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Universe Create Online  作者: 星長晶人
第三章

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先輩として

本日二話目

 武器使用禁止(装備禁止)、戦闘スキル使用禁止(補助スキルは使用可)のルールがある二回目のアップデートで追加された施設闘技場(コロシアム)を使ったプレイヤー主催の大会に、《ラグナスフィア》は参加していた。

 といっても全員参加は特に制限のなんでもありのルールの方であり、制限のあるガチンコバトルは俺、リアナ、クノ、アカリが参加することになっている。


 そして俺は今、その初戦に出る一人として、バトルフィールドで体勢を低くし構えていた。


 相手は俺と違って鈍重だが頑強そうな甲冑で首から下を覆い、両腕に丸盾を装着している。持つタイプではないのは戦う道具として使う盾が武器にもなり得るからであり、事実身体を覆うほど大きな盾で殴りつけて戦うプレイヤーもいるという。……しかも《銃士(ガンナー)》より数が多いとは、どういうことだろうか。

 俺と相手の装備を見比べるに、相手から動くことはまずないと見ていいだろう。俺から動き出すのを待って、返り討ちにしてくるつもりなのかもしれない。

 俺が訓練で告げていたことは、「紙装甲」で「攻撃力が低い」こと。だからこその重装備なのだろう。先程から口だけでブツブツと呟いているのは、おそらく「対リョウ用作戦」だろう。俺の『見切り』を使った読唇術によれば、「……まずは攻撃に耐え」や「……相殺しにきたら攻撃し続けてHPを削る」などと呟いているようだった。残念ながら俺の対策としてはこれ以上ないほどに完璧だった。三日間、かなりしっかりと俺について偵察したようだ。

 出場者が大勢いる中で俺の情報収集に労力を費やすのは、些かもったいない気がするのだが。……それが俺の狙いでもあるのでいいか。


『さあ、緊張感が高まって参りましたっ! 最初に動くのはもちろん――?』


 なぜそこでちらっと俺を見る。それは俺に空気を読めということか。コミュ障の俺に空気を読めと? 確かに俺は学校のクラスでは空気のような存在だが。……自分で言っていて悲しくなるな。文化祭で器用さを活かしてもらおうと話しかけられるが、普段はほとんど話さない。クラス内でさえ認識が「優衣ちゃんのお兄さん」程度だからな。……では優衣がいなければ「ただのクラスメイト」だったわけか。卒業後に集合写真を見て「これ誰だっけ?」と言われるレベルだぞ。恐ろしい。そこだけは優衣に感謝しなければならない。

 兎も角、仕方がないので俺から動き出すことにする。あまり硬直状態でいると観客席から野次が飛んでくるからな。野次などは精神が紙装甲の俺では精神的ダメージによって倒れてしまう。見えないHPがすぐ真っ白に吹き飛んでしまうぞ。


「……」


 なにはともあれ俺から動き出すことにして、『左右歩行(ジグザグ・ステップ)』を使い的を絞らせないようにしながらコータという相手プレイヤーへ突っ込んでいく。


『やはりリョウ選手から動いたーっ! 確かあれは『左右歩行(ジグザグ・ステップ)』という、第二回イベントでランダムに出るクリア報酬の宝箱から手に入るスキルですね!』


 実況はさり気なく空気を読んだ俺にウインクをしていた。

 どうやら報酬は一覧がありそこからランダムで宝箱となるらしく、情報は漏れていた。


『流石は〈蠍〉! 重装甲プレイヤーには意味のない移動補正スキルを見事に使いこなしてコータ選手に迫るーっ!』


 実況は会場を盛り上げる実況をこなす。闘技場(コロシアム)はいつになく盛り上がっていて、実況のテンションと見事に合致している。


 俺は相手の手前三メートルで、いきなり斜め左上に『跳躍』した。そこからくるりと体勢を変え『空中跳躍』で右斜め上に跳ぶ。スキルではないが、名義するなら『空中左右跳躍エア・ジグザグ・ステップ』だろうか。

