あの兄にしてこの妹
遅れましたが、先週の分です
書いてる途中でパソコンがフリーズしたり、スマホが壊れてわたわたしたりしてましたw
今週分は土日に更新できそうです
制限なしのバトルトーナメントも二回戦に移っていた。
第一試合、我がギルドのカタラVSティアーノ。炎と氷、互いに譲れないこだわりがあって正々堂々と真っ向からぶつかり合っていた。
その凄まじさたるや、パンクハザードのようになるかと思ったほどだ。
勝敗を分けたのは、やはり職業だろうか。カタラが《鍛冶師》なのに対し、ティアーノは《剣士》だ。生産を本分とするカタラと戦闘を本分とするティアーノでは、ステータスの偏りに若干の差が生まれる。
一回戦の時はカタラが、攻撃を受ける前提である壁役のジャンと戦ったからこそ勝てたのかもしれない。
第二試合、またもや我がギルドのレヴィVSクノ。マシンガンを扱う《銃士》のレヴィと《忍者》のクノという勝負となったわけだが、結果はクノの勝利だった。俊敏性の高いクノ相手にレヴィは数を撃てば当たる戦法で善戦していた。しかしリロードの瞬間や経験の浅さを狙われて着実に追い詰めていたクノが勝利を掴んだと言える。
レヴィは試合が終わって戻ってきてから落ち込んだ様子で「……見せ場なかった」と呟いていた。そこまで肩を落とす必要はないと思うのだが。おそらく今回のトーナメントで第二陣以降のプレイヤーで勝ち上がったのは彼女だけだろう。流石に他のプレイヤーの参入時期まではわからないから確かなことは言えないが。
わからない残りの二人もかなり手慣れている様子であったため、第一陣の可能性が高い予想だ。
そして今、第三試合であるユイVSバーグの試合が始まろうとしていた。
「……」
珍しく、ユイがにこにこといつものように笑顔を浮かべていない。俺の妹が本気であるという証だ。
「あんなユイちゃん、初めて見ました」
控室まで戻ってきたレヴィがモニターを見上げながら言った。
「私も見たことはありますが、ここまでとなると初めてですね」
《魔導学院》のメンバーである《執事》のセバスチャンも頷いている。……ところで彼女は《魔導学院》に加入しているにも関わらず魔法を習得している様子がなかったのだが、なぜだろうか。仕える相手さえいればいいということだろうか?
「リョウさんは見たことありますよね?」
比較的落ち着いてきたリアナが聞いてきた。
「……ああ。あれくらいなら何回もな」
俺は頷きつつ、頭の中で数え始める――十回を超えた辺りで数えるのを中止した。意外とユイはムキになるところもあるので、もっと幼い頃は多かったと思う。最近だと年に五回ぐらいあるかないかといったところだろう。
「今より怒ってる時ってあったんですか」
リアナが俺の言外に含んだ意味合いまで読み取って呆れた顔をしてみせた。
「……そうだな」
思い出すと恐ろしいこともあるのでやめておくが、ユイが本気で叩きのめすくらいに怒っている時は戦う相手としてかなり厄介だ。ただで済むとは到底思えない。
プレイヤーの装備を盗むこともするバーグは灰色のフードに黒いマスクをしていて、目つきが悪いこと以外は人相がよくわからない。
ジャンの話によると、こういう場で相手の装備を盗むにはステータスやレベルの差がかなり必要になってくるらしい。腕自慢が多く集まったこの闘技場で盗みを行うということはそれだけ優れたプレイヤーでもあるということだそうだ。ただし、器用さが必要になるそうなので素早さ以外のステータスに関してはそこまで高いことはないとのことだった。
試合開始のアナウンスがあり、二人は各々の武器を構える。
「ねぇねぇ、いいこと教えてあげよっか?」
真面目な表情から一転、ユイが満面の笑顔に変わった。この一瞬の表情変化こそ俺が衣を被っていると称する所以である。バーグも急変した彼女に驚いて目を瞬かせている。
「……あんだよ」
しかし油断なく腰を低くすると、ぶっきらぼうに応えた。
「このネックレス、実はエリアボスから超低確率でドロップする凄いアイテムなんだ」
「っ!!」
ユイが首から提げたエメラルドの首飾りを掲げると、バーグの目の色が変わった。
