闘技場での訓練
土曜の深夜ぐらいに更新と言いましたが、この時間です
忘れてたわけじゃないんです、ホントですよ?
兎も角本編に戻り、闘技場でバトルしまくります
ガチバトルパートです
トーナメント形式ですので、飽きられないようになにかしなければと思っていますが、
その辺で更新が滞ったりするかもしれませんが、とりあえず定期更新です
リアナの要望により、俺達は使用されていない闘技場が訓練場として使えるということで、大会に出場するメンバーが練習場に来ていた。どうやら大会は三日後となっており、大会一週間前からは大会に申し込んだプレイヤーだけが訓練場を使えるという仕組みになっているようだ。つまり大会は早くて一週間の空きがあるということだな。
大会の開催期間中から次の開催者を募集しているようだが、今の俺に大会を開催できるような賞品はない。まさか『レンヴォルグ』を出すわけにもいかないからな。だいたい『レンヴォルグ』達は専用武器みたいなモノだからな。他人に譲ることはないだろう。……というか譲れるとしても拳銃を誰かが使うとは思えない。《銃士》は未だに不人気職である。
それは兎も角。
《ラグナスフィア》のメンバー全員が出場することを決めており、優勝を目指して頑張ろうということになっている
優勝すると惚れ薬なるアイテムが手に入り、所持者は飲むと最初に見た人を好きになるが、所持者が誰かに飲ませるとそのプレイヤーが所持者を好きになるというアイテムだ。……なんのためにこんなモノを欲しがるというのか。リアナのことだから準優勝の賞品である嵐牙の武闘着でも欲しいのだと思うが。
優勝したら準優勝者と取り換えてもらうつもりなのかもしれない。
とりあえず二人一組になって準備運動をしている最中だ。
俺はリアナと軽く拳をぶつけ合っているといったところか。リアナは〈蟻〉なので〈蠍〉の俺よりも重い拳を放ってきていて、俺からしたら軽くではないのだが。
「……リアナ。そろそろ本気でかかってこい」
鍛えて欲しい、と言われたものの、どうすればいいのか全くわからない。鍛えて欲しいということは自分に足りない部分があって、その足りない部分を持っている者に教えを請うモノなのだが、リアナが俺に対して足りない部分を感じている、あり大抵に言ってしまえば劣っていると感じる部分などあるとは思えないのだが。
「えっ? で、でも……」
リアナは驚いて動きを止め、ちらりと闘技場の俺達がいる戦闘フィールドの周り、階段のようになっている観客席を見る。……リアナの言いたいことはわかる。確かに観客席が出入り自由である(大会当日は入場料が取られる)ので偵察は存在するのだろう。事実、メモを出現させてなにかを書き込みつつチラチラとフィールドにいる者達を見ているプレイヤーがいた。
闘技場は野球のスタジアムのような造りになっており、観客席を守るために常時発動型の魔法式結界が張られているという。HPが零になってもフィールドの外に転移させられるだけで、さらにいえばペナルティもない。観客席からもフィールドからも攻撃はできない仕組みになっているため、邪魔を気にすることなく戦える。
「……偵察を気にして本気を出せないようなら、大会になど出るな。大会では大勢のプレイヤーが集まり、本気で戦う姿を見に来る。結果的に手の内を晒してしまうわけだからな」
「で、でも、大会までは手の内を晒さないのが一番じゃないですか?」
俺の言い分に、リアナは反論してくる。
「……そう思うならそう思えばいい。本気を出さないならここで訓練する必要などない。それに、本気を出さなければリアナはなにもできず、ただ俺に負け続けるだけだ」
俺は告げて、『疾駆』を発動し走り出す。全力で、だ。〈蠍〉の蟲人族であるため、素早さが高い。その蟲人族の高レベルプレイヤーであるところの俺が、速く駆ける効果のある『疾駆』を使えば、《盗賊》ほどではないがかなりの速度となる。
「っ……!」
リアナも遅れて身構えるが、それでは遅い。俺の行動範囲はなにも地上だけではないのだから。
俺は『疾駆』を発動させたまま低く『跳躍』し、ジグザグに右左右の順で三回『空中跳躍』して浮いた状態からリアナに近づく。
