闘技場での初戦
遅れてしまってすみません
二話か三話更新すると思います
リアナに特訓をつけ始めてから三日が経った。
毎日闘技場に通ってリアナに反撃を教えていた。反撃のシステムがないという従来のゲームらしくないUCOだが、運営曰く「反撃時身体が勝手に動いては自分で強くなり楽しむゲームではなくなってしまう」とのことだ。
俺としては、自動反撃スキルがなくて助かっているので問題ないのだが。……俺の紙装甲となけなしのHPでは急な反撃を受けてしまえば大幅にHPが削られること間違いなしだからだ。
いくら『見切り』があるとはいえ、避けられない攻撃は避けられない。『見切り』は視た対象の動作を予測するだけであり、それにどう対処するかはプレイヤーに委ねられる。
自由度が高い代わりに、視えた予測から臨機応変に対処を行わなければならないのだ。……といっても俺ができることは走る、跳ぶ、撃つ、殴る、蹴る。これだけなのだが。
魔法能力は低いのだが、威力が関係ない『粉魔法』による粉塵爆発は例外だ。
話を戻そう。
リアナと特訓して過ごした三日間、俺は足りない攻撃力を補うためのオリジナルスキルを考えた。
その名も『爆裂甲』だ。
ルビは適当だが威力は高い。自分の身体がなにかに触れた時に爆発を起こし対象だけに高威力のダメージを与えることができるスキルだ。攻撃力のなさをカバーするためのスキルということになる。……大会が終わった後、リアナに渡すことが決まっており、まさに鬼に金棒とも言える。
といっても武器と戦闘スキルなしのガチンコバトルでは使えないのだが。
今日、その武器と戦闘スキルなし部門の大会が開催される。
《ラグナスフィア》からの参加者は、俺、リアナ、クノ、アカリ。そして全員がなんでもあり部門に参加した。
俺達も一応トップギルドの一つとしては見られているようで、闘技場に訓練をしに来ていたことから《ラグナスフィア》の出場は認知されていた。ユイにも「大会に出て人前でお兄ちゃんが戦うなんて、珍しいね」と現実で言われた。……そういえばそうだった。大会に出場すれば観客席にいる者達からも出場者からも注目されるのは仕方がない。しかも俺は偶然にも、ソロとしてはトッププレイヤーを名乗れる功績を残してしまっている。警戒されるだろう。
それに加えて、この三日間の本気でスキルを駆使してリアナと特訓した時にいた、偵察達。スキルを暴くために二日目からは人数を増やしてきたらしく、それなりに人がいて堪らなく居心地が悪かった。俺は「……ああ、全世界の人々が俺に関心を向けている!」と喜ぶようなナルシストではないので、寧ろ気分を悪くするぐらいだ。
そのため俺の試合の注目度は、かなり高いと見ていいだろう。……ああ、憂鬱だ。
「……はぁ」
しかも制限あり部門は人数が少ないため、注目しやすい。なんでもあり部門はかなりの人数が集まったようで、急遽予定を変更して大人数でのバトルロワイヤルから、勝ち残った一名が決勝トーメントに進めるという形式となった。
制限あり部門の参加人数は、二十八人。つまり三十二人用トーナメントで行い、足りない四人分をシードで補うような形で、トーナメントが発表された。組み合わせはランダムで当日に発表されるため、誰が相手でも勝てるように訓練と偵察を行う。中には偵察のみで訓練はしない選手もいるようだが。相手の情報だけを得て、自分の情報を開示しない。確かにいい作戦ではあるが、あまりオススメはできない。対人戦は経験が必要だ。ただ偵察するだけでは意味がない。もちろん、詳細な癖や得意とする体勢などを把握できればデータとして成り立つが。
「……珍しいですね、リョウさんがため息をつくなんて」
選手控え室とやらで待機しているリアナが、俺の右隣りでベンチに座り声をかけてきた。
「……初戦は緊張するからな」
「……それでも憂鬱がほとんど出てませんから、ため息つくまで疑心暗鬼でしたけどね」
俺は答えると、リアナは少し呆れたように微笑んだ。