「これゲットするのすっごく苦労したんだよ? 同じボスを何回も何回も倒してドロップするまで周回しまくって。まだ生産方法が見つかってないから、どうしてもドロップさせたかったんだよねぇ」
ユイがしみじみと語ると、セバスチャンが「あれは苦行でした」と頷いていた。
「……はっ、はははははっ! トップ中のトッププレイヤーが持ってる装備だからどんな高級品かと思えば、極稀に泥するレベルの激レア装備じゃねぇか!」
バーグは人が変わったように高笑いをする。マスク越しでも笑みを浮かべているのがわかるようだ。……対バーグ用の挑発手段といったところか。本気の相手を完封なきまでに叩きのめしてこその我が妹だ。
「奪いたいなら奪っていいよー。奪えるものならね?」
「いいぜ、身ぐるみ剥いで大儲け!」
ユイの挑発に乗って、バーグは自身に身体強化スキルを発動させる。エフェクトはあったが口に出していないのでスキルの方だろう。
「……でもあんまりうちの子達苛めないで欲しいな。じゃないと」
ユイは困ったように笑って言ってから、
「生きてること後悔させんぞ――みたいなことになっちゃうよ?」
見たこともないような怒った顔を作り、その直後には満面の笑顔になった。流石はユイだ。表情を作ることに関しては卓越している。
「やってみろよ、泣いて後悔すんなよ?」
バーグは上等だとばかりに笑い、ユイへ向かって駆け出す。それに応えるように、ユイも走りながら魔法を詠唱し始めた。
ライアの時のように距離を保って戦えないと見たのか、攻撃だけでなく防御や阻害といった魔法も駆使している。
しかしバーグもこれまで勝ち上がってきた実力は本物なのか、回避し受け流して徐々に距離を詰めていく。ユイが魔力回復薬を使っている間に軽快な動きで距離を詰めていた。こうして攻められないユイも珍しいものだが、最低限のダメージで抑えられているため状況が良くない。
「あー、もうっ! 【アイス・シールド】!」
自棄になったかのように、自分とバーグの間に氷の壁を築いた。防御のためというより、障害として使ったようだ。
「ちっ、【リフレクナイフ】」
壊すのは面倒と考えたのか、バーグは投げナイフを取り出すと斜め上に向かって放り投げた。するとナイフは空中で反射して向きを変え、氷の壁を越えユイに向かって飛んでくる。ユイはそのスキルを知っていたのか事前に構えていた杖でナイフを受けた。しかしその間にもバーグは氷の壁の左側を回ってきている。
「【ステップバイト】!」
ナイフを右から振ってすぐさま左に返す。わざとなのかユイの持っている杖に当たり、妹は後退を強いられてしまった。その後も続け様に攻撃してユイを壁際まで追い込んでいく。
「【アイシクル・ニードル】」
壁を背にしたユイは地面から氷の棘を出現させて牽制しつつ、氷に杖を突き立てた。地を蹴って身体を宙に浮かせ、続いて後ろにある壁を思い切り蹴って身体を上に持っていく。その勢いのまま棘の上をくるりと回転しながら杖を引き抜き、氷の棘を越えて着地した。
「ゲームじゃなきゃできないけどね」
ユイは苦笑して言いながらバーグに向かって炎の矢を放つ【フレイム・アロー】を使う。相手はそれを掻い潜って駆け出すが、今は充分な距離がある。魔力回復薬でMPを全快にすると、敵から逃れようと半歩後退した、その瞬間。
ぴっ、というスイッチを押したような音がしたかと思うと地面から鉄帯の束が伸びてくる。鉄帯はユイの両手首を絡め取って上に持っていった。両手首を頭上で縛られ、地も足に着いていない状態となる。
「……『罠張り』のスキルかぁ。警戒はしてたんだけどなー」
「これでも結構苦労したんだぜ? トッププレイヤーを罠にかけるってのはめんどくってな」
ユイの苦笑に、バーグは肩を竦めて応える。ゆっくりとした足取りでユイに手が届く距離まで近づいていく。
「まぁでもこれで、終わりだな。もちろんレア装備をいただいてから倒すが」
バーグはにたりとした笑みを浮かべて舌舐めずりし、ユイが最初に紹介していたエメラルドの首飾りに手を伸ばした。
「っ、……いやっ、やめてっ!」
すぐさま涙目で懇願する。突然のことにバーグも思わず手を止めていた。
「……あんた、ゲーマーより女優の方が向いてるぜ」
「褒めてくれてありがとっ」
