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三八三年 動の十日

 訓練が始まった。

 今回の訓練生は三年目と四年目なので体力はあるだろうという判断で、ジェットたちも初日から参加だ。

 無茶をさせなければいいのだけれどとククルは内心思う。

 昨日もめた訓練生、ヘンリー・フォードには、夕食前に名乗られて謝罪された。アリヴェーラに完膚なきまでにやられて目が覚めたらしい。

 それ以来ヘンリーのアリヴェーラへの態度がどうにも気になるのだが、当の本人のアリヴェーラは意に介した様子もなかった。

 今日は午後から短時間だけ訓練に参加予定のテオは、留守中迷惑をかけないようにと昨日から仕込みを前倒している。

 そんなに焦らなくても大丈夫だと言うのだが、気になるから、と返されて終わっていた。

 アリヴェーラは作業部屋で洗い物をしてくれているので、カウンター内はいつものようにテオとふたり。穏やかな時間が嬉しかった。



 少し落ち着いた頃を見計らい、ウィルバートは店へと向かった。

 ククルの許可は得ているものの、あんなことがあったあとに大勢のギルド員で詰めかけることになるのでと、ジェットたちと相談の上アリヴェーラにここへ来てもらうことにした。

 本人は依頼がなくても来るつもりだったとゼクスには言われたが、こちらとしては今後の関係の為にも雇うという形を取らせてもらった。

 女性で、実力は申し分ないどころではなく、しかもククルの信頼を得ている。これ以上の適任はいなかった。

 昨日一日様子を見たが、ククルは特に怯えたり萎縮する様子もなく。訓練生ともめたと聞いたときには肝を冷やしたが、実際はククルではなくアリヴェーラが相手だったということで、ヘンリーには厳罰ではなく注意に留めた。

 このまま無事に済むよう願うばかりだ。

 店に入ると、こちらを見てククルが微笑む。

「すみません、手は止めなくていいので少しいいですか?」

 頷くククルに礼を返し、正面に座る。

「今回は前回までより午後の訓練時間が長くなると伝えてありましたが、作業に何か問題は?」

「大丈夫です。夜食も出せます」

 そのつもりで準備してくれていたのだろう。即答で返される。

「個別に要望は聞かなくていいですからね?」

「わかってます…」

 前々回にやりすぎだと言ったことは覚えていてくれたらしい。少しむくれた声に笑いながら、ウィルバートはククルを見つめる。

 ククルが襲われてすぐにここに来てから半月程。心配しながら帰ったが、落ち着いたようで本当によかった。

 あの男の処分については知らせる必要はないと言われている。

 まだ確定ではないが、罰金とギルド除名はまず間違いない。

 あくまでギルド内での処分になるので罪状として個人についてまわるものではないが、非公開というわけでもない。調べればすぐに辞めさせられたという事実は知られることだろう。

 本当ならククルを襲ったということに対しての罰を与えたかったのだが、未だに己の罪を認めない男からは謝罪すらないままで。

 そんなことすら適わず、申し訳なく思う。

 ククル自身はもう気にした様子もないが、元々そう負の感情を表に出す彼女ではない。自分たちの知らぬところでという可能性は十分にある。

 機会があればレムかアリヴェーラに尋ねてみようと思いながら、ウィルバートはククルから渡されたお茶を受け取った。



 昼食後、訓練へと向かうテオ。

 今回から別メニューだと言われたが、一体何をさせられることやらと思う。

「来たな!」

 楽しげなジェットに嫌な予感がするが、ひとまず無視してゼクスたちのところへ行った。

 とにかく実戦経験を積めと言われ、訓練生はもちろん、ジェットたちとロイヴェインたちを含めた全員との手合わせをひたすらやれと言われる。

「ま、まずは自己紹介がてら。四対一くらいからね」

 遠慮などする気のないロイヴェインの采配に呆れた顔を向けながら、仕方なく言われた通り三年目四人との手合わせから始めることになった。

 結局そのあと四年目の四人、リック、スヴェンと続き、たまには指導してやろうと言ってノーザンが散々仕掛けてくるのを捌いて。

 ケロッとした顔で疲れたから終わりとノーザンが言った頃には、予定の時間を大幅に過ぎていた。



「ごめんククル、アリー」

 駆け込んできたテオにククルは笑い、大丈夫よと返す。

「テオが進めていってくれたから。問題ないわ」

「それならいいけど…」

 身支度を済ませて状況を確認するテオ。

「休憩してても大丈夫よ?」

「大丈夫、疲れてはないから」

 そう返して作業を始めるテオに、黙ってふたりの様子を見ていたアリヴェーラがくすりと笑った。

「上手いことやられたわね、テオ」

「上手いことって?」

「疲れが残る程はされないっていっても。元々テオは皆との訓練で動けなくなることはないでしょ?」

 そう言われ、テオとククルは顔を見合わせる。

 あの日は確かに動けなくなる可能性があった。しかし、指導される側の多い訓練では確かにそれはない。

「……ロイの奴…」

「ま、もう言っちゃったもの。観念しなさい」

 クスクス笑うアリヴェーラと、溜息半分にぼやくテオ。

「……テオ、私が…」

「言わなくていいって」

 頼もうかと言いかけたククルをすぐさま止めて、テオはもう一度溜息をついた。

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― 新着の感想 ―
[良い点]  おや? おやおや?   ヘンリーはもしかして?♡  だけどアリヴェーラは自分よりも強い人が好きそうですが……?  罰金と除名だけでは生ぬるい……。  仕事人に頼みたいくらいです。  頼…
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