閑話 取材その2
大変長らくお待たせしました、申し訳ありません
あまり長くないのですが、一応生きているというご報告みたいなモノです
忙しくてほとんど更新できていません(´・ω・`)
約四ヶ月振りになります、ホントすみません
……でも早く更新できる自信がなくて重ね重ねすみません
UCO内の出来事などを載せる『UCO新聞』。その新聞を作っているのが、我がギルド《ユニバーサル新聞社》である。
今回は、巷を騒がせている少数精鋭ギルド《ラグナスフィア》の調査――ではなく取材に乗り込んでいる。案の定礼儀を弁えた対応をしたギルドマスターのリョウに了承を取り、取材している。押しかけ取材など今更流行らない。今はきちんと事前にアポを取っての取材が主流である。当たり前だ、何だかんだと国民が煩いからな。やれ不法侵入だ何だと。全く、取材を何だと思っているのか。逸早くゴシップに辿り着き、それに脚色を加え、面白おかしく――げふん。記事として成立するようにしてから、世に発表するのが我らだ。
兎も角、私は現在、《ラグナスフィア》のギルドホームに来ている。生産革命とも言えるあれこれを起こしていた《ラグナスフィア》の生産に迫ろうという特集だ。しかし今のところ、暴力娘のせいで生産の取材が進んでいない。リリス様やウィネの誇るべき肉体に嫉妬して、喚き散らすからだ。忌々しい、私はただ事実を思っているだけだというのに、鋭いあの蟻ん娘はそれだけで蹴ってくる。殴ってくる。睨んでくる。恐ろしい。
話が逸れた。現在工房にいるのは、四人。《ラグナスフィア》の人数が十一なので、まだ三分の一としか会っていないことになる。魔女のウィネ、悪魔のリリス様、忍者のクノ、暴力の化身である。
前回こそぺったん娘が煩くて、人物紹介で終わってしまったが、今回はきちんと工房の取材をしようと思う。
「丁度良かった。クノ、アルギノ樹林でドレ実を採ってきてくれない?」
ミニスカドレスにローブととんがり帽子の魔女が、毒々しい色の大きな鍋を掻き回しながら、忍者に声をかけた。それだけの挙動でたゆん、とたわわに実った双丘が揺れる。眼福である。このゲームではある一定の熱を浴びると、汗を掻くシステムがある。ゲーム初の発汗システムである。バトル中にはまだ採用されていない。しかしバトルにそのシステムが設定されるとなると、武器を持つ手に汗を掻いて滑ってしまう、ということがあるかもしれない。手袋は必須だ。しかし手袋でも、その中で汗を掻いて何らかの短所が生まれることだろう。
それは兎も角、何故汗の話をしたのかというと、巨大鍋がグツグツと煮立って、もちろん湯気が出ている。それはつまり、そこで鍋を見ているウィネは、汗を掻いているということである。汗を掻いているということである。重要なことだから二回言った。
汗を掻いて、露わになった豊満な谷間が照明に照らされ、輝いている。後光さえ出ているようだ。
汗でシットリと濡れた髪が、肌に貼りついている。それも色っぽさを増していて、かなりいい。一つ息を吐く度に、色っぽさを増していくようだ。
……嗚呼。どうかこの私めに、ウィネ様の谷間を拭かせていただけないだろうか。いや、どうせなら舐めたい。ペロペロしたい。
「……死ね、キショ男ッ!」
怒号が右から聞こえたかと思うと、私は物凄い衝撃を受けて左方に吹っ飛んだ。側頭部を直撃したので、頭が消し飛んだかと思う程だった。
……ごふぁ……っ。まさか床を二桁に到達する程転げ回るとは……。全身に激痛が走る。ゲームだから軽減されているハズだというのに、身体が全く動かなかった。
流石は災害的暴力。私一人の命を消すなど、造作もないことであったか。
でもだがしかし私は使命を果た――ぶべらっ!
