表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
111/312

三八三年 明の十八日

 警邏隊の男たちが来たのは、また昼の営業時間帯だった。

 四人のうちの、前回初めて来ていたふたり。帯剣はしていないので一見ただの一般客にしか見えない。

 ふたりの間に奔った緊張に気付いたアリヴェーラ。その視線の先の男たちを見てから水を持っていく。

 結局今日も、男たちはただ食事をして帰っていっただけであったのだが。

「追ってくる」

 男たちが出るなりそう呟き、止める間もなくアリヴェーラは裏口から出ていった。



「アリー、大丈夫かしら…」

 ぽつりと呟くククル。

 アリヴェーラが出てから二時間程。心配で仕方ないククルはそわそわと待ち続ける。

「大丈夫だって」

 そんな様子のククルをひとりにしておけず、テオもずっと店にいた。

「ほら、仕込みも済んだしちょっと座って。落ち着けって」

「だって…」

 ほらほら、とククルをカウンター席に座らせる。

「お菓子はアリーが戻ってきてからだろうけど。先お茶淹れるから」

「テオ…」

「大丈夫。な?」

 微笑むテオに、ククルも少し笑みを見せた。

 お茶を注いで前に置く。礼を言い、少し瞳を伏せてカップに口をつけるククル。

 カウンター内で自分もお茶を飲みながら、テオはそんなククルを眺めていた。

 先日ミルドレッドでフェイトと話したことと、店に警邏隊がやってくること。このふたつに関連があるのかはわからない。

 だけど確実に、何かは起きている。

 少なくともその半分を知るだろう青年を思い起こし、テオは内心溜息をついた。



 ククルがお茶を飲み終わるまでにアリヴェーラは戻ってきた。

「ミルドレッドの警邏隊の宿舎に入っていったわ」

 さほど疲れた様子もなく、もちろん怪我もない様子にククルは安堵する。

「ミルドレッドの…」

 確かにライナスはミルドレッド地区になる。そこの警邏隊の管轄で間違いはないのだが。

「支部じゃなくて、宿舎?」

 テオの言葉にアリヴェーラが頷く。

「そうなのよね。まさかホントにお昼を食べる為に来てた、なんてことはないでしょうし」

 もし仕事として店に来ていたのならば、隊服でなくてもまっすぐ支部に向かうだろう。

 わざわざ様子を変えてきたのでなければ、ただここの食事を気に入った為、という理由でも納得がいくのだが。

 減らぬ疑問に頭を抱えるほかない。

「町を通るときはちょっと周りを気にしてた感じだったわ。誰とも話はしてなかったけど」

 テオが置いたお茶に礼を言いながら、アリヴェーラは思い出すように首を傾げる。

「途中で追い抜いたから見てないけど、時間的に道中で誰かと接触してる余裕もなかったと思うのよね」

「追い抜いた?」

 声を上げるテオ。ククルも驚いてアリヴェーラを見る。

「何箇所かあるのよ。馬で先回りできるところ」

 事もなげに言われるが、ライナスからミルドレッドまでは山道の一本道。途中追い抜ける程広くなっているところはあるが、もちろんこの場合はバレずにとのことだろう。

「ま、オススメはしないわ」

 微笑むアリーに苦笑する。

 誰からの入れ知恵かは考えるまでもなかった。



 夜の営業は問題なく済み、テオも帰った。

「アリーもお疲れ様」

 労うククルにアリヴェーラが笑みを見せる。

「ねぇククル、ちょっと話さない?」

「え?」

「話、聞かせてよ?」

 一体何の話を聞きたいのだろうかと思ったが、断る理由はない。頷いたククルにアリヴェーラが無邪気に喜ぶ。

 お茶を淹れようかと思ったが、また竈に火を入れるのも大変だろうからと遠慮された。酒か作り置きの果実シロップなどならあるが、話したいだけだからと断られる。

 カウンターに並んで座って。ククルはアリヴェーラを見やった。

 見返すアリヴェーラが、薄く笑む。

「うちの愚弟、迷惑かけたんじゃない?」

 顔に出そうになった動揺を、なんとか抑え込んだ。

「…ロイにはたくさん助けてもらったわ」

 もちろんこれも事実ではあるが。

「そう? それならいいけど」

 気付いているのだろうか、アリヴェーラはくすりと笑う。

「ホント、どうしようもない弟なんだけどね。今は少しだけ、マシになったかしら」

「アリーは厳しいのね」

 ここでのロイヴェインはあれ程がんばっていたというのに。姉の評価はあまりに辛口だった。

「訓練生の皆にも信頼されて、ちゃんと教官としてのお仕事をしてたわよ」

「でもそれは当たり前のことでしょ?」

 即座に返し、アリヴェーラは肩をすくめる。

「ま、今までその当たり前もしてこなかったんだけどね」

 呆れたような呟きだがどこか声音は優しくて。ロイヴェインを心配しての言葉であることは、ククルにもわかった。

 なんだかんだいっても姉弟なのだなと、少しうらやましく思う。

「ロイなら大丈夫よ」

 本当に、気遣いばかりの優しい人なのだから。

 ククルを見つめるアリヴェーラ。細められるその瞳に。

「…どうかしらね」

 一瞬過った感謝の色に、ククルは気付かないままだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
また来たな、警邏……………。 滅茶苦茶怪しいんだけど、こいつら(-ω-;) 同じヤツらが来てるんだよね? 前みたいな碌でもない目的なのか、実はボディガードなのか。
[良い点]  気になりますね~。警邏隊。  テオもなにか知っていそうだけど……?  アリーは馬術も得意!  ますます姐さんです!  出逢いというものは、よくも悪くも影響を  与え合うものですね。…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