シャーク・レンヴォルグ
「……」
俺は困っていた。何故ならいきなり美少女が四人も現れるという現象が起こってしまったのだ。コミュ力の低い俺にはキツい。……よく見ると顔や身体に少しずつ違いが見える。髪と瞳の色は白、黒、紫、緑と四つの銃と同じで、両腕の手首から肘にかけてヒレのようなモノが生えている。白が短い右のワンサイドアップ、黒が短い左ワンサイドアップ、紫が何故か妙に長いアホ毛を生やしていて、緑が長いツーサイドアップだ。
身長は四人共同じくらいで大差ないが、スタイルには大きな違いが出ていた。胸の大きい順に白、黒、紫、緑だ。大きさを言葉で表すなら爆乳、巨乳、美乳、ちっぱいだろうか。服装も皆同じで身体にピッタリくるタイプだ。色は各々の髪と同じ。手首から肘を覆い、肩から交差して胸を覆い臍を出していて太腿の半ばまでが覆われている。
白がボーッとしたような、黒がツンツンしたような、紫が活発そうな、緑が気弱そうな印象を受ける。
「……っ」
俺は反射的に二挺の『早撃ち』で四人を撃ち抜く。……だが弾丸は四人を通り抜けてギルドホームの壁に当たり、破壊不能なので弾かれて粒子となり消える。
「……ふむ。やはり実体はないようだな」
『推測出来てるなら攻撃すんなよなー。いくら実体がなくてもビビるんだよ』
活発そうな紫が頭の後ろで手を組んで言う。
『ビビらない。ビビリは黙ってて』
ボーッとしたような白が辛辣な言葉を放つ。
『何だと!』
『お、落ち着いて下さい』
その言葉に怒りを覚えたらしい紫が睨むが白はどこの吹く風。紫を緑が宥めていた。
「……で、お前達は何者だ?」
俺は白と紫の睨み合いを何とか宥めようとする緑達三人を見てやれやれと呆れる黒の四人を見てこれ以上待っても話が進まないかと思い、尋ねた。
『気づいてるんでしょ? 私達はあなたが貰った銃よ。『レンヴォルグ』はこういう武器なの』
黒がツンとした口調で言った。……こういう武器と言われてもな。
「……こういう武器、というのは意志を持つ武器、という認識で良いのか?」
『ええ。でもそれだけじゃないわ。私達が『実体化』して戦うことも出来るの』
唯一話が通じる黒が俺に答える。……ふむ。つまり武器が真の意味で共に闘うモノになるということか。
「……そうか。では早速フィールドで試し撃ちさせてもらう」
俺は癖がありそうな四人の元となっている四挺をホルスターに収める。超銃一挺とゴム専用銃一挺を残しておくが属性の魔銃はポーチ型アイテムバッグに収納した。
「……人前では姿を見せないようにしてもらおうか」
俺は四人に言ってさっさと歩く。抱えていたクーアはカタラに預ける。
「わ、私達も行きます」
レヴィが言って、結局メンバー全員がついてくることとなった。
「……ところで名前はあるのか?」
俺達は人気のないフィールドに来ていた。そのため姿を消していた四人が出現し、俺はモンスターを探しながらのんびり歩いていた。試し撃ちは前線でなければならないので、それなりにレベルが高いフィールドである。だが俺はメンバーを信頼しており、例えモンスターの群れに囲まれたとしても全く慌てない。
『そんなこと言ってる場合?』
俺が名前を聞くと黒に呆れられてしまった。……それはそうだろう。何故なら俺達は今、モンスターの大群に囲まれているからだ。
最初の街周辺のフィールドでは実装されていないが、その他のフィールドで実装された新システム。それがこの集団戦闘である。モンスターの群れと戦えるようになり、今までよりギルドやパーティでの経験値取得がやりやすくなっている。無論、その分難易度は上がるのだが。
『お気楽』
白に辛辣な言葉を貰ってしまった。
「……《ラグナスフィア》のメンバーがこの程度で負ける訳がないだろう。どうせなら俺が抱えて脱出し、リアナだけに戦わせても良い」
「何で私がそんな役目に!?」
俺が自信満々に言うとリアナが戦いながら器用にもツッコんできた。流石リアナだ。
「……できなくはないだろう」
俺は言いながら小石を『投擲』してモンスターが展開した魔方陣に当て、破壊する。銃は今白と黒を装備しているため、無闇に使う訳にはいかないのだ。俺は一応銃が使えない時の戦闘についても考えてあるため、素手で戦えなくもないのだ。
『メロ』
『はぁ。このままじゃメンバーが大変そうだし、私も名乗るわよ。リオ』
俺が小石を次々に『投擲』して魔法を破壊していると、二人がやっと名乗ってくれた。小石は精度の高い左手で投げているので、右手に二挺を持った状態になる。
「……メロとリオだな。よろしく頼む。ではお前達の銃としての使い方を教えてくれ」
名前を聞いたので次は二挺を構えて攻撃に移る。その間魔方陣破壊は『魔法破壊射撃』を習得しているレヴィに任せる。
フィールドは荒野なので『跳弾』は使いにくく、レヴィは今準機関銃とも言える銃口が五つある銃で対応している。
今更だが、敵モンスターの大群はリザードマンと言う種類だ。二本足で歩く巨大な蜥蜴だと思ってくれれば良い。ただ面倒なのは装備をしていてスキルを使用してくる点だ。
