試行錯誤と趣味
お久し振りです。
最近更新が減ってきていてすみませんでした。
『英雄、やります(仮)』の方が運営様にR-18っぽい描写があると警告を受けて、修正に追われていました。
『リュウ俺』に引き続き『英やり』まで……あんまりやるとID削除などの措置もあるそうなので、今後は一層注意しないといけませんね。
ブレスレットの試作品を作ってから、俺は色々と装飾について試行錯誤を重ねていた。
仲間達が喜んでくれるような、もっと言えば仲間達の助けになるような道具を作成したいところだ。……流石に難易度が一気に上がるため、今回はそこまでのことはしないつまりではいる。いつかはそのような装備を作成してみたいが。
装飾の目途は一応立った。だがいくつか欲しい素材が出てきたので、後回しにする。
最悪、装飾の試行錯誤で一日が終わると思っていたのだが。意外と時間が余っているので、既に構想の整っている装備品を作成していこう。
まずは前回のイベントで手に入れたレンヴォルグ用のホルスターだ。
問題は一つ。
銃にヒレがついていてホルスターに提げるのが難しい。
……機能的でない無駄な装飾など、必要ないと思うのだが。
まぁ鮫だからヒレがついているのだろう。獅子だからと銃口周りに鬣がついたならもっと苦労したに違いない。マシだと思うしかないだろう。
銃についたヒレは全部で三つ。銃身の左右と上に一つずつある。
このヒレが従来のホルスターでは邪魔になる。当たり前だ、銃口から引き鉄手前の銃身をすっぽりと覆って収めるのだから。
つまりレンヴォルグ用ホルスターに行う改善点の肝は、銃身を収める以外での提げ方を見つけることにある。
かつそう簡単に落ちないそうにしなければならない。加えて素早く構えるために手に取りやすいことを忘れてしまっては元も子もない。……色々実験していった結果、どうやらレンヴォルグは『早撃ち』ができないようなので、四苦八苦するような状態にならなければ問題ないのだが。
そうなると俺が思いついた留める箇所は一つになってくる。
引き鉄部分の輪だ。
ここになにかを通して留めることで提げようという結論にまで至った。……というよりそれ以外で手に取りやすい方法を探すのは面倒そうだったので、諦めた。
さて、留める方法の条件だが。
片手で抜き放つため簡単に外すことのできるモノに限定される。
さらに、ホルスターへ戻すのも簡単にしたい。
例えば紐のようなモノで提げるとしよう。二本の紐を使い、先端に留め具をつければ引き鉄を通して留めることはできる。しかし提げ直すには少し手間がかかるだろう。
そこで、俺が考えたホルスターはこうだ。
「し」のような形をした金具に引き鉄をかけるように提げる。金具の曲がった先端は上を向いた状態にし、銃の上から先端についた留め具を合わせる紐を回す。
二本の紐だとどうしても下から引き鉄を通す一本が簡単にできないため、それならと突き出した金具にかける方へ移行したのだ。
形だけなら作れるだろうが、ここで問題となってくるのは一番負荷がかかる金具部分だ。
薄いホルスターの革から横に金具が突き出すように固定する方法を試していかなければならない。
オリジナルアイテムの欠点は、形に無理があると耐久値の減りが物凄く早くなってしまうことだ。
俺の考案したホルスターはこの欠点を抱える構想になっている。
欠点を補う方法も考えてはいる。成功するかはやってみないとわからないのでなんとも言えないが……。
一つ、金具に脚をつける。
金具の先を何本かに分かれさせて、革に沿う形で曲げる。さらに革に突き立てるように爪を作るという案だ。金具側から固定させる案だが、結局銃の重さで革が曲がってしまったら安定しなくなってしまう。
一つ、革を固める。
革を固定させるように、液体を染み込ませるなどする案だ。方法を思いついたはいいが固めるための素材に心当たりがない。今度皆とユイにでも聞いてみよう。
一つ、時を停止させる。
金具を革に突き刺して形を作った段階で時間を停止させる案だ。……生産を舐めているのかと言われてもおかしくない案だが、実際にこれで現実では到底作れないオブジェクトを創造したプレイヤーもいる。