顔を引き攣らせて言った皮肉にも、満面の笑顔で応えてみせる。……この態度が本当に窮地なのを隠そうとしているからなのか、それともなにかしらの策があるのかは俺でもわからない。間近で見ればわかるだろうが、映像では判断が厳しいな。
「俺は、あんたの兄よりあんたの方がよっぽどこえぇよ」
バーグは気を取り直して首飾りに触れる。にたりとした笑みで、
「【スティール】」
と呟いた。すると首飾りが光に包まれる。光が収まるとユイの首から首飾りが消えていた。代わりにバーグの手に首飾りが握られている。
「……『窃盗』のスキルだな。【スティール】ってのは触れているアイテムなんかを確率で自分のモノにするっていうアビリティだ」
これまでと同じように装備が盗まれている状況に、ジャンが険しい顔で解説してくれた。
「ははっ! これが超レア装備か! 一個目でこれとなると、他のもんもさぞかし高値で売れるんだろうなぁ」
バーグは高揚したように笑ってユイの装備を上から下まで品定めしていく。
「……ねぇ」
そんな高まった気分を鎮めるように、ユイが小さく呟く。
「あん?」
楽しみな時間を邪魔されてかバーグがユイを睨みつけた。
「さっきお兄ちゃんよりユイの方が怖いって言ってたけど、その認識って今も変わってない?」
「はあ? さっきの今でそう簡単に変わるわけねぇだろ」
「じゃあさ、なんでもう勝ったみたいに喜んでるの?」
「はっ。それこそ愚問ってもんだろ? この状況で、俺が、あんたに、負ける要素はねぇ!」
既に勝利を確信しているのか、両腕を大きく広げ闘技場にいる全員に知らしめるように告げた。この状況下でユイの勝利を確信している者など少ないだろう。《魔導学院》のメンバーらしき一団が映像に映ったが、誰も彼もが悔しげな顔をしていた。
「そっかー、結局その程度だったかー。残念だなー、お兄ちゃんより怖いって言うから期待してたのになー」
ユイは気の抜けた声で言う。長い付き合いの俺には、本気でやる気が削られているのがわかった。
「なに言ってんだ、あんた」
困惑するバーグの耳元に、ユイは顔を近づけ、
「――あのお兄ちゃんの妹がただの女の子なわけないでしょ、ってこと」
低く冷たい声でそう囁いた。バーグは悪寒が走ったのか身体を硬直させる。ユイはその隙にまた唇を開いた。
「【リセット】」
静かに発動されたそれにより、バトルフィールドの地面全体に時計のようにも見える巨大な白い魔方陣が展開される。半球体になるように時計の紋様が二人を覆った。半球体にある無数の時計が一斉に高速で逆回転し始める。ある時点まで逆回転すると時計は止まり、白い光を放って消えていった。
「あ、り得ねぇだろ!?」
驚きに包まれた闘技場全体の中でも、真っ先に声を上げたのはジャンだった。その身体はわなわなと震えており、目を見開き全身で驚きを表現している。
モニターから見る映像では、ユイとバーグが中央の十メートルほど離れた位置で向かい合っていた。
「【アイシクル・プリズン】っ」
先程とは打って変わって明るい声が響き、呆然としたバーグの首から下を氷漬けにした。それを放った張本人であるユイは飲み終わった魔力回復薬を地面に投げ捨てる。砕けた瓶は光の粒子となって霧散した。
「く、そったれが! あり得ねぇだろ! ふざけてやがる! どんなチート使いやがった!?」
首から下を氷漬けにされた状態で、バーグはユイに向かって怒鳴る。彼もこの状況を作り出した【リセット】とやらに心当たりがあるようだ。俺にはないので、真っ先に反応を示したジャンの解説を待つことにしよう。
「……【リセット】ってのは、存在は確認されてるんだがそれを使えるだけのMPを持ってるとこまでいけてなかったんだよ。効果としてはある時点まで時を戻した状態にするっていう強力なものだが、なにせMPを1000使うからな」
期待通りジャンが解説してくれる。……MPが1000必要、か。俺がレベル100に到達したところで使えそうにないアビリティだな。俺はMPをあまり使わないから伸びが違うのだとしても、こうも驚かれているということは現状では到底使えないということだと思うのだが。
