リョウVSトネス
今週はギリギリ日曜日に更新できましたね、日付変わっちゃうかな?
ともあれ、今週分の更新です
闘技場を終わらせるので三話更新します
※本日一話目
二回戦最後の試合。俺はプレイヤー素材を剥ぎ取ってきていたトネスとバトルフィールドで対峙していた。
「ところでてめえ、俺が戦ったプレイヤーがいるギルドのマスターなんだろ? てめえんとこのあいつ、傑作だったよなぁ。泣き喚いてやめてってよぉ。あれくらいやってくれるとこっちも高まるってもんだろ?」
トネスは試合開始前にそのようなことを言ってきた。にたりとした笑みを浮かべて心底嬉しそうに語る。
『試合開始!』
「リアナっつったっけ? あんな弱いのがいるとてめえも大変だな。同情しちまうぜ」
勝負はもう始まっているというのにまだ口を開いたままだ。
「大体さっきから盗まれただのなんだのと、たかがゲームだろ? 一々そんな熱くなんなって」
もう聞いていなかった。俺は『疾駆』で一気に距離を詰める。
「これだからゲーマーってのはバカばっかり――へぶっ!?」
どちらがバカなのかと問いたくなるほど長く話す相手に向けて、ただただ全力で顔面を殴り飛ばした。
スキルやアビリティなどを使わず隙だらけということも考えず、この内に燻る怒りに任せて身体を動かしただけだったが、あまり気は晴れないな。殴り損ということだろうか。
「……今のはセルフィの分ということにしておこう」
「誰だよそいつ。ってかてめえもクールな顔してそっち系かよ。うわ、うざっ」
一発殴ってやったというのに、その口を閉じる気はないようだ。俺は殴り飛ばしたトネスの方へ駆け出す。肉薄すると、ようやく構えたトネスに向かって左拳を突き出した。次も顔を捉えるように殴りかかったのだが、
「おっと」
ひょい、と上体をズラして避けられてしまった。……いや、意外でもなんでもない。あのリアナの攻撃を掻い潜っていたのだ。これくらい当然のことだろう。
「じゃ、こっちの腕から貰うぜ?」
俺の左肩にナイフを当てると手際良く切り落として腕を獲られてしまう。
「へへっ、やりぃ」
俺の腕を切り落として顔を綻ばせるトネスだが、勝負の最中に一体なにをやっているのかと疑問に思うばかりだ。
俺は獲られた左腕に構わず右拳を振るった。『爆裂甲』を発動して腹部に拳を叩き込む。それをまともに受けたトネスはHPを大きく削られ、吹き飛ばされた。反動で俺の左腕がトネスの手を離れて地面に落ちる。すると腕は光の粒子となって散っていった。プレイヤー素材は一度落ちるとなくなってしまうようだ。
とりあえずこれはリアナの分にしておこう。一発分だけだがな。後はリアナ自身で返せばいい。
「て、めぇ! ちょっとは動揺しろよ! 腕獲られてんだぞ!?」
咳き込みながらこちらを睨んでくる。全く、言っていることが支離滅裂だ。
「……お前が言ったのだろう、たかがゲームだから、と」
言いながら二本目の左腕を生やす。拳を開いたり閉じたりして調子を確かめた。
「……チッ。生意気なクソガキだな」
自分に都合がいいことには口がよく回るらしい。逆に、都合が悪くなれば今のように逆上するとは。……どちらが子供なのかわかったものではないな。
「こっちは仕事なんだよ。邪魔してんじゃねぇって。てめえが殴ったせいでせっかく奪った素材落としちまったしよ?」
ゲーム内で仕事などと、プレイ方法が随分と間違っている。ゲームは娯楽であり、楽しむものだ。俺はただ、「楽しくゲームをする」ことに対して妨害行為をした者に嫌気が差しているだけなのだが。
「……これはゲームだろう」
「お子様にとっちゃあな。俺にとっちゃあ仕事なんでな。噂の《銃士》のプレイヤー素材となりゃ、高値で売れることだろうぜ?」
トネスは歪んだ笑みを浮かべた。……高値で売れるとは酷い言い草だが、ゲーム内で莫大な金を得るとしてもたかがゲーム内の資産でここまで歪むことはないだろう。となれば、リアルマネーが絡んでいる可能性もあるのか。
「……なら、奪ってみるといい」
「上等だ!」
俺が告げると、今度はトネスから突っ込んできた。やっと戦う気になったようで助かる。
トネスは右手のナイフで俺の首を狙った。俺は半歩下がってかわすと、右拳を突き出す。回避され相手に掴まれてしまった。絶好の機会だったというのにトネスは俺の腕を切り落とそうと肩口目がけてナイフを振るってくる。どうやらまだまともに戦う気にはならないようだ。俺は内側から手首を掴んで止め、掴まれた右手で相手の手首を持った。これで両腕を封じた格好になるわけだが。
俺にはまだ五本の腕が残っている。
腕を二本生やして頭上で手を組んだ形を取る。
「くそっ、放せ!」
喚くトネスのがら空きの頭に、そのまま組んだ拳を思い切り振り下ろした。相変わらず喋っているから舌を噛んでしまう。衝撃で下がった顎に向けて、左脚の膝を振り上げた。『爆裂甲』のおまけつきだ。爆発によりトネスの頭が跳ね上がる。