……何故か、起き上がったところに蹴りが飛んできた。しかも顔面に、だ。理不尽すぎる。しかし災害に常識を求めてはいけない、警告を求めてはいけない。災害は常に我々が予想だにしていないことをやってのけるのだから。いくら対策を練っても、それは気休めでしかない。
災害はいつだって不条理で、理不尽なモノなのだから――。
「……あ?」
地獄の底から届いたような声が、地べたに伏す私の耳に入ってきた。……まさか読心術でも使えるというのだろうか。いや私はただ災害について述べていただけであって別にどこぞのバカ力娘、略してバカ娘が災害のように理不尽でなくなればいいとか思っていませんともええなのでそんな殺人鬼のような目で私を睨まないで下さい新たな扉が開きそうです。
「……はぁ。ちょっと出てくる」
鬼と猛獣をかけてそのままにしたような存在が、ようやく出ていってくれた。私にゴミを見るような目を向けて、呆れたようにため息をついていた。当分は戻ってこないだろう。しかしこれで、やっと、取材に集中できる。
なので私は早速ウィネ様に質問を投げかけた。
――あなた方が生産ギルドとして、少数なのにやっていけているのは何故ですか?
と。
もちろんはぐらかされるのも覚悟の上だ。必ずしも真実でなくとも問題はない。そこは脚色の腕を見せるだけだ。
「そうね。期間限定だけど廃人ゲーマーが揃ってることが一つ」
ウィネ様は少なくとも、いくつかの答えを提示して下さるらしい。
しかしそれだけでは、トップに躍り出ることはない。
「もう一つは、生産の妖精がいること」
これも予想できた答えだった。ウィネ様はグツグツと煮えたぎる巨大な鍋を掻き回し、数度でやめた。
「あとは、運だと思うわ」
運。つまりは偶然だという。掲示板で飛び交う噂には、運営が贔屓しているなどの聞き捨てならないモノもある。ウィネ様はおそらくネット民であり、そういったことにも詳しいだろう。
しかし自分達の実力だとさえ、言わなかった。
運を操るのは運営。つまり運営が味方しているということだろう。そう脚色できないでもない発言だった。
しかし私には、どうしてもそうは思えなかった。
もしかしたら本当に、彼らはゲームを楽しんでいるだけなのではないか。廃人ゲーマーの如く、もう一つの現実世界を満喫しているだけではないのか。
そんな人達を、私は、ネットで糾弾されるような記事で晒す真似をしたくなかった。
私は攻略サイトなどで知識を集めただけの、にわかゲーマーだ。レベルもトップクラスとは口が裂けても言い難い。所詮はその程度。
本気でこのゲームを楽しんでいる訳ではない。
社会人で普通にサラリーマンをやっているということもある。息抜きやストレス発散というのもある。
世界に魅入って、今でもこうしてログインをしている。
それでも、彼らには到底及ばない。
途端にトッププレイヤー達が、眩しく感じられた。
「……ふぅ……っ。あっついわね」
不意にリリス様が、胸元をパタパタと仰いだ。私はすぐにシリアスな思考を頭の片隅に追いやり、そちらを注視した。
リリス様は、おそらくあのビキニのような格好の下には、何もしていないだろう。
つまり、その豊満なる果実の全貌を、見ることができるのではないかということだ。
私的な思考に耽っている時ではない。世の中の俗物は、万物に通じる素晴らしき存在なのだ。共感されない私の考えなどどうでもいい。ただ、煩悩は万国共通である。
しかし、眼福すぎて逆に困る。この場には私とウィネ様、リリス様しかいない。クノは流石忍というべきか、気づいたらいなくなっていた。私の探知スキルなどカス同然なので、彼女の隠密スキルには敵わないだろう。至極当然の結果か。
「……あ? あぁ、そういや取材とか言ってたな」
しかしそんな私の花園に、一匹の蠅――ならぬ一柱の鬼神が足を踏み入れた。ズカズカと踏み荒らされ、私が花のように散るのが脳裏に浮かぶ。
「アカリ。ちょうど良かった、カタラとティアーノを呼んできてくれる?」
ウィネ様が目つきの悪いアカリに対しても朗らかに接していた。
アカリ。《ラグナスフィア》では最も新しいメンバーとなる。高身長の持ち主で、いつも和服を着込んでいる。大きな太刀を背負っていて、腰には火縄銃がある。純和風、といった風貌だ。その辺りはカタラやクノも似通った部分があり、気負いなく話せるだろう。
銃系スキルも持っていると思われるので、《ラグナスフィア》はピッタリなギルドということになる。
「ああ、分かったよ」
アカリは大人しく頷いた。どうやら別段危険人物という訳でもなさそうだ。