『第一試合の両選手は、フィールドに出てきて下さい』
ウグイス嬢らしき女性の声がそうアナウンスした。
「……呼ばれてますよ、リョウ選手」
リアナがニヤニヤしながら言ってきた。……リアナなりに緊張を解そうとしてくれているのかもしれない。
「……そういう意味ではないだろう」
俺はツッコんでからリアナの頭を軽く叩いて感謝の意を示し、フィールドへと続く通路を歩いた。
控え室はベンチがいくつもあって選手が座れるようになっている。入り口には扉があり、奥には扉のない通路が見えている。通路は窓もなく控え室からしばらく行くと薄暗くなり、通路の先に見える外から入った光を頼りに、歩いていくことになる。
『さあさあ始まりました、武器なし戦闘スキルなしのガチンコバトルっ! 出場者は二十八名! その中から勝ち進み、優勝という大きな栄光を手にした者だけが新発見されたアイテム、惚れ薬をゲットできる! まさに惚れ薬争奪戦! 少しなんでもありの無法バトルに人数が流れてしまいましたが、二十八名のモテたい老若男女達が血を血で洗う醜い――じゃなくて、意地のぶつかり合いが行われることになります! 最初に姿を現したのはこの人ーっ! 蟲人族〈蠍〉を使いこなしっ! 不遇職一位の《銃士》を復活に導きっ! 先のイベントではギルドに加入しているのにソロで最強の称号を手にしっ! しかも入ってるギルド《ラグナスフィア》は同性の私でさえペロペロしたくなるような見目麗しい美女美少女が揃っておりっ! ギルドですでにハーレムを築いている男女共からの嫉妬の視線を受け続けるというのにっ! まさかの惚れ薬を求めての参戦かっ!? ま、まさかクーアたんをペロペロしようというのか!? 狡い、私にクーアたんを寄越せーっ! ――はっ! すみません、取り乱しましたっ! 改めましてギルドに入っているのにソロでの活躍が目立つ最強プレイヤー、リョウ選手ですっ!』
俺は薄暗い通路から明るいフィールドに出た。眩しい陽光に目を細めていると、そんな声が降ってきた。……俺の紹介が長い。それとあまり持ち上げすぎるな。それと、お前にクーアはやらない。変態加減が見て取れるからな。それと、同性でもと言ったが同性に興味を持つ類いの人間だろう。
俺は表面上は無表情だが精一杯のジト目で観客席ではなく、主催者がいて賞品が飾られている円柱から一部を切り取ったような形の柱の中央付近でマイクを片手に熱く俺を紹介してくれやがった実況の役割らしい少女を見る。
『お次はあまり情報がないのですが、少なくとも高レベルプレイヤーが参加することで賞品を勝ち取る闘技場の大会に出るぐらいには強いと思われる、コータ選手ですっ!」
俺から少し遅れて登場した少年はコータというらしかった。俺の軽装とは違って頑強な甲冑に顎から下を覆い、両腕に丸盾を装着している。完全防備、というヤツだ。……確かに武器が制限されているだけで、防具には制限がないのだが……。
『……稀に見る防具制限がないルールを突いた堅実な防御態勢、といったところですかね。一方のリョウ選手は可愛いリョウたんの頃に見ましたが、素早さと空中を使ったトリッキーな移動が特徴ですね。鈍重だが防御重視のコータ選手と、紙装甲だが速度重視のリョウ選手っ! いい組み合わせですっ! さあ私の合図で試合を始めますからね! 用意はいいですか? いいですね? では第一試合、始めっ!』
実況の少女は俺達が頷く暇もなく、試合開始を宣言する。フィールドの頭上に「10:00」と表示され、次の瞬間には「09:59」となって一ずつ減っていく。おそらく十分のカウントダウンだろう。時間制限を設けるというのは、大会の事前説明で聞いた。
「……っ」
緊張を露わに右手の盾を前に構え、防御の姿勢を取るコータ。
……ふむ。確かに頑強で、厄介だな。だが俺の狙いはそこではない。
「……では、始めるとしようか」
俺は小さく呟いて、体勢を低く構えた。




