カタラと~夜中の学校で~
「……くーあ、おばけこわい」
いつもと違い靴を履いたクーアが子供の俺と手を繋いで夜中の学校の廊下を歩きながら涙目で訴えた。
「大丈夫だよ、クーア。俺が守ってあげるからね」
子供の俺は子供の癖に余裕そうな笑みを浮かべると、クーアに微笑みかけてもう片方の手で頭を撫でた。
(……「俺」?)
それを聞いたカタラが子供の俺が使った一人称に首を傾げていた。あくまで心の中だけでだが。……少し「俺」に近くなってきたではないか。
「……う」
クーアは少し安心したのか子供の俺にきゅっと抱き着いた。身長差で脚に抱き着く形だ。
「ほらクーア。歩きにくいから手繋ご?」
子供の俺は流石に戦闘の障害になると思ったのか、そう言って手を伸ばす。クーアは少し逡巡していたようだが、「……う」と小さく頷いて子供の俺の腕に抱き着いた。しっかり手を握っている辺り、俺とでは出来ない格好ではある。
「よしよし。良い子良い子」
子供の俺は年下の扱いに慣れているようで、夜中の学校に怖がることなくクーアの頭を撫でて不安を和らげていた。
その後カタラが前衛、左手に閃光を持った子供の俺が後衛と言う形で順調に進んでいき、走る人体模型に遭遇した。
「……」
怖すぎるのかクーアは子供の俺にしがみついて目を瞑っている。失礼だと思うが、可愛い。お化け屋敷で怖がる女子を見ると微笑ましくて可愛く見えることもあるだろう。それと同じだ。残念ながら俺は現実で女子とお化け屋敷に入ったことなど一回もないが。
「大丈夫だよ、クーア。カタラお姉ちゃん、クーアをお願い」
子供の俺はクーアを優しく撫でてやり、人体模型を迎え討とうとするカタラに預ける。
「……りょう」
「……三十秒で良いか」
クーアは名残り惜しそうな顔をしていたが、大人しくカタラに抱えられている。それはおそらく、子供の俺の雰囲気が変わったからだろう。「優しいお兄ちゃん」から「戦う男」への変貌だ。雰囲気からして先程とまるで異なる。生産の妖精であるクーアが気づく程の変化。
クリクリと大きく爛々と輝かせていた瞳を細め、感情を消す。右腰から烈火を抜き放ち、二挺を構える。『疾駆』で走ってくる人体模型に突っ込み、体勢を低く保ってグングン速度を上げていく。『疾駆』の勢いを殺さず『跳躍』。人体模型に突っ込んでいく形だ。だが人体模型とぶつかる直前で『空中跳躍』を使い上に跳び上がった。そこで前転宙返りをするのだが、その最中で人体模型の頭に二挺の銃口を突きつけ、引き鉄を引いた。光を溜めていないので『ツインバースト』ではない。二回の『零距離射程』による攻撃だ。だがそれでも人体模型を粉砕するだけの威力は持っていて、一撃死もあって倒した。
「ねっ? 大丈夫だってでしょ?」
子供の俺は両手の銃をホルスターに収めてクーアに元通りの無邪気な笑顔で微笑みかけた。
(……今の子供リョウ、凄く大人リョウに似てた。あっちが本性?)
カタラがあまりの変貌に怪訝な思いを抱いていた。……無論、戦闘で見せた方が本性だと思うのだが、それを伝える術はない。『心意』のアビリティで【テレパシー】はないのだろうか。確かそれは『念話』と言うスキルだったな。
と言うかカタラよ。「子供リョウ」と「大人リョウ」で区別するのは止めて欲しいのだが。格好が悪い。あり大抵に言えばダサい。
そんな俺の声が届くハズもなく、子供の俺とカタラ、そしてクーアの三人は二回の遭遇戦で無事に勝利し、順調に進んでいた。
遭遇戦ではカタラが有名なのかクーアが有名なのかは知らないが、何故か《ラグナスフィア》所属プレイヤーだとバレてしまい、自信がなかったようだが子供姿の「リョウ」が俺だと気づき、驚いていた。……どうやら俺の印象は無表情なヤツで固定されているらしく、「お兄ちゃん達、凄い怖い顔してる……」と涙目で怯えて見せた子供の俺に不意を突かれ、倒されている。二組共なのだから、子供の俺の演技力が凄いのか俺の無表情印象が強すぎるのか。どちらにしろ、末恐ろしい子供である。
「凄いね、合体ロボだよ!」
だが子供は子供なのか、校舎全てが合体したような夜中の学校のボスに目をキラキラと輝かせていた。……別に格好良くはないだろう。大体あれはロボではない。寄せ集めの集合体だ。本体はムキムキの校長の銅像だと言う話だ。ロボットとはかけ離れている。
「……ロボじゃない。ただの見かけ倒し」
(……可愛いけど、間違いは正すべき)
カタラは心の中で子供の俺の期待を壊すことに躊躇しながら、そう自分に言い聞かせて告げた。
「え~。僕、合体ロボ見たかったのにな~。……じゃああれはいらないよね」
子供の俺は唇を尖らせて拗ねていたが、次の瞬間には無表情になっており辛辣な言葉を吐いた。
(……かなり大人リョウに近くなってきた? それとも元々こんなの? でもこれってユイと同じ?)
カタラは流石に子供の俺と過ごした時間が長いため俺と同じところまで辿り着いていた。今カタラの頭には「?」が無数に浮いていることだろう。
子供の俺がずっと攻めていたこともあってクーアを抱えながら戦っていたカタラの分も動き、ステータス三割減の制限をモノともしない活躍を見せていた。
……これなら安心して見ていられるな。俺がもう一度死に戻りすることは、残りのメンバーとのペアでは有り得ないだろう。
次は誰を選ぶのかと思っていたら、じゃんけんを行い結果、クノとペアになった。
つまりクノ、テーア、子供の俺、クーアと言う家族のようなメンバーで挑むと言うことだ。