ちなみにだが、ゲームのシステム上の都合により時を停止させて作ったモノも耐久値は減っていく。
一番有力なのは、一つ目と二つ目を合わせた方法だろうか。……三つ目はなんと言えばいいのか、ジャンルが違うな。
しかし、どちらにしろ問題がある。
スキルレベルだ。
一つ目の方法を取るには『金属加工』のスキルが必要で、それ専用の工房もなければ不可能らしい。『金属加工』は『魔工』レベル30、『錬金』レベル20、『細工』レベルMAX、『加工』レベルMAXにしている必要がある。『金属加工』を欲しいと思っていなければ取得していないかもしれない。
俺も『魔工』、『錬金』、『細工』は条件を満たしているが、『加工』が満たしていなかった。今度スキルレベル上げを行おう。
……しかし、あれだな。
なんだかんだ言いつつ全く進行していない。
作っている途中であれが足りないだのこれがわからないだのと中断することが多かった。
本来生産の試行錯誤とはこういうモノなのかもしれない。答えの決まっていない完成品を探り当てるような、奇妙な感覚だ。これまで現実でもフィギュアなどを作ってきたが、ある程度完成が見えているモノだった。
……ゲーム内で「答えの決まっていない」と言うほど矛盾したモノはないのだが。ある意味では、これがUCOの凄いところなのかもしれない。
ともあれ、他に完成が見えているモノを作っていった方がいいかもしれない。
作り途中が複数あるとどれも手につかなくなってしまうこともある。
……レヴィにあげる機関銃には案がある。対多人数用の新機関銃を開発しようと思っていたのだが、どちらにしろ試行錯誤が必要になる。
よし、今日はティアーノ用のセーターを編もう。
以前に作成して渡したセーターよりも性能のいいモノを作らなければ、ギルドイベントに臨むための装備作成としては弱い。
以前作成したセーターは、氷属性耐性と氷属性強化のついた水色のセーターだった。確かあの時は白一色で編んだセーターと氷雪魔石を『錬金』して作ったのだ。力技に近い気もするが、当時判明していた技術ではそれが精々と言ったところだ。
今ではステータス補助も判明している。セーターについては色々検証が済んでいるため、比較的簡単だ。
まず、セーターの作り方だが。
前身頃、後身頃、袖を別々で作成する。これら三つを編んだ後、一つに繋ぎ合わせるとセーターが出来上がるわけだ。
前身頃とは、衣服で胴体の前部分を覆うモノのことで、後身頃はその反対だ。
より詳しく言うと、別々で編んだ三つ(袖は二つなので実際の数は四つになるが)は繋ぎ合わせる前に一度アイロンにかけて真っ直ぐにする必要がある。繋ぎ合わせた後も同様だ。なぜアイロンをかける必要があるのかというと、実際に編んでみるとわかるのだが手編みしたモノは丸まってしまうのだ。それでは繋ぎづらい上に、繋いだとして不格好になってしまうからな。
部品を作り、アイロンをかけ、部品を繋ぎ合わせ、アイロンをかける。これがセーター作りの基本的な方法となる。
現実でもユイに頼まれて作ったことがあるので、その時と同じ編み方をしている。他にも色々と編み方はあるそうで、その筋のプレイヤーなら様々な模様を再現することができるだろう。
俺はまだ基本的な編み方しか知らないので、現実の手法をいくつか調べる必要はありそうだったが。
兎も角セーターを作ろう。
鎧内に着るためか、ティアーノのセーターは編み方で言うところのゴム編みというモノになる。伸縮性に優れた編み方のため、袖口などに利用されやすい編み方だ。
以前と同じ編み方なので、試行錯誤はしない。
せっせと編み針を動かし指を動かし、セーターの部品を編み上げていく。
……集中して作業していたので、気晴らしに趣味の方を行うか。
趣味とは、『フィギュア作成』だ。今回は癒しの意味も含めてクーアを作ろうと思う。最近は粘度の高い土も見つかってきているため、以前より作りやすくなっているはずだ。