今までボスモンスターでもスキルを行使してくる時は少なかったのだが、これからは雑魚モンスターでも『剣技』を使ってくるのだ。ただ振り回すだけの攻撃手段から、対人戦に近いモノへ変わる。それはおそらく闘技場の開放が理由だ。よりプレイヤーに近い動きをするモンスターを相手にすれば、対人戦闘の練習にもなる。それが運営の狙いだと思われる。
因みに。リザードマンは二本足で歩く巨大な蜥蜴だが、鱗の色で種類が見分けられる。赤なら火、青なら水と言う風に属性で色分けされている。色がリザードマンの前にくるため、真の意味でリザードマンは存在しない。リザードマンとはモンスターの一種であるのだ。
『言っとくけど、過剰な期待はしないでよね。私達『レンヴォルグ』にはあんた達と同じようにレベルがあるのよ。だから今レベル1の状態じゃあそこまで強くないわ』
『レベルアップで能力上昇』
リオとメロが説明してくれる。……そうか。それなら使い続けた方が良いのか。
『『実体化』には所有者のMPを消費するし、弾丸がいらない代わりにMPを消費するわ』
『銃弾は鮫』
魔銃と同じシステムらしい。
『敵を倒すと力が溜まる。戻ると還元』
メロが言葉少なく言う。……要するに『実体化』にはMPを消費するが、敵を倒してから解けばある程度のMPが還元されるらしい。
『私達は鮫だから食材アイテムを『捕食』することで効果があるわ』
リオが説明してくれたので、大体概要は分かった。
「……ふむ。では二人共、鮫らしく食い散らかそうではないか」
俺は言って二挺の銃に魔力を込めていく。すると先程まで宙にいた二人が実体を持って地面に降り立った。
「……目標は俺のMPが全快するまでだ。それが終わったら戻って良い」
俺は二人に告げてから、リザードマン相手に奮闘するメンバー達に加わる。
まず威力を見るために、『疾駆』から『跳躍』して二挺の銃の引き金を引いた。すると本当に弾丸ではなく、鮫のオーラが放たれた。リアナの『生物格闘』に似ている。だがその威力は全く異なった。メロから放たれた全長二十メートル程の巨大な白い鮫は驚いたようなリザードマンを次々と獰猛な牙でリザードマンを食い千切っていく。……メンバーも驚いていたが俺も驚いている。レベル1でこの威力は凄まじい。だがMPの消費が大きくそう連発出来るモノではない。
黒いリオの方は巻いたような歯を伸ばして剣のようにすると、獰猛にリザードマンへ襲いかかり、切り刻んでいく。こちらもMP消費の多い銃弾だ。
ただ二体共真っ直ぐ直線的に突っ込んでいくので、本当に銃弾のようだ。
俺は二発分のMPが回復するまで他の様子を見てみる。
レヴィは先程言った通りリザードマンが使う魔法の一角を破壊している。機関銃と二挺拳銃では機動力が違うのでレヴィ一人では魔法に対処し切れない。なのでもう一人の《銃士》であるルインが発動した魔法に向けてサブマシンガンを乱射し、数を撃てば当たる作戦で何とか相殺していた。
他にもイベントでは相性の関係であまり活躍出来なかったウィネが魔法を相殺しながら俺がプレゼントしたオリジナルスキル『二重詠唱』を使いリザードマンの数を減らしていた。『二重詠唱』とは唱えた魔法を二つ同時に展開するスキルだが、俺が使っている『チャージ・ショット』と同じく晩成型スキルであり、最初は消費MPが5倍になる。0.1倍ずつ減っていき、今は妥当な2倍まで減っている。イベントで役に立てなかったからだろう、レベルが上がりにくく必要経験値が多いスキルなのだが、ウィネは既に30まで上げている。努力が滲み出ている。
ティアーノとカタラは互いに『氷雪凍土』と『灼熱火山』を駆使してリザードマンの群れを圧倒している。
セルフィはウィネと同じように援護に回り、クノは縦横無尽に駆け回る。リアナは四つに増えた格闘系オリジナルスキルを織り混ぜてリザードマンを蹴散らしている。リリスは鎧を着ているリザードマン相手で上手く戦闘が進められないようだが、負けるようなヘマはしないだろう。
そして今回新加入し《銃士》と言うことでレヴィとルインに打ち解け、和風を愛するカタラとクノと気が合いすっかり《ラグナスフィア》のメンバーになったアカリ。二メートルを超える長身のアカリは大きな太刀を振り回してリザードマン達を圧倒しつつ火縄銃も使う。レベルはまだ低い方だが充分な戦力だった。
メロとリオだが、正直レベル1は嘘だと思う。素早い動きを見せる二人は両腕についたヒレのようなモノでリザードマンを斬りつけている。もちろん正面からでは鎧を着込み前衛は盾と片手剣を構えるリザードマンを簡単に倒すことは出来ない。だがそれを可能にするのはメロの圧倒的なパワーとリオの手首の内側についた巻いている刃を手を伸ばすと同時に伸ばして攻撃する。リザードマンの隙を狙って放つそれは鋭く速い。
メロはあの巨大な鮫のパワーを小さな身体に凝縮したようなパワーを持っており、防御も回避も関係ない、ただ敵を葬るだけの戦い方だ。
これは二人に共通してだが、倒した敵を目で追うことはせずただ貪欲に獲物を噛み千切る。獰猛な鮫そのモノだった。




