第五十話 迷宮犯罪者2
「「「あ?」」」
男三人は、叫んだ俺の方に向かってそう威圧するように言った。
そして、ゆっくりとその中の1人が俺に近づいてくる。
「誰だてめぇ」
だんだんと俺の方に近づいて来る男は、離れていてわからなかったがかなりの大男だった。
身長190はあるんじゃないかってぐらいの巨体に、物凄くごつい顔を乗せている。
ディスイズジャパニーズギャングって感じだ。
普段なら、迷宮の外なら絶対に関わり合いになりたくない、迷宮の中でだって嫌な相手だろう。
だが、襲われている2人をこのままに無視して逃げる事は出来なかった。
昔から俺は、こんな感じで揉め事に頭を突っ込んでは痛い目を見ている。自分になんの得も無いのは百も承知だが、漫画のヒーローならどうするかとか考えて無茶な方に行ってしまう。
ヒーロー願望って奴だろうか、
「おっ、俺が誰だって関係ない……、その人たちにこれ以上手を出すな……」
情けない事に声が震えながら、俺は目の前まで近づいて来た男にそう言った。
「ふはっ……」
男は俺のその言葉を聞くと、露骨に嫌な笑みを浮かべた。
そして後ろの仲間の方に振り返り
「おい!聞いたかよ!!こいつのセリフ!漫画のヒーローみたいな事言ってやがるぜ!」
と、俺をバカにするように叫んだ。
それを聞いて後ろにいる2人もケラケラと笑う。
「と、とにかくやめろっ……、迷宮の中だからって好き放題出来ると思うなよ、その女の人を離してや……」
やれ、と男たちの挑発めいた発言を無視して言おうとした瞬間、いきなり目の前の大男が腰につけた曲剣を抜いた。
そしてそれを俺の首元めがけて横に振る。
突然の事だったが、俺は後ろに飛んでそれを避けた。
「あんまり舐めてんじゃねぇぞ!ヒーロー気取りのザコ!」
大男は曲剣を俺に向けたままイラついたようにそう口にする。
その声色は、一切の動揺とかは無くてただ苛ついているという感じだった。
「……」
こいつ、いやこいつら狂ってる……。
後ろに飛んだ拍子で膝をついていた俺は、男を見据えながらそう思った。
今のは避けなければ確実に死んでいた。
そして、あいつは俺を殺す事になんの躊躇いも無かった。
嘘だろ……、
自分達の欲望のままに人を襲う時点でとんでもない奴だが、それでも人を殺すことを躊躇わないほどにイカれた奴だとは思わなかった。
こんな奴が本当にいるのか、この現実に。
殺されるぞ……。このままじゃ……。
そう思った俺はガタガタと震える足でなんとか立ち上がる。
女王蜘蛛の時や、あの襲撃、巨大リザードマンの時とは違う恐怖が俺を襲う。
命の危険を目の前にしているのは変わらない。
だが決定的に違う事は、今、俺が1人だという事。
襲われて倒れている男性や、呆然としている女性はあてにできない。
この三人を、人を殺すことを躊躇わない犯罪者たちを俺1人で対処しなければならない。
そんな恐怖が、俺を襲う。
「やめろ……、直ぐに俺の仲間がここに来るぞ……」
俺は恐怖を押し殺して、男に向かってそう言った。
全くの嘘だが、なんとか戦わずにこの場を切り抜けられればという甘い考えが、こんな状況でも俺の片隅にあった。
「見えすいたはったりかましてんじゃねぇ!」
だが、俺のそんな甘い考えなど通用するはずもなく、男はそう叫びながら俺に向かって走って来る。
「っ!」
もう覚悟を決めるしかないと思った俺は、黒銅剣を腰から抜いた。
「死ねやぁあああー!!!」
「ああああああっ!!」
男は叫びながら俺に曲剣を振り下ろす。
そして、俺もガムシャラに叫びながらも無意識に体がそれを避けて男に向かって黒銅剣を振り上げ、それを男の右腕に向かって振り下ろした。
「ああっ、うああああああ」
俺が避けた事で曲剣を地面に打ち付けていた男の右腕は、そのまま男の身体から離れて落ちる。
そして、男は真っ赤な血を腕から吹き出しながら悲鳴を上げた。
「はぁはぁ……はぁ……」
その光景を見て、勝ったとかそんな考えは俺の中に生まれなかった。
ただ感じたのは、モンスターとは全く違う嫌な感触と、吐き気だった。
「やりやがった!!」
「ふざけやがって!!!」
そして後ろにいる残りの2人が、その光景を見てそう言いながら、こちらに走って来る。
くそ、頭がひどくクラクラする。現実なのかこれ。
俺はそう思いながらも、直ぐにでも剣を離したい気持ちを抑えて、こちらにやってくる男達の方を向いた。




