スキル作成
五回のイベントゲームとビーチバレーを経た子供の俺は生産に勤しみ出した。
「えーっと……」
子供の俺はポーチ型アイテムバッグから網と銃弾を取り出した。……何をする気だろうか。
「『錬金』」
それらを片手ずつに載せて呟き、パンと打ち合わせた。……何だ?
「出来たっと」
子供の俺は嬉しそうに言って何の変哲もないただ銃弾に見える銃弾を見て微笑み、チラリと俺の方を見た――気がした。……『鑑定』すると銃弾〈網〉と表示された。
「……りょう?」
子供の俺はマガジンにその銃弾を装填し、超銃を構えてクーアに銃口を向ける。銃を向けられたクーアはこてん、と首を傾げて不思議にそうにしていたが、
「【ネット・ブレット】」
子供の俺はクーアに向けて引き鉄を引いた。クーアは銃声に驚いたのかビクッと身体を縮ませて驚くが、パサッとかかったモノを感じてきょとんとする。
「……あみあみ」
クーアはそう言って網から抜け出そうと足掻く。……【ネット・ブレット】だと? まさか『変幻弾丸』のアビリティか? だとすれば運営側から俺に向けてのヒントということになるのではないか? もしかしたら操作出来ないAIになっている最中はこういうヒントがいくつか出る設定なのかもしれない。
……となれば、『変幻弾丸』の真骨頂は銃弾に出来ないモノを銃弾と『錬金』して放ち、元に戻すことなのか。
「……りょうとって」
足掻いても網から抜けられなかったクーアは、子供の俺に泣きついてくる。
「今取ってあげるからね」
子供の俺は苦笑してクーアにかけた網を外していく。
「……こわかった」
子供の俺がクーアの網を外してから、クーアはぎゅっと抱き着いた。
「よしよし。ごめんね?」
「……う」
子供の俺はクーアを優しく抱き締めて頭を撫でる。……クーアを実験体に使ったのは許されないことだが、ヒントをくれたことには礼を言おう、運営。
俺はそこまで思ってから不意に、カタラのオリジナルスキルについて考えることにした。残る時間で子供の俺が生産やら狩猟やらをしてくれるので放っておき、俺はその間暇なのでオリジナルスキルの開発に勤しむことにしようと思う。
……と言っても、オリジナルスキルを誰かのために作る、という点ではカタラが一番多いと思うのだが。もちろん自分のために作ったスキルが一番多いが、誰かが使う用に作ったとなればカタラが一番だ。
斬った後に視えない刃で斬りつける『連続刃』、振るうのに並ぶ視えない刃を出す『同調刃』、突きで砲撃を放つ『刺突砲』、劫火の戦国武将を纏う『劫火無双』。これら以外にまだ欲しいと言うのだから、困ったモノだ。
だがカタラが使えるとなると類似したスキルになるのは避けられないだろう。刀での戦闘を補助するモノ、火系統スキルの二種類だ。
火系統スキルはもう良いと思うので、戦闘スキルを中心に考えてみよう。
例えば、『柄衝打』。柄で打撃することで振動を起こし相手を怯ませるスキル。……使い道が少ないな。一応運営に申請しておくが。
例えば、『冥鳴波』。二刀の刃を擦り合わせることで音を発し相手の三半規管を狂わせたり音の衝撃を放ったりすることが出来るスキル。……イマイチ効果が薄い気がするな。一応運営に申請しておくが。
例えば、『飛来刃』。武器とは別に飛来する刃を出現させ、自らの意思で操ることが出来るスキル。……決定打に欠けるスキルだな。一応運営に申請しておくが。
例えば、『刀盾壁』。刀を握る手に力を込めると視えない盾を展開することが出来るスキル。……防御のスキルになってしまったが、これは良いのではないだろうか。カタラは『二刀流』を習得してから防御が疎かになっている部分がある。このスキルの申請が通ればそんなカタラの防御力を補うことが出来るのではないだろうか。一応運営に申請しておくか。
と言うことで四つのオリジナルスキルを運営に申請に、どれも通した。これでカタラへのオリジナルスキルプレゼントは達成出来るだろう。
そう思ってまた暇になってしまっていたら運営からメッセージが届いた。……何だ? もうスキル申請は通ったから用はないのだが。