【リセット】後の状況としては、位置が戻っている。加えて盗まれたはずの首飾りがユイにかかっているので、戻っていた。ただHPとMPは違うようで、戻る前と同じだ。ユイは【リセット】を使った影響で全快から大きく減ってしまっているが。見ただけでわかるのはこの程度だろうか。後で詳しくユイに聞いてみよう。
流石はユイだ。
「チートなんて、お兄ちゃんじゃないんだからそんなの備わってないよ?」
俺もチートは使った覚えがないのだが。
人聞きの悪いことを言う妹に呆れながら、得意気に語り始めるユイの言葉に耳を傾ける。
「答えは簡単、今の装備ってほとんどがMP上昇効果のついたヤツだから。ユイはこれでも魔法職で上の方にいるから元々のMPだって高いけど。周回に周回を重ねてレア装備集めまくって上から下までMP補強装備で揃えてみましたっ、ってだけのことだよ?」
「ふざけてやがる。なんでそこまでして……」
バーグの言葉に、ユイはにっこりと答える。
「だって、その方が精神的ダメージがあるでしょ?」
「「「っ!?」」」
無邪気に見える笑顔で、なんということを言うのか。
「そ、んなことのためにINT捨てたってのか?」
「うん。まずユイは絶対に倒すって決めた相手が、どうしたら一番ショックかなーって考えるの。まぁ大体の人は勝ちを確信してから逆転されるのが心に来るから、【リセット】はその点ばっちりだよね?」
動揺する声にユイは平然と頷いてみせた。
「頭おかしいだろ……」
「酷いねー。別にどう言われても気にしないけど。あとね、実はユイの装備だけで一個だけMP上昇じゃない装備があります。さてそれはどれでしょう!」
「……。まさか、首飾りか?」
「正解! ユイのことが段々わかってきたかな? ユイは勝利の確信をピンチに変えるために【リセット】を選びました。でも相手が《盗賊》ってわかってるなら他の装備盗まれたら困るから、これは真っ先に盗みたいっていう超レア装備用意しなきゃでしょ?」
「っ、狂ってやがる」
「もぅ、女の子にそんなこと言うとモテないんだからね?」
完全にユイのペースに嵌まっているバーグに対し、可愛らしく頬を膨らませていた。
「大体、ユイにここまでさせたのはそっちだよ? うちの子達から装備盗んだりしなかったら他の人に任せてたし」
「知るかよ、俺は手当たり次第にやってただけだ。そんなに盗まれたくないんだったら俺から盗られないくらいの強さになっとけよ」
「うん、そうだね。それは後でユイがお説教と特訓をするとして」
ユイがバーグの言葉に頷いているのを見て、《魔導学院》のメンバー数人が身を震わせていた。
「それでも――」
ユイは一呼吸置いて、真っ直ぐにバーグを見据え告げる。
「それでも私は|《魔導学院》のギルドマスターだから。私のギルドに手を出したあなたを許すわけにはいかない」
珍しく落ち着いた、凛とした表情をしていた。普段とは違う雰囲気に誰もが呑まれ、静寂が訪れる。
「……っということで、そろそろ氷漬けも融けちゃいそうだし勝負決めちゃうね?」
再びころりと表情を変えていつもの笑顔を見せた。しかし俺にはわかっていた。久し振りに真面目なところを見せて照れているのだということが。
「……くそっ。やっぱあんたら兄妹だよ」
氷の牢獄に囚われたバーグは敗北を認めているようだ。
「ありがとっ」
満面の笑みでその言葉を受け取るユイだったが、ふと思い出したように「あっ」と声を上げる。
「そういえば倒す前にこれだけは言っとかないとダメだった。忘れるとこだった、危ない危ない」
ユイが一人で思い出していると、他の全員が頭に? を浮かべていた。
「あなたに裏で依頼して、トッププレイヤーの装備集めろって言った組織によろしく伝えといてね?」
にっこりと微笑んで告げる。それでも俺や大勢の頭から? は消えなかったのだが、言われた本人には意味が伝わったようだ。
バーグは目を大きく見開き、唇を震わせる。先程のジャンよりも顔だけだというのに驚いているように見えた。
「……な、んで、てめえがそれ知ってんだ!!?」
余程重要なことだったのか、バーグが怒鳴る。それこそ、ユイが求めていた反応だというのに。
「あはっ♪ そう、それ。その顔が見たかったの」