リアナはタイミングを合わせて左拳を放ち迎撃を選択するが、それでは俺に当たらない。『不可視の壁』を頭の斜め上に展開して尻尾を伸ばし、上部分に引っかけて強制的に上へ跳び上がる。リアナの拳は空を切り、俺は空中で舞う。後ろを振り向くリアナより速く『空中跳躍』で上を蹴り勢いよく地面に跳んで、身体を捻って着地した。リアナに背中を向ける形で着地したが、問題ない。俺にはリアナと違って尻尾がある。
リアナが振り向いて拳を放つより速く、尻尾で脇腹を強く叩き、横に吹き飛ばした。
「ぐっ……!」
リアナは無防備な箇所を打たれて呻くが、そこまでのダメージはない。俺の素手による攻撃は軽いからだ。武器と戦闘スキルなしの状態で、俺が相手に勝つためには補助スキルをずっと使用しながら敵を翻弄してダメージを与え続け、なおかつ攻撃を回避し続けなければならない。
俺が優勝まで辿り着くことはないだろう。
「……わかったか? なんならリアナのために手加減して、真っ向から殴り合ってやろうか?」
「いえ。それよりいいんですか? 偵察が全部リョウさんに向いちゃいましたけど」
俺が聞くと、リアナが聞き返してきた。……確かにリアナの言う通り、目ぼしいプレイヤーのメモを取っていた観客席にいる偵察プレイヤーも、軽く訓練しているように見えて実はプレイヤーの情報を取っていたプレイヤーも、俺を注視している。
……そんなに見つめるな。周囲の視線が集中してしまったら恥ずかしくて『集中』できないだろう。俺はコミュ力が低いのだぞ?
「……偵察程度で俺のスキル連携が敗れるとでも思っているのなら、心外だな。偵察が意味を成さないように、全てを捻じ伏せてやろう。それに、素人の偵察などたかが知れている。俺をマークしたところで俺に勝てるわけがないのだから、偵察の意味などないだろう」
俺はわざと大きな声を出して、偵察を煽る。……我ながら恥ずかしいセリフを吐いてしまった。自己嫌悪で寝込みたい。
「リョウさん、もしかして……」
リアナははっとしたような顔で俺を見てくるが、なにを勘違いしているのかは知らない。
「……さあリアナ。今度は真っ向から殴り合ってやろう。それでもお前が俺には勝てないことを、証明してやる」
「へぇ? それは楽しみですねっ!」
俺が言うとリアナに勘に障ったようで、一気に突っ込んでくる。……おぉ、さすがにステータスが高いから速いな。だが、それだけだ。
俺はリアナが振るってきた左拳に、軽くだが右拳を当てる。それだけで相殺した。相殺はただタイミングを合わせるだけで発動できるので、強くする必要はない。もちろん相殺後のダメージを受けたくないのなら、強くするべきだが。俺が本気で殴ったところで、リアナの攻撃力には到底及ばないことなど、誰よりも俺が知っている。それなら相殺ダメージを甘んじて受け、軽く合わせるだけにするのが一番だ。
「っ」
「……どうした? ボーッとしていては隙だらけだぞ?」
俺は〈蠍〉の素早さを活かして左拳を放ち、リアナに防御をさせる。リアナは相打ちでも構わないとばかりに両拳を連打してくるが、それら全てを『見切り』両拳で相殺していく。
「なっ……!」
唖然として隙だらけになったリアナの腹部に、俺は右拳を叩き込んで後退させる。
「さ、さすがですね。まさか全部を相殺されるなんて」
リアナは軽く腹部を押さえながら言ってくるが、そこまで大したことはしていない。
「……確かに正面から攻撃されれば全てを相殺するのは容易いが、相殺ダメージでかなりHPを減らされてしまった。これではあのまま攻撃されていたらHPが零になってしまっただろうな。俺は攻撃力と防御力、HPがあまりない。一撃でもまともにダメージを受けてしまえばHPが大幅に削れることは目に見えている」
俺は少し大きな声でリアナに告げる。……いや、この場合は偵察に、だな。
「わかりました。私も本気で戦います。だからリョウさん、私に反撃を教えて下さい」
リアナは『鬼化』を発動しつつ、拳を構える。
「……わかった。俺にできることなら、なんでもしてやろう」
これでも俺は、《ラグナスフィア》のギルドマスターで、リアナの先輩だからな。