桶にダイアラン土という粘度が高い土を入れる。『家事魔法』の【タップ・ウォーター】で水を入れていく。手でこねていると丁度いい粘土になり始めたため、水を止めた。適当に塊を手に取って人型に変えていく。クーアは全体的に小さいので、珍しい身体バランスとなる。頭身で言えば三頭身ぐらいになるだろうか。フィギュアを売ることもあった都合上、美少女フィギュアの割合が高くなっていた。この間もネプチューンを作ったが小さい子のフィギュアは最近なかったと思う。
頭が大きめ、手足が短めになるイメージだ。
ポージングはどうするか。クーアと言えば……抱っこをせがんでくるか、クッションを抱いて眠っているイメージが強いな。生産のコツを教えてくれる時は生産の作業をしてくれるが。あと最近はなにやら「まうまう」が流行っているようだ。俺は意味がよくわからないので口にしているわけではないが、どうやらクーアが流行らせた挨拶のようなモノらしい。
閑話休題。
折角なので、抱っこをせがむ姿と寝ている姿の二つを作ろう。
まずは抱っこをせがむ姿だ。クーアは抱っこをせがむ時に両腕を伸ばしてくる。俺が抱える時はもちろん上から見下ろす形になるので、クーアは必然的に上を向いて腕を上に伸ばす格好だ。
そうと決まれば人型の腕部分を上に修正しなければならない。きちんと上から見て腕を伸ばしてくるように見えるよう、調整を施していく。大まかな調整は指で、細かな調整は先の尖った道具で行う。
ポージングが決まったら細部を作り込んでいくことになる。膝や肘、手首など太さの変わる部分を作り、ただの人型から人の形をした粘土に変えていった。頭を形作るのが難しい。顔の造形を道具で少し作っていく。この時に一番大事なクーアのぷにぷにな頬を形として再現できるかどうかが重要である。クーアを作るのであれば柔らかさの見た目を再現できるかどうかで完成度が変わってくると言っても過言ではない。
……フィギュア作りのこういう点は好きだった。神経を使う作業だが、その分思った通りに作れた瞬間の達成感が大きい。精度が上がっていくとどんどん楽しくなっていき、どこまでも極めたくなってしまうのだ。
道具の先端部分を使い、表面の形をなぞるように削っていく。輪郭を作った後は目や口などのパーツに取りかかった。目や口は道具で描くように削る。指同じだ。凝るのであれば指に爪を描く。掌にもクーアの柔らかな感じが出るように、僅かな凹凸を再現していく。
こうして原型が出来上がったら、別の粘土で髪の毛を作り、原型に被せる。接合する向きや形を調整してから慎重に外し、接着剤を塗って再度被せる。
髪の毛をつけたら持っていたことで形が変わってしまった部分がないかを確認し、一旦は終了だ。
残る作業は着色と、衣服の製作だ。美少女フィギュアであれば粘土を原型に貼りつけるような形になるが、折角だ。衣服は今着ているモノと同じ素材で作ってやろう。クーアが着ている服は俺の作成した上下一体のもこもこ服だからな。フードもついているので、着脱可能な状態にしたい。
接着剤が乾くのは早い。時計が回るエフェクトがかかり、時間が進められる。粘土もその間に固まっていた。
その後、着色と『裁縫』による衣服製作を終えた俺は、続いてクッションを抱いて眠るクーアも作成し、本人に見せてやった。
「……くーあ!」
俺の掌に乗ったフィギュア二体を見て、クーアが丸くて大きな瞳を輝かせる。興味津々な様子で両腕を伸ばしてくる。
「……りょうつくった?」
「……ああ、俺が作った。欲しいならやる」
「……もらう!」
クーアは俺の許可が下りたことで片手に一体ずつフィギュアを握る。
「……かたらにみせてくるっ」
「……ああ。壊れやすいから、気をつけてな」
とてとてと離れた位置にいるカタラへと駆け寄って、フィギュアを突き出して見せている。そんなクーアをカタラが屈んで撫でてやり、クーアは嬉しそうな笑顔を見せた。
……喜んでくれたなら、良かった。
例え自分が作りたいから作った自己満足の品であっても、他人に喜んでもらえるなら嬉しいモノだ。
もしかしたら、俺はだからこそ批判の多かった中でもフィギュアを売りに出していたのかもしれないと、そんなことを思った。
セーターは……ちょっと表現力が足りなくて断念しました。
書いていたら文字数が嵩みまくって、ほのぼのに切り換えた感じですね。
いつかわかりやすく文章にできるまでになったら、描いてみたい気もしますが。




