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Universe Create Online  作者: 星長晶人
第三章

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74/88

ティアーノの戦い方

遅くなりました

最近更新できずにすみません


ちなみにUCOは明日(日付変わってから)も更新します

できるだけささっと終わらせたいとこですが

 決勝トーナメント第二試合、《ラグナスフィア》所属ティアーノVS《ラゴン・キャッスル》所属ディーグル。

 《ラゴン・キャッスル》とは中小ギルドの一つでまぁ、あまりいい噂は聞かないギルドだ。ツールを使ってプレイヤーキャラクターをカンストさせようとしただの、NPCから金を巻き上げているだの。楽して強くなろうとすれば、それだけ不当な道に入ってしまうということだろう。


 そもそもゲームはやればやるだけ強くなるのだから、現実よりも簡単だというのに。


 要するに、《ラゴン・キャッスル》というギルドのメンバーはゲームとしてこのUCOを楽しむつもりはなく、バーチャル世界としてUCOを楽しもうとしているのだ。

 現実では犯罪になることも、仮想世界ならば法律がないため罰することはできない。

 そのようなつまらない人間が、ここには存在しているのだ。


 そのこと自体は確かに問題だが、俺達に関わらなければ手を出すつもりはない。……そう、俺達に手を出さなければ。


 兎に角、今はティアーノに任せるとしよう。彼女は第二陣の新人と共に《ラグナスフィア》に加入したプレイヤーだが、βテスターとしてユイやカタラ達と同様の経験を持っている。単独でもトッププレイヤーの一人だ。

 表情はあまり表に出さず、こうして控室から映像で眺めていても彼女の心情は計れない。傍にいてもわかるかどうかは怪しいが。


 いつもと変わらぬ冷静な瞳で対戦相手のディーグルを見据えている。相手もティアーノを見据えているが、嫌なにやけ顔をしている。にゅるにゅると蛸足を数本出して臨戦態勢を取っていた。


『それでは、始めてください!』


 開始の合図があり、俺達にとって注目の試合が始まる。


「……【ジ・アイス】」


 開始と同時にティアーノがまず動いた。MPがごっそり持っていかれる代わりに自分の周辺フィールドに有利な特性を持たせることができる。

 【ジ・アース】なら荒野、【ジ・ファイア】なら燃ゆる大地、【ジ・ウォーター】ならくるぶし程度までの水が張られるという風に、属性に因んだフィールドを形成することができるのだ。


 【ジ・アイス】の効果により、闘技場のバトルフィールドの地面が氷に彩られる。同時にディーグルの吐く息も白く染まった。おそらく全体に冷気が漂っているのだろう。


「へぇ、初っ端からMPをそんなに消費していいんですか?」


 ディーグルはそこまでデメリットを受けていないらしく、余裕そうな態度を崩さない。ただ、油断なく矢を番えているのは流石にプレイヤーとしても強くなっただけはあるのだろうか。


「……」


 ティアーノはなにも答えず、氷のように美しい刀身を持つ長剣を静かに構えた。柄を両手で持ち、右腰の辺りに提げた姿勢だ。


「だんまりですか。全く以って、面白くない」


 そう言いながらも高速で弓を構えて矢を射出した。《射手アーチャー》の『速射』スキルだ。しかしティアーノはしっかりと剣で弾いてみせた。


「やっぱり第一陣のプレイヤーは違いますね。――【ジ・マーシュ】」


 ディーグルは余裕を崩さないまま、左手を地面に着くと氷のフィールドを暗い沼で上書きする。……種族から考えると有利とは思えないのだが。


「厄介だな。毒沼のフィールドだ。毒持ちじゃない限り継続ダメージがあるんだ」


 俺がわかっていない雰囲気を出していたわけではないと思うが、ジャンは表情を険しくして説明してくれた。……ふむ、相手が俺でなくて助かった。低いHPで回復手段も持たないのであれば短期決戦を挑むために焦りが生まれるかもしれない。


「けど、相手があのティアーノちゃんなんだよね」


 ユイが俺の気持ちを代弁してくれた。そう、相手はティアーノである。


「ツールとか使ってるかもしれないんだぞ? なにをそう安心して見てられるんだか」


 ジャンが慌てた様子も見せない皆を見て肩を竦めていた。おそらくティアーノもそのことは知っているだろう。


「……心配するな、見ていればわかる」


 俺はジャンの方を見ずにそう告げておく。一々騒がれては試合に集中できないからな。


 モニターを注視していると、ティアーノから動き出した。


 ちらりとHPバーを見て減少具合を確認すると、一気に駆け出す。……大体一秒に一%程度減っているようだ。かなり効果的な継続ダメージと言える。

 長剣を携えて駆ける彼女をディーグルは『連射』のスキルで迎え撃つが、そんなモノが当たるはずもなかった。真正面から飛んでくる矢を視認して避けていく。容易く懐に入ってみせた。

 ディーグルは忌々しげに顔を歪めていたが、すぐに新たな蛸の腕(?)を出現させて近接戦闘に移行する。多くの多腕種族のプレイヤーが陥りがちだが、二本以上の腕を出すと上手く扱えなくなる。ディーグルもティアーノを迎撃するために出した腕に集中してしまい、弓矢を持つ腕が留守になっていた。


 しかしよく人の腕もないのにああも自在に操れるものだ。骨がなくとも鞭のようにしなってティアーノに襲いかかっている。ツールで補えるようなことではないだろう、あれでもきちんと戦えるようにしたらしい。


 ティアーノは二本の蛸腕を長剣で捌きながら隙を窺っている。その間にもHPは減少していき、武器と打ち合っていることもあってディーグルのHPも徐々に減ってはいるが、彼女の方が不利な状況には変わりない。