 タンタンタンタン、とリズム良く体勢を変えて左右からジグザグに『空中跳躍』する。


『これはおそらく『跳躍』からの『空中跳躍』でしょう! というか普通の人は空中で身を翻すとかできません! 良い子は真似しないようにお願いします!』


 実況になんとも失礼なことを言われてしまった。……そこまでおかしいことではないと思うのだが。ゲーム内だからこそできる芸当だろう。空気抵抗まで細かく設定されているわけではないからな。そこまで設定していたらそう簡単にはできないだろう。俺がおかしいのではない。ゲームだからこそ可能なことなのだ。たぶん。


 俺は五メートルほど上空に来てから、相手の真上に『空中跳躍』で移動して鈍い鋼色を陽光に反射させる頑丈な敵を見下ろす。そして脚を上に向ける形で再度『空中跳躍』をし、一気に相手へと肉薄する。

 相手は俺の攪乱に近い動きで動揺していたが、俺が空中からではあるが真正面から突っ込んできたことに僅かな安堵を見せた。おそらく大きな一撃だと思われる俺の体勢に対抗すべく、拳を下から振り上げるアッパーを放ってくる。タイミングは合っていた。しかも相手が合わせてきたということは、俺に直撃する軌道を描くはずである。

 俺は左手を顔を前に出すだけで、突っ込んでいく。相手の拳が俺の顔面へと吸い込まれる直前、掌打を繰り出す要領で左手を前に突き出し、タイミングを合わせて相殺する。相殺ダメージはもちろん俺に与えられたが、互いに手を弾かれた形となる。そこで再度『空中跳躍』を使用し、上手く脚が地面を向くように勢いをつけると、着地する。相手の目の前になる。


『こ、これはーっ! コータ選手の合わせた一撃を、あっさりと軽く、ダメージをいとわずに相殺してみせたリョウ選手! これはショックが大きいかっ!?』


 俺は実況の声を聞く間に動き出している。相手は驚き、俺は予定通り。こんなチャンスは滅多にないだろう。……確かに俺は相手を驚かせることで勝利を手にする傾向にあるのだが。


「……クソッ!」


 だが俺が拳を何発か鎧越しに当ててHPを減らしたことで、相手は我に返って半ば自棄気味に拳を振るってくる。……俺は受け止めるように掌で軽く当てて相殺していく。もちろん相殺ダメージで少しずつHPは減っていく。


『流石はリョウ選手ーっ! しかし相殺によるダメージで着々とHPは減っているっ! さあどうするのか!?』


 実況は盛り上げ役ということもあって、勝手なことを言ってくれる。……残念ながらその期待には応えられそうにないな。

 俺のHPはすぐに半分を切って橙色となり、すぐにどんどん減っていき赤色に変わる。


 だが俺は、相殺するだけで抵抗もしなかった。……普通のプレイヤーなら、相殺ダメージだけで負けるということなどないのだが。やはり俺のHPは著しく低いようだ。


「……俺以外のデータが、あるといいな」


「……っ!?」


 俺は初対面の相手だが精一杯に頑張って、勇気を振り絞り、それだけを告げた。最後の拳に俺の拳を打ち合わせるような形で、残り数ドットのHPを削り、バトルフィールドから姿を消していく。


『……な、なんということでしょう! まさかのリョウ選手が、一回戦敗退!? しかも相殺ダメージだけで!? 嘘ですよね!? 思わぬ番狂わせに、バタつく観客席! 勝者、コータ選手ですっ!』


 実況のそんな声を聞いて足元から消えていくため最後まで残った目で観客席を見渡すと、俺を偵察に来ていたプレイヤー達が慌てふためいているのも見て、いい気分になった。

 試合には負けたが作戦勝ち、というところか。


 大会は俺以外の最新データがほとんどない状態だったので、反撃を身につけたリアナに返り討ちにされ、優勝がリアナ、準優勝がリアナに敗れたアカリ、三位が準決勝でリアナに敗れたクノと言う《ラグナスフィア》が首位を独占した形となった。


 ……なぜか、リアナはその日の一日中、機嫌が悪かったのだが。

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