嗜虐と恍惚に満ちた素の笑みを見せ、頬に両手を添える。……出たな、ドSの笑顔。隠し切れない本性が表に出てしまった時はああいう顔になる。
俺以外の大半がうわぁ、という顔になっているのが容易に想像できた。
「それじゃあユイの用事も済んだし、そろそろ終わりにしよっかな」
「待て! てめえ、どこでそれを知った!? 答えろ!」
「あはっ。やだなぁ、そんなの敵に教えるわけないでしょ?」
「ふざけっ……!」
「それじゃあいっくよー」
憤るバーグを無視して、ユイは陽気に杖を振りかざす。いつの間にかMPが全快している。回復薬を使っていたようだ。
「――神の裁き。咎人の罪を洗い流す聖なる祈り」
ユイの口ずさんだ言葉に応じて金色の魔方陣がバーグの遥か頭上に展開していく。
UCOを最初からプレイしている俺だが、わざわざアビリティ名以外を口にする魔法など聞いたことはない。
「嘘、だろ……? 【リセット】に続いてこれもかよ……」
ジャンが口をあんぐりと開けて驚いていたので、凄いことなのだろう。
「くそっ! 壊れろ、まだ聞きたいことがあるんだよ!」
今更になってバーグが足掻き始めるが、もう遅いだろう。
「我らの願いを聞き届けたまえ。審査の果てに無慈悲なる裁きを与えたまえ」
魔方陣は一つではなく、幾重にも展開していった。その中央を金の光が一筋下りていて、バーグに降り注いでいる。
「彼の罪人に大いなる裁きの一撃を。神罰執行――【ジャッジメント】!」
詠唱を終えると魔方陣が輝き出し、音もなく極大の光が空から降ってきた。眩しすぎてどうなったか全く見えない。
光が収まってからモニターを見つめると、バーグが跡形もなく消し飛んでいた。物凄い威力の魔法だ。ユイのMPも大半が削られている。
「てへっ」
ユイは息を呑む闘技場で一人、舌を出して右手をこつんと頭に乗せた。
結果としては我が妹の勝利ということだが、どうやらそれ以外のことの方がこのゲームに齎したモノは大きかったように思う。
「……【ジャッジメント】ってのは対象がこれまでに何体モンスターを殺してきたか、とかそういう罪の数に応じて威力が上がる魔法だ。まぁよくよく考えればINT上昇装備つけてない今、最も威力が出そうなのはこれだろうが、これだろうがよ……っ」
ジャンは呆れて声も出せないようで、肩をがっくり落とした。
「やっぱお前ら頭おかしいわ」
結論がそこか。それは全く、
「「酷い話だね(だな)」」
俺の声と急いで戻ってきたらしいユイの声が被った。
「……お疲れ」
「うん。いやぁ、途中上手くいくか不安だったんだけどね。上手くいって良かったー」
「……相変わらず徹底していたな。やりすぎは良くないぞ」
「そのセリフはお兄ちゃんだけには言われたくないよっ」
言い合いながら、俺は戻ってきたユイの頭を撫でて労う。
「えへへー。お兄ちゃんは優しいね」
「……気のせいだ」
嬉しそうに目を細めるユイに告げた後も、しばらくは頭を撫でてやった。あの時少しだけ見せたユイの本心から、妹が本当にギルドマスターとしての責任を全うしようとしていることはわかる。あまり責任重大なことをしないので、兄としては労ってやらなければならないだろう。
「なんか、兄妹仲いいですね」
後ろから呆れたようなレヴィの声が聞こえ、振り返る。
「うん、お兄ちゃんとユイはいつでもラブラブだよっ」
「……普通だろう」
対照的な答えを返してしまった。
「むぅ。お兄ちゃんってば酷いよ」
「……他の兄妹を知らないからな。俺はこれが普通だ」
頬を膨らませる妹に言って、俺は気持ちを切り替えるために一度を目を閉じる。
「……では、行ってくる」
俺はリアナに視線を向けて告げた。
「はい。頑張ってください、リョウさん」
なぜ自分に言ったのか気づいたのだろう、柔らかな笑みを浮かべて見送ってくれる。
……ユイは上手くやった。それも先程の俺とは異なり空気をあまり悪くしないで、だ。相変わらず凄い妹だった。俺はそこまで器用に、物事を思い通りに運ぶことはできない。
それでも俺も《ラグナスフィア》のギルドマスターだ。この勝負で敗北することなど許されなかった。
和んだ空気を捨て、これまでにあった怒りを自分の中に満たす。意を決して、俺はバトルフィールドへと歩いていった。




