大会終了
※本日二話目
遂に闘技場のバトルトーナメントも準決勝まで来ている。
準決勝第一試合、ティアーノVSクノ。
ティアーノの変幻自在な氷技に翻弄され、対処し切れなかったクノが敗退していた。試合後にセバスチャンとあれやこれやと言い合っていたので、やはり本当は仲がいいのだろう。
次の俺の対戦相手は俺を知り尽くしたユイだ。虚を突けるようなスキルを創っておくか。
対ユイ用にも使えるスキルを創り終える頃にはもう控室を出る時間になっていた。
「じゃあお兄ちゃん、いこっか」
ユイに言われて頷くと、二人並んで控室からバトルフィールドへと歩いていく。
『さぁ、今大会最も注目すべきはこの兄妹対決ではないでしょうか!』
実況が入場と同時に熱く告げる。先程の試合でもこれまでの重い雰囲気を吹き飛ばそうとするかのように頑張っていた。やはり楽しくプレイしてこそのゲームだろう。クーアはやらないが。
「あっ、ユイ棄権しまーす!」
観客もそれをわかっているのか歓声を上げて盛り上げようとしている中、我が妹はにっこり笑顔で平然と挙手をしてみせた。
「「「ブー!!」」」
当然、こうして闘技場中からブーイングを受ける。
「えー。ユイの目的はもう達成したし、お兄ちゃんに勝ちを譲ってあげたいんだけど」
ユイは少し困ったような顔をして言う。俺としてはなにもせずに勝ちを拾えるのだから楽だ。それに、ユイを相手に戦うのは疲れるからな。
『じゃあユイ選手の負けでいいからちょっとだけでも戦ってください!』
実況のプレイヤーが両手を合わせて頼み込んでくる。
「もう、しょうがないなぁ。じゃあ一分だけだよ?」
ユイが片目を瞑って告げると、大きな歓声が上がった。それほど楽しみにする対戦かといわれると、よくわからないのだが。
『それでは注目の兄妹対決、スタート!』
実況の宣言があって、カウントが始まる。ユイの要望通り一分からの開始になっていた。
俺は開始直後から全力で倒しにかかる。『早撃ち』と『精密射撃』でユイの頭を撃ち抜きにかかったが、
「【プロテクション】」
ほぼ同時に動いたユイが早口に唱えた魔法によって築かれた透明な防壁によって防がれてしまう。
「……流石に無理か」
真っ先に『早撃ち』速攻対策をしてくると思ったが、物理攻撃を防ぐ障壁を作る魔法、だったか。
「お兄ちゃんならユイと戦う時は『早撃ち』してくると思ったからね」
俺の考えていることはお見通しということか。俺が今まで使ってきた戦法は全て対抗策を用意していると思うべきだろう。
だからといって戦い方を変えられるわけでもない。『疾駆』で素早く走り出し、『跳躍』と『空中跳躍』を使ってユイの頭上を取った。しかしユイは慌てず俺の下と左右に魔法陣を展開する。仕方なく上に逃げる。そろそろ『見えざる壁』を使うか。そう思って上空に見えない壁を設置し体勢を変えてそこを踏み台にする。そのまま下に向かって跳ぼうかと考えていると、壁の向こう側に魔法陣が展開された。……よくスキルを理解している。魔法陣の正面から逃れるように右へ跳んだ。向かう先にも魔方陣が築かれる。仕方なく『魔法破壊射撃』を使うとその裏にももう一つ魔方陣があった。面倒だと『空中跳躍』すると、その先にも魔方陣が描かれる。
これだから、ユイと戦うのはやりにくい。
「お兄ちゃんの持ってる『見えざる壁』って、物理を阻む壁にはなるけど魔法は阻めないんだよね。足場に使うのはお兄ちゃんくらいで、本来は敵の突進を防ぐのに使ったりするんだけど」
ユイは説明しながらも手を止めずに魔法を放ってくる。合間でMP回復薬を足下に投げつけているので、このままでは俺が少しずつ追い詰められてしまう。俺のスキルは一度に使える回数が決まっている。そのため、空中に釘づけにされるといつか使用回数制限がきて落下してしまうのだ。安易に跳び上がるべきではなかったか。
「こうしてMPを切らさずに、【フレイム・ボール】。お兄ちゃんの跳んだ先に魔法を撃っていければ、【アイシクル・ランス】。じきにスキルの回数制限がきて落ちてくるってこと」
観客に説明しているのか、俺に対して忠告しているのか。どちらにせよ、ユイは俺が思っている通りの戦法を使っているようだ。魔法陣を展開する場所が俺の対処しにくいところなのは、流石としか言いようがない。
「……っ」
遂に、『空中跳躍』の使用回数が尽きてしまったらしい。跳ぼうとしたが足の裏に感触がなかった。
『おおっと、ここでリョウ選手の『空中跳躍』の回数が尽きたのか!? なす術もなく空中に放り出されるぅ!』
「【アイシクル・ジャベリン】!」
『すかさずユイ選手が魔法で攻撃した!』