俺は怪訝に思いながらもメッセージを開く。そこには以下のことが記載されていた。
「オリジナルスキルを最も多く作成しているリョウ様へ。突然ですがリョウ様にオリジナルスキルの開発を依頼したいと思います。どうせ暇でしょうからお願い出来るでしょうか。《野伏》系職業のための戦闘スキルと《貴族》系職業のための戦闘スキルと《召喚魔術師》実装のためのアイディアを考えていただきたいのです」
……おい。何故俺にだけ真っ先に次のアップデート内容の一部を公開する? 確かに今回のアップデートで『召喚魔法』の需要上昇があったから推測として頭の中にはあったのだが、プレイヤーに先のアップデートを公開するとは何事だろうか。それ程意見に詰まっているということなのか。
「了解した」というメッセージを運営宛てに送り、腕を組んで考え込む姿勢を取り、思考を始める。……《野伏》とは他のゲームなどで言うところの《射手》やハンターと同じ扱い、と言えば分かるだろうか。弓と短剣を得意とする職業であり、《盗賊》と同じように素早い。更には器用さも高くなるためかなり良い職業ではあるのだが。UCO内不遇職ランキングで言えば《銃士》、《貴族》、(《道化師》)に次ぐ第三位(四位)である。
《道化師》に括弧がついているのはどんな職業にもなれると言う特権があるからだ。そのまま《道化師》だと三位にランクインするのだが。《銃士が不遇職なのは言うまでもなく初期装備の弱さとステータスの伸びがイマイチなのが大きな理由である(俺は蟲人族〈蠍〉にステータスを任せている)が、徹底的な防御の低さも理由の一つであり、NPC店の装備更新が遅いこと、装備がイマイチ重装備なのか軽装備なのか分からないということもあるからだ。……こうして見ると《銃士》がいくら晩成型とは言え、酷いな。
《貴族》は女性プレイヤーなら《姫》や《女王》、男性プレイヤーなら《王子》や《王》になれる支援職業である。更には《皇帝》や《帝王》などの名前がカッコ良い職業にもなれる。他に『剣術』または『剣技』を同時に極めていくと《剣帝》なる強そうな職業にもなれるらしい。人数制限のない味方全体支援魔法を得意とし、支援に回ればその力は絶大である。更に《~帝》系職まで極めれば最強とさえ言われる程になる。まだまだ先の話だが。
……ただ、装備制限が激しく武器の《帝王》となるには武器使用制限を解除するためのスキルを習得しなければならない。しかも魔法では支援と回復以外の使用が制限されていて、それも魔法使用制限を解除するためのスキルを習得しなければならない。そのため、不遇職とされているのだ。ステータスの伸びが完全晩成型で初期はほとんど伸びないのも理由の一つとされている。
……《貴族》系職業以外に武器制限などないのだがな。
そこで、《野伏》である。弓は《射手》よりも弱く短剣は《盗賊》よりも弱くと言う武器攻撃に定評がなく、両立したいなら《野伏》ではなく片方の職業にしてもう一つを頑張った方が強いと一部で囁かれているくらいである。罠の解除や設置については《盗賊》も得意とすることであり、需要は少ない。魔法攻撃が伸びる訳でもない。唯一需要が一番多いとされるのが、『密猟』などだ。要するに、素材採集用職業である。それなら《狩人》でも良いだろうと言われる程に『狩猟』に長けた職業である。戦闘ではなく狩りを得意とする職業であり、器用さがかなり高くなる。そのため強さとしては不遇とされるも素材採集役としてかなり活躍し、更にはレアドロップ率を上げるスキルを唯一習得出来る職業でもある。
プレイヤーの中にはレアドロップ目当てに《野伏》になり他の武器で戦う者もいるくらいである。
俺がしばらく思考していると、再び運営からメッセージが届いた。
「了承していただき、ありがとうございます。それは各職業の特性と主な武器などを記載しておきますので、よろしくお願いします。どれか一つでもアイディアをいただければこちらからご褒美を差し上げますので、ご期待下さい」
という文面のメッセージだ。……褒美? まあ何か貰えるのなら貰っておくべきだろう。
そうして俺は運営の依頼を果たすために思考をしていく。