しかし私にギロリ、と鋭い視線を向けてきた。……どうやら悪人ではないようだが、無条件に信頼してくれるという訳ではないようだ。一般的な警戒心と言ったところか。
もしかしたら、一番常識人ではなさそうな見た目の者が、一番の常識人というヤツなのかもしれない。
ともすれば最も《ラグナスフィア》の異常性を理解しているのは、アカリなのかもしれなかった。
アカリはウィネ様に言われた通り、すぐに工房を出ていった。
カタラとティアーノと言えば、ドM界隈の中では知らぬ者はいない程の有名人だ。
ある者はティアーノ様に冷たくグリグリと踏まれたい。
ある者はカタラ様に熱く背中に焼きを入れられたい。
などなど、冷たさや熱さというキーワードが入るプレイならこの二人、という風潮が存在するくらいだ。
界隈では火焔組と氷結組という二大派閥が存在し、日々どちらがいいかを議論している。
ちなみに私は前後からそれぞれに氷と炎を受けたい中立派である。
ともあれ、この二人は比較的セットで覚えられることが多い。炎と氷を操るので、対比しやすいというのもあるだろう。ある部位の大小も対比しやすいからかもしれない。同じダークエルフでもあるのも、一役買っているだろう。
「……ウィネ、何か用?」
しばらく経って、カタラとティアーノが工房に来た。
二人共が浅黒い肌に尖った耳という特徴を有していて、ダークエルフだと分かる。
カタラは赤毛のポニーテールだ。左右の腰に小太刀を一振りずつ下げていて、二刀流だと分かる。
ティアーノは氷のような水色の長髪だ。腰に長剣を提げている。
「取材の対応をして欲しいんだけど、いい?」
どうやらウィネ様は、私の対応を二人に任せるつもりらしい。
カタラは《ラグナスフィア》最古参のメンバーであり、クーアの母役でもある。二人に言えることだが、属性を操る類いの、想像力が試されるスキルを使いこなしている。この二人を取材できるのは、非常に有り難いことだ。そこまでウィネ様がお考えなのであれば、今すぐ平伏して靴を舐める次第だ。
「……それはいいけど、何で私達二人に?」
「深い意味はないわ。技術的なところで二人にならお願いできると思ったから、っていう感じよ」
ティアーノの質問に、ウィネ様は肩を竦めた。それだけでぶるん、と揺れる。どこがとは言わないが。
「……それなら任せて」
何やら三人でアイコンタクトを交わした。おそらくだが、周囲に出していい情報と秘密にして独占したい情報があるのだろう。それはどこのギルドも当たり前だ。むしろ、《ラグナスフィア》のようにオープンになっているギルドの方が少ないだろう。事実、私のギルドが把握していない新技術を持ったギルドも存在すると思われる。存在すらあやふやなので、確かなことは言えないが。
一般に公開しないことで、大儲けを狙う。それはタイミングを見抜く眼力が必要であり、《ラグナスフィア》は第一回イベントでそれを行ったと言えるだろう。
独占したい技術以外に、公開できない情報がある。それも分かっている二人、ということなのだろう。
取材する相手が決まったので、私は次々と質問をしていく。もちろん、事前にいくつか用意してあったモノだ。……答えてもらったのは、五割といったところだった。そのほとんどが技術開発の質問だったのだが、半ば予想していた通り、ギルドマスターの自慢話になってしまっていた。あそこまで饒舌な二人は初めて見たかもしれないと思う程だった。
妖精に関する情報は、知りたければ自分で契約しろ、というスタンスらしい。私の方で掴んでいる情報によれば、現存している妖精の割合は、生産が四割で戦闘が六割を占めている。両方いるのは《ラグナスフィア》のみだろう。今後どうイベントを開催していくかが楽しみでもある。
生産の妖精は、生産の効率や質を良くする方法を見出すことができるらしい。
戦闘の妖精は、戦闘に便利なスキルを見つけやすくなる、かどうかは分からない。……正直に言うと、把握していない。戦闘の妖精は二回目でようやく契約した者が出てきたので、情報が少ない。加えてあまり自分から行動することがないのだという。小さいので戦える訳でもなかった。
とりあえず、技術開発の結論を出そう。
現実での当たり前を、仮想に持ってくる。
それが《ラグナスフィア》、ひいてはリョウの発想の根幹にあるのかもしれない。
ただし、これは一部の生産であり、全てがそうとは言えない。スキルについては完全な発想力、または中二力とでも言うのかもしれない。
――『USO新聞・【《ラグナスフィア》の生態②】』より抜粋――