空中で身動きの取れなくなった俺は、ユイの放った氷の槍によって脇腹を貫かれてしまう。……かなりHPが減ってしまった。しかし一撃で負けとなってしまうわけにもいかない。
俺はあるアイテムを取り出して地面に投げる。
灰色の煙がバトルフィールド全体に広がっていく。
『こ、これは煙玉でしょうか! リョウ選手、まだ勝負を諦めていない!』
《忍者》のクノ特製の煙玉だ。これで視界が悪くなってユイは魔法で俺を狙わないだろう。
その隙に着地した俺は、二挺を『チャージ』しながらユイのいた場所に向かって、少し大回りしながら左から近づいていく。
「【トルネード】」
ユイの声が聞こえたかと思うと強い風が巻き上がり、煙を吹き飛ばしていく。その時にはもう、俺はユイの右から肉薄していた。まずは厄介な防壁から破壊されてもらおう。二挺を防壁につけると、『ツインバースト』を放った。パキィンという音がして防壁は砕け散る。
「っ、【マジカルブレード】」
ユイが今までに見せてこなかった、杖の先から刃を出す近接系魔法を使う。それで俺を止めようということだろうか。少し驚かないでもなかったが、左手の銃で杖の柄を撃ち手元から弾いた。
俺は右手の銃をユイの額に突きつけて引き鉄にかけた指に力を込める。
ほぼ同時にユイは杖を弾かれた右手の人差し指と中指を真っ直ぐ揃えて俺の胸に突きつけ、【サンダー・ショット】と魔法を唱える。
しかし勝負が決まるかと思われたその直前に、タイムアップのブザーが鳴った。……時間切れか。
「ふぅ、やっぱお兄ちゃんと戦うのは疲れるよー」
「……それはこちらの台詞だ」
手を下ろすユイに従って、俺も銃を下ろしホルスターへと戻す。
『す、凄い試合でした! 最後までやって欲しかった、けど、約束は約束なのでここで終わりです!』
実況の発言に、今度はそちらへブーイングが向けられた。
『ではユイ選手、棄権によりリョウ選手の勝ちでいいんですね?』
「うん。元からそのつもりだったしねー。それに、お兄ちゃんを倒すのはまだちょっと早いかなー」
実況に答えつつ、ユイは俺をちらりと見てきた。……恐ろしい妹だ。だが今度戦う時が来たなら、俺もきちんと勝てるようになっておきたいものだ。
直前に創ったスキルも使いどころがなかったからな。今度は使って驚かせてやりたい。
『わかりました。名残り惜しいですが、リョウ選手の勝利により決勝はティアーノ選手VSリョウ選手よなります!』
「……悪いが、同じギルド同士になったからには戦う義理がない。俺は棄権する」
『へっ?』
盛り上がってきたところ悪いのだが、既に《ラグナスフィア》だけが勝ち上がっているので俺に戦う理由はないのだった。
『えっ、あ、いや。これからが盛り上がるとこですよ?』
「……試合をやるなら俺はなにもしない。それで盛り下げるぐらいならやらない方がいいだろう」
『うー……。なんかもう、釈然としませんが、白けるくらいなら棄権認めてやらぁ!』
実況者が自棄になっていた。少し申し訳ない。
「いいの、お兄ちゃん。せっかく自分に賭けてたのに」
………………あっ。
◇◆◇◆◇◆◇◆
自分に賭けた150000円を全て失くしてしまったことで少し棄権したことを後悔してしまったのだが、自分から言い出したことなので仕方がない。
気持ちを切り替えて、準優勝の商品をチェックしてみる。
『連撃』と『王子の口づけ』と『茶道』と『茶摘み』と『光合成』のスキル五点セットだった。………準優勝商品としてはどうなのだろうか。というか『王子の口づけ』が被ったぞ。被るとかなりスキルレベルが上昇するとのことだが、果たして使う機会があるのかどうか。
『連撃』は一定の時間を空けずに相手から攻撃を受けず、攻撃し続けた回数に応じて徐々に攻撃力が上がっていくスキルだ。よく言うところのコンボボーナスといったところだろうか。
『茶道』、『茶摘み』に関してはそれらの行動を行うためのスキルとなっている。これを機に『茶道』をやってみるのもいいかもしれない。まだ手を出したことのない分野だ。こういうスキルは嬉しい。
『光合成』。このスキルは変わっていて、水分と日光があればHPを徐々に回復していくスキルだ。つまり陽の光が当たる外にいる間なら、水を飲むだけでHPが回復するということだな。回復薬を使わずに回復できるのでいいスキルだと思うのだが、他のスキルだけだとあまり使い道がないから本命として入れたのかもしれない。賞品として成り立たせるためだろうか。
ともあれ、色々あったが闘技場の大会は終わった。あまりまともに戦った記憶はないが、それぞれにメンバーも課題を見つけたと思うので、これからの伸びに期待するとしよう。
俺も負けないように頑張らなければならない。
これでも《ラグナスフィア》のギルドマスターなのだから。