 そこでディーグルは少し息を吸い込み毒を吐いた。ティアーノは自身の表面を凍らせて防ぐが、距離を取られてしまう。


「……まずくないか? 決定打もねぇし、かといってMPもあんまねぇし」


 ジャンが雲行きの良くならない試合を見て慌て始めるが、まだそう慌てる時間ではない。あと一分ほど猶予がある。


 また先程と同じようにディーグルが『連射』で牽制し、ティアーノがそれを掻い潜っていく。

 しかしその途中で、ティアーノが長剣を地面に突き立てて跳び上がった。作った氷柱の上に踵を乗せてくるりと回転し、ディーグルの頭上から剣を振り下ろす。ディーグルは予想外の動きに驚いていたが、矢を番えて狙い撃った。ティアーノはその直前に相手を半円状の氷で覆って防ぎ、背後に回ったところで氷を解除する。しかし中に毒を充満させていたようだ。それでもティアーノは毒を無視して突っ込み、長剣で切りかかった。

 ディーグルは蛸の腕二本を交差して防ごうとしているが、いわば素手で受けるのだ。凍らせて切断し、部位欠損の追加ダメージもあり大幅にHPを削る。続け様に四方の地面から氷の棘を作り出して追撃した。ディーグルは右脇腹を穿たれながらもそのほとんどから逃れていく。


 ここに来てようやく、ティアーノが攻勢に出て成果を得た。


「チッ!」


 ディーグルは最初の余裕などなく追撃に移ったティアーノを迎撃しようと弓を構えるが、それでは遅い。氷の壁がディーグルの腕の途中に現れ、阻害された。


 ティアーノの猛攻から逃れたければ、そうだな。空でも飛んでみるのがいいだろう。


「くそっ」


 氷の壁から無理矢理腕を引き抜くと、矢を空高くに放った。【アローレイン】だろうか。いや、なにも呟いていなかったので別のスキルだ。

 ティアーノもそれはわかっているのか、攻撃の手を止めて自分を覆い尽くすほど美しい氷の茨で檻を作り上げた。


 空から降ってきたのは巨大化した十メートルほどの矢だ。MPの減りが大きいのであまり使いたくなかったのだろう。それに、毒で相手を倒そうとする癖もあるように思える。


 茨で巨大な矢は防いだが、ティアーノのHPは既に三割程度まで減っていた。しかも途中で受けた毒と重複しているようで、減りは早くなっている。残り二十秒、といったところか。


 HPがレッドゾーンに突入しても表情一つ変えず、ティアーノは攻撃を再開する。

 ティアーノの氷とディーグルのスキルがぶつかり合い、またもやティアーノが懐に入ることとなった。いや、今回の場合は招かれたと言った方が正しいか。


 ディーグルは二本の蛸足を出現させ、元からあった脚も蛸のそれへと変化させる。そうしてティアーノの四肢を絡め取り、動きを封じたまま押し倒して残った二本で弓を構えた。眉間に矢の先を突きつけ、もうトドメを刺す気だろう。


 しかし、それでは甘いと言わざるを得ない。


 勝利を確信しにやりと口元を歪ませたディーグルの頭を、後ろから飛んできた氷の刃が刺し貫いた。

 HPが一瞬の内に真っ白へと変わる。ポリゴン体になって消える前に、彼がなにが起きたのかわからず目を白黒させているのがわかり、少し気分がすっとした。


『試合終了! ティアーノ選手の勝利!』


 アナウンスがされ、勝者の名前が呼ばれると同時に闘技場が湧き上がる。


「はっ? なんであんなとこから氷飛んできて……いつ仕組んでた?」


 我に返ったジャンもディーグルと同じように驚愕していたが、なんということはない。


「……簡単だ。普段からティアーノは『氷雪凍土アイス・ブリザード』しかスキルを使わない。下手なスキルを使うよりも自由度が増すからだな」

「要するに、ティアーノちゃんはフィールド全体の範囲で想像力を働かせて、いつでも氷を作り出せたんだよ。ほら、一度に何個もやろうとすると失敗するでしょ? ティアーノちゃんの想像力なら自分が戦ってる最中でも氷塊をぐるぐる飛ばせたりするの。うーん、わかりにくいかな?」

「あー、おう。なんとなくわかった。つまりあれだ、ティアーノも何本も腕出して別々の生産できるリョウタイプの、並列思考できるヤツだな」

「お兄ちゃんのそれとは違って、全部まとめて想像してるんだけどねー。対処法難しいんだよ?」


 なぜか俺の名前が挙がっていたが、俺はティアーノほど奇抜ではないだろう。ただ二本の腕で『調合』を行って、別の二本の腕で『裁縫』を行っているというだけだ。


「勝ったわ」


 そんな話をしている内にティアーノが戻ってきた。皆は次々と労いの言葉をかけていく。


「これで、あなたと戦えるわね」


 ティアーノは次の対戦相手であるカタラを見据えて言った。


「……負けない。炎は最強」

「ええ、氷の次にね」


 二人の氷炎相容れない対戦が、どうやら公式でも行われるようだ。存外仲がいいので放っている。


「しっかし凄いよな、ティアーノも。俺にはできそうにねぇ」


 ジャンが苦笑混じりに告げると、ティアーノはなんの話かわからなかったようで小首を傾げた。


「なんの話?」


 いきなり言ってもわからないだろうと、俺が教えようと思う。


「……ティアーノの頭がおかしいという話だ」

「あなただけには言われたくないセリフだわ」


 他の面々もうんうんと繰り返し頷いていた。……なぜだ。

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