「……【ドラゴン・ブロー】」
俺は両手を放す。右拳を腰に構え、左手を前に突き出した。リアナにあげた『幻獣格闘』の一つだ。右拳のドラゴンの頭がくるように巨大なオーラが纏われる。
右拳を勢いよくトネスの腹部に叩き込むと、ドラゴンのブレスを模した衝撃が相手の身体を貫いた。
あまり『格闘』を使わない俺が放ってもかなりHPが削れている。『幻獣格闘』は強力なスキルだからな。
「ぐっ、くそっ。わかった、もういい。プレイヤー素材の剥ぎ取りなんてしねぇよ」
腹部を押さえて膝を突くトネスは急にそんなことを言い始めた。まだHPが半分ほどしか削れていないのだが。
「……」
どういうつもりかと思い黙っていると、ぺらぺらを話し出した。
「俺は普段プレイヤー素材なんて剥ぎ取ってねぇんだよ。ただ今回は、トッププレイヤーも多いここでプレイヤー素材剥ぎ取ってくれ、って頼まれただけで」
「……プレイヤー素材を剥ぎ取る時、とても楽しそうだったが?」
「あれは、あれだよ。だって――人嬲るのって楽しいだろ? ゲームでしかできないしよ」
「「「…………」」」
おそらく素で出ただろうその発言により、俺だけでなく闘技場全体の空気が変わる。今までもトネスに対する怒りのような感情は見受けられたが、今の一言によって皆の抱いている感情が一変したのだろう。
「ま、まぁ俺も外道じゃねぇし、真っ向から勝負してやるよ。いいよな?」
外道ではない、などとよく言えたものだ。
「……ああ」
俺は頷いて、腰のホルスターに提げた黒光りする銃に手をかける。……久し振りにこのような感情を抱いたな。
トネスはナイフを構えると、真っ直ぐに駆け出した。
「ははっ! バカが、《銃士》がまともに戦って勝てるわけねぇだ――ろ?」
打って変わって歪んだ笑みを見せるトネスだったが、駆けている途中で足を失ったかのように勢いよく地面に倒れ込む。本人もなにが起こったか理解できていないようで、目を白黒されていた。
「……『早撃ち』、『精密射撃』」
スキル名だけで理解できるとは思えないが。俺は素早く抜いた二挺の銃を下ろす。
《銃士》相手に真っ直ぐ突っ込んでくるのは愚策だ。今時初心者でもやらないような愚行と言える。円を描くように近づくのが常套手段であるとwikiにも書いてあったと思うのだが。
「ふざけ……たかが《銃士》如きがっ!」
理解できないのか喚いているトネスの両腕を撃ち抜いてやる。これで文字通り手も足も出ないだろう。
これでいつでもトドメを刺せるのだが、早く倒してしまおう。最初は怒りばかりが渦巻いていたが、今はもういい。というより、早く目の前からいなくなって欲しいくらいだった。
自分は仕事でやっているだけだからとゲーマーをバカにし。俺達を子供扱いしながらも仕事についてぺらぺらと喋り。仕事だからと言いながら自分の歪んだ趣味を織り交ぜて行い。少しは見直されている《銃士》についても認識が低い。それら全てを含めて頭の螺子が緩んでいる、というより外れているとしか思えないのだが自分は外道でないと言い。
これは、あれだな。クズだとか酷い人間性だとかそういう話しではないのかもしれない。
精神が終わっている。
少なくとも俺はそう結論づけて更生の余地など考えたくもなかった。俺も表情には出さないとはいえ人の子だ。好き嫌いがあれば諦めることもある。
そう考えれば言いたいことはたくさんあるのだが、早く目の前からいなくなって欲しい。それでも一言だけは言っておきたいか。
「……」
俺は四肢を撃たれて地面に倒れ伏すトネスの頭に向けて銃口を向ける。
「……なんで俺がてめえなんかに倒されるんだよ、ふざけんな……俺は」
ぶつぶつとなにやら呟いていたが、興味がない。
「……一つだけ言っておく」
俺は静かに口を開いた。
ゲーマーを舐めるな。ここで謝罪しろ。二度と俺の前に姿を見せるな。
色々な言葉が頭の中を回っていく。しかしそれら全てを押し退けて、たった一言だけを口にした。
「……お前、弱いな」
「っ――!!」
バン。トネスが俺を睨み上げてなにかを言う前に引き鉄を引いた。HPが大きく削れて真っ白になり、光りの粒子となって散っていく。
ようやく終わってくれた。……トネス、俺はお前を忘れたい。しかし忘れることはないだろう。数少ない、俺が軽蔑の感情を抱いた人物だからな。
俺は勝利の余韻もなく、踵を返して控室へと戻っていく。
ちなみに。
試合後にユイの扇動で、闘技場にいる全員が運営に向けてプレイヤー素材廃止の意見を送りつけた。嫌がらせを思いつくのが得意な我が妹のことだ、必ず廃止されることだろう。
展開を見ればわかると思いますが、感想等は読んでます
返せてないのが申し訳ないのですが
とりあえず色々とあれなところもありますが、コメントなどお待ちしてます




