?」
ウサ耳の女の子は何を勘違いしたのかめちゃくちゃテンションが上がっている。多分、私の戦ったサイクロップスとこの子の想像してるサイクロップスは違うんだと思うけど。
「2回くらい倒したかな」
「倒した!? サイクロップスを!? やばめむりめ!」
「それほどでもないよ」
「ありますって! 兎人族の精鋭兵一個師団を、簡単に全滅させたんですよ?」
「それは災難だったね」
それより早く家に帰らないと……見たいアニメがあるのに。
「旅人さんは本当にお強いんですね! あの、あたし〇※△✕■♡って言います」
「は? なんて?」
「あたしの名前、〇※△✕■♡です」
ちゃんと日本語で話してくれてるのに、名前と思しき部分だけよく聞き取れない。これが異世界クオリティか。変なところで不便にならないでいただきたい。
「ごめん。耳がバカすぎて」
「〇※△✕■♡……です」
何度も言ってくれるので申し訳なくなって耳を澄ますと、どうやら『むぁれみなぁ』みたいな発音をしてることが分かった。私にしてはよく頑張った方だと思う。
「ミナって呼んでいい?」
「はい! 結構です!」
むぉれみなぁ改めミナはそう言って微笑む。
「私の名前はね。細谷千咲」
「へ? なんですか?」
「だから、ほそやちさき」
「んー?」
可愛らしく首を傾げるミナさん。これは聞き取れてないな。
「ほそや! ちさき!」
「ぎょうざ! ちまき!」
おい、むぉれみなぁ。私の名前はいつからぎょうざちまきになったんだ。
「もう、サキでいいよ」
「はい! サキさん! 変な名前ですね」
「はっ倒すぞ」
省略すると分かるのね。なんだ、私と同じレベルの脳みそみたいで安心した。
「さっきの戦闘の時から気になってましたけど、サキさんってもしかして……魔法が使えるんですか?」
お互いのあだ名が決定したところで、ミナがいきなり話題を変えてきた。
「まあ、魔法少女だし」
ただし充電式ですけど。まあ、弱点でもあるそのことをミナにバラす気はない。まだ信用してないし。
「ふぁっ!? まざいんご!? ありえんちまきがうまい!」
「今度はどうした?」
現地語か?
「いえ、まさか本当に魔法が使えるなんて! 驚きさんしょのちまきです!」
なんだ、ただのちまき好きか。
「魔法少女が魔法使えなかったら詐欺で訴えられない?」
「魔法少女? っていうのはよく分かりませんけど、魔法が使えるのなんて魔王くらいかと思ってました……」
「よく気づいたな。我が魔王だ」
「ぱらっぽぅ!?!?!?」
ミナはこんらんしている!
どうやら、この世界では魔法が使える生物というのは超レアらしいね。可哀想なので、これ以上からかうのはやめて、ありのままのことを話すかぁ。
「ごめんさすがに冗談。実は私ずっと遠い場所の出身で、帰り方が分からなくなっちゃったんだよね」
「どおりで服装も名前も変だなと思ってました」
「はっ倒すぞ」
「もしかして、ゴミ帝国の出身とかです?」
「いい度胸じゃん。誰がゴミだって?」
そういう名前の国があるならすみません。
「もっと遠く。異世界って場所」
「イセカイ……?」
ほらぁ、言っても分からないでしょ。あまり混乱させるようなことは言いたくないんだけど、この状況自体が大変カオスなのでこればっかりは仕方ない。しばらく混乱するミナの様子を眺めていたのだけど、いきなり彼女は「ばよえーん!?」とバカでかい声でシャウトしながら見た目と違わぬウサギのようなジャンプ力でぴょんと飛び跳ね、その場に華麗なるジャンピング土下座を敢行してきた。
「なにしてんの?」
「勇者様! どうか我らの村を──世界をお救いください!」
「すみません人違いですぅ」
「いえ! 異世界から来た魔法を使う耳ナシの人間……予言の書に記された勇者様に間違いありません!」
「すみません人違いですぅ」
ウサ耳はないけど、耳ならちゃんとあるし! どちらにせよ勇者に祀り上げられて厄介事に巻き込まれたくない。あまり長引くと週末のイベントに行けなくなるし、なによりも異世界ではコンセントがないのでステッキの充電ががが……! 端的に言うとはやくおうち帰りたい。
「そんなこと言わずに、あたしたちを助けてくださいよぉ」
「さっき助けたじゃん」
「あれははぐれ個体なんです!」
「私さ、元の世界でも謎の組織と戦ってて、ここで油売ってられないんだよね」
とかそれっぽい理由つけて逃げよう。
「でも、帰り方が分からないんですよね?」
「まあね」
「手を貸してくださったらお礼に兎人族の総力を上げてサキさんを元の世界に帰す方法を探します!」
「うーん……」
とはいえ他に頼れそうな当てがあるわけでもない。私はチラッとステッキの充電を確認するとまだ半分以上残ってる。魔法生物にバッテリーをニッケル水素からリチウムイオンに変えてもらってよかった。あとは、この充電がなくなる前にバッテリーを充電する方法か、元いた世界に帰る方法を見つけられれば良いということか。それに困ってる人を見捨てるのは気分が良くない。
「……週末のイベントは諦めかなぁ」
「はい?」
「ううん、こっちの話。わかった。村を守ればいいのね?」
「そうですね。とりあえずは」
「『とりあえずは』?」
「びびでばぁ!? 嘘です嘘! 守っていただけるだけで大変ありがたいのですます!」
「なんやこいつ」
色々モヤモヤするところはありながらも、私は兎人族の村を助けることになったのだった。





