閑話 取材
えー、お待たせしました
連絡するとか言っといてせずにいたこと、謝ります
今後もバトルが続くため、取材という形で日常生産風景を入れます
ものづくりに戻るのは、リアナが言ってた大会が終わってからになるので、遠いです
そのため閑話を入れました
……まあ、今回は生産じゃないんで、次回からはちゃんと生産やります
ホントすみません
《ラグナスフィア》――それはUCOに存在するギルドの一つである。構成人数は十一人と少なめだ。しかしUCO内においては高い知名度を誇っている。大手ギルドの《インフィニティ》や《魔導学院》、《マッスル帝国》と定期契約を結ぶ程だ。最近では《レイジング・アーマメント》さえも提携を目論んでいるらしい。その他中小ギルドも定期契約を結んでいる。
週一や月一での定期契約が多く、社会人が集まって作ったギルドなどはプレイする時間の関係上、半年に一回ということもある。
《ラグナスフィア》がそのギルド名が有名ではあるが、ギルドマスターが超有名だった。《インフィニティ》のジャン、《魔導学院》のユイと並び称されるトッププレイヤー。
その名もリョウである。
リョウは《ラグナスフィア》のギルドマスターであり、ソロで言えばトッププレイヤーである。……団体戦を誰も見たことがないという謎のプレイヤーでもある。団体で戦っているところは見ても、誰かと連携している場面を見ないと言った方が正しいのか。
「あんなヤツと連携できるとかおかしいだろ」
とは某ギルドマスター談である。全く以ってその通りだと、周囲のプレイヤーは頷く。それもそのハズ。翅もない虫の癖に空中を跳び回るのだから。
地べたを走り回るハズの〈蠍〉が空中を跳び回れば、驚くに決まっている。もちろん、「飛ぶ」ではなく「跳ぶ」なのだが。
そして今日は、その《ラグナスフィア》の工房にお邪魔している。
「あーもうっ! 早く薬草擂って、リリス!」
《ラグナスフィア》では、定期契約もあるため生産を班分けして行っているという。定期契約を行っているのは未だ『調合』しかないようだが、これからさらにメンバーが増えれば装備も請け負うかもしれない。
その調合班の長を任されている、魔女風装備に身を包んだウィネが叱咤を飛ばす。とんがり帽子にマント、胸元の大きく開いたミニスカドレスらしきモノ。武器も杖と、魔女のロールプレイだろう。今も片手間に巨大な鍋をグツグツと掻き混ぜている。完全なロールプレイだった。
動く度に魅惑の巨乳がブルンブルンと揺れている。眼福であ――ひぎぃ!
「……キモいですね。やっぱり取材とか嫌です」
額に青筋を浮かべ、内心で合掌しようとしていた私の足を力いっぱい踏みつけた〈蟻〉の蟲人族の少女が感情のない声音で告げてくる。力が恐ろしい、リアナだ。ヒョコヒョコと頭に生えた〈蟻〉の触角が動くのは、可愛らしい。控えめな胸も可愛らし――ぐやぁ!
「……最低ですね。気持ち悪いです」
何故こんなにも胸のことになると鋭敏なのか。それはもちろん、気にしているからであろう。ウィネと比べて残念なボリュームのその胸を、コンプレックスに感じているからに他ならない。不憫だ。
半眼のジト目で私を睨んでいたリアナだったが、フンと鼻を鳴らして去っていく。……怖かった。踏みつけられた足の指が変な方向に曲がってしまっているかもしれない。超怖い。
「分かってるわよ」
少し呆れたように、ウィネに返事をしたのはこれまた大きいリリスである。第一回イベントのボスと同じ姿をしているため、一時ゲーム内が騒然とした。私も一度個別インタビューをしたのだが。
「あなたは何者ですか?」
と問うた私に対して、
「私? 私はリョウのペットよ」
と胸を張って答えた、その人である。核心に迫る質問は何故かできなかった。後日改めて考えると、おそらく私は彼女の魅惑にかかってしまったのだろう。今もかかっている。ああ、リリス様。悪魔のようなお姿は今日もお美しい。どこかの暴力娘と違って大きな胸を隠そうともしないその扇情的な格好も素晴らしい。ああ、どうか。どうかこの卑しい私めをそのおみ足で踏んで下さらないだろうか。
「……死ねばいいと思います」
ぐべばっ!
私がリリス様に見蕩れていると背後から冷徹な声が聞こえた。かと思ったら強烈な蹴りを受けてしまった。
「……どうしたの?」
コテンと首を傾げて憤慨した様子の暴力娘リアナに問うのは、忍装束を着てスカーフで口元を隠す少女。忍者のロールプレイをする、クノである。ウィネと同じく《ラグナスフィア》創立時からいるプレイヤーであり、βテスターでもある。元々はジャン、ユイ、ウィネの三人とパーティを組んで行動していたことからも、かなりのトッププレイヤーであることが分かる。
リアナと同じくその胸は控えめだが、無口無表情という個人的に好ましいキャラなので好感が持てる。どこかの暴力娘とは違う。
「この人がウィネさんとリリスさんの胸を見てたんで、制裁を加えたんです」
リアナは軽蔑した眼差しを私に向けて告げてくる。
「……嫉妬?」
「嫉妬じゃないです!」
コテンと首を傾げて追い打ちをかけるクノ。リアナは憤って否定するが、周囲からそう思われても仕方のない体型をしている。
「……大丈夫。リョウはきっと受け入れてくれる」
「な、何でここでリョウさんの名前が出てくるんですか! 大体、クノさんも同じようなモノじゃないですか!」
「……むっ。私はリアナみたいにツルペタじゃない。ちゃんとある」
「誰がツルペタですか! 一歳差だからですよ!」
「……そんなことない。私はお母さんだから大きくなる」
「仮想での話ですよね!?」
「……じゃあ現実でお母さんになる」
「誰のですか!?」
「……っ」
「そこで頬赤らめて俯かないでくれます!?」
ゴゴゴ、という効果音が聞こえてきそうな睨み合いから一転、コントのようになってしまった。しかし羨ましい。ペッタンコ勢含めても、こんなに多くの美女美少女に囲まれているとは。あの無口無表情で取っつきにくい引き籠もり野郎のどこにそんな魅力があると言うのか。
しかし、あれだな。聞けばテーアたんの母親はクノだという。クーアたんの母親はカタラだろうか。だとすれば、両方の父親であるリョウは腹違いの姉妹を――けしからん。全く以ってけしからん。既に二股をかけているようなモノではないか。
……はっ! しまった、工房の取材に来たというのに、私としたことが。メンバーの紹介になってしまった。
気を取り直して、今度こそ工房の、《ラグナスフィア》の生産事情を覗いてみようと思う。
――『UCO新聞・【《ラグナスフィア》の生態①】』より抜粋――




