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Universe Create Online  作者: 星長晶人
第二章

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ウィネと~廃病院で~

「「……」」


 残念ながら、俺とウィネのペアはクーアと共に廃病院に来ていた。……廃病院は三回目か。当たる確率もランダムなので、俺にはどうしようもない。だがアカリと行った古ぼけた巨大な屋敷で五つ共コンプリートしてはいる。

 ただ今回のイベントでは一度クリアしたからと言って油断出来ないのが肝となる。常に敵のレベルはペアの平均以上であり、ボスは強い。レベルが上がったからと言ってモンスターに特殊な攻撃方法が増える訳ではないが、ステータスが上がるだけでも脅威となる。


「……大丈夫だ、俺が全てのゾンビを倒す。何なら部屋は無視しても良い」


 俺は落ち込むウィネに言って、烈火と閃光を構える。


「ダメなのよ。部屋を無視して大量のゾンビを出現させないと、ボス戦で地面から大量のゾンビが順々に出現して手に負えなくなるの」


 だがウィネの顔色は優れない。自分が一番役に立てない廃病院を当ててしまったからだろう。


「……問題ない。俺がウィネとクーアを守りながらゾンビを一掃しつつボスを一撃死で倒す」


 俺は心からそう思っているように言った。……本当は無茶無謀だと分かっている。『バースト・ショット』で頭を吹き飛ばすにしろ、周囲にゾンビがいる状況では無理だ。何よりウィネとクーアが危険に晒されている状態で集中出来るか分からない。


「そう。じゃあ行くわよ」


 ウィネもそれは分かっているのか少し自信なさそうに微笑み、俺と共にクーアを抱いて廃病院内へ入っていった。


 ウィネが使う魔法の内ゾンビに効果があるのは『家事魔法』だが、【コンロ・ファイア】などと言う規模の小さい火ではゾンビを倒せない。チマチマ攻撃している内に近づかれてカブリだ。ゾンビは映画と同じように相手を襲う時噛みついてくるらしい。ゾンビに噛みつかれると状態異常であるゾンビ化状態となり、意識がなくなる。手当たり次第に敵を倒すらしいのだが、敵とは一体どちらなのか。ただこのゲームではまだゾンビはイベント以外で出現していないので、ペアが両方ゾンビ化してしまうとゲームオーバーとなる。

 俺が主体となって部屋は出口の鍵がある部屋以外全てスルーし、巨大ゾンビが待つボスフィールドに向かった。


「「「オォォォォォ……」」」


 地面から無数の手が突き出て、次々とゾンビが這い出てくる。巨大ゾンビが一体と、通常のゾンビ及びモンスターゾンビが総数で数え切れない程。ゾンビは倒しやすいモンスターではあるので、大量に出てくることが多く、スルーし続けた結果、こうなったと言う訳だ。


「……ウィネ。クーアを抱えていろ」


「え、ええ」


 俺はウィネに告げる。ウィネは「……おばけこわい」と呪文のように繰り返しているクーアを抱き締めつつ、頷いた。ウィネも怖がっているように見える。


「……投げるぞ」


「えっ?」


 俺はウィネに説明せず、クーアを抱えたウィネを抱えてから、お姫様抱っこの状態で投げる。……無数のゾンビに囲まれているこの状況で、守る対象は空にいた方が良い。投げてから頂点に達してすぐ『一旦停止』をかける。効力は数秒だ。この間にケリを着けなければならない。


「……では、本気でいこうか」


 俺は言って、三メートル周囲からすでに一メートル周囲にまで迫っているゾンビ共に向けて、発砲した。もちろんただ適当に先頭のゾンビを撃っているのではない。それでは間に合わないからな。

 俺が優先的に狙っているのは、より多くのゾンビの頭が一列に並んでいるゾンビ。映画やゲームなどで大量のゾンビが発生した時少し思ったのだが、銃弾なら腐ったゾンビの頭などいくつも貫けるのではないか? もちろん銃の威力にも関係してくるだろうが、ランス系『変幻弾丸(プロティン・ブレット)』を使用すればその比ではない。俺は迫りくるゾンビをそうやって出来るだけ効率良く倒していく。


「リョウ!」


 だがMPが切れるのを確認してウィネが悲鳴に近い声を上げる。……確かに効率が悪くなり、俺の処理が追いつかなくなることも考えられる。


 だが、それも予想通りだ。


 この程度で俺は動揺しない。『魔力自動回復』と『魔力回復補助』が発動しMPを充分回復してくれるまで『銃殴術』でゾンビ共を倒していくだけだ。

 俺は二挺を使ってゾンビ共の頭を貫き時折軽く『跳躍』してからの『空中殺法』でゾンビの波を押し返す。無茶無謀な挑戦ではあったが、負けるつもりは毛頭なかった。懸念していた巨大ゾンビの乱入もない。ただ気がかりなのは、『一旦停止』の効力時間。もうすぐ二人が落ちてきてしまう。


「きゃっ!」


 そして懸念通り、『一旦停止』の効力が切れて二人が落ちてくる。だが俺は二人がゾンビ達の手に届く前に『跳躍』して受け止め、『空中跳躍』しながら上に放り投げて再び『一旦停止』を使う。……残念ながら、俺が跳び上がったことで俺のいた場所にはゾンビ共がいる。これでは足の踏み場もない。もう少し『不可視の壁インビジブル・ウォール』のスキルレベルが高ければここからでも巨大ゾンビの下にいけるのだが、スキルレベルが低く一回しか作れないため辿り着けずに落ちてお陀仏だ。


「……さあ、二回戦といこう」


 俺はゾンビ共に言って、MPがそこそこ回復したので容赦なく烈火と閃光を乱射し、ゾンビを減らしていく。……だがもう無理だな。

 俺は諦めた訳ではなく、ただ事実としてそう思った。俺がそう思うと同時、背中からゾンビに抱き着かれた。……女性のゾンビだったのかひんやりと柔らかい膨らみが背中に当たる。だがそれで動揺したりはしない。何故ならウィネがジロリと睨んできているからだ。ゾンビ相手に何かを思うことなんてない……と思う。荒い息が耳元に吹きかけられようとも、ガブリではなくはむはむと甘噛みされようとも何かを思うことはない。

 だが俺を後ろから羽交い絞めにするような女性ゾンビの力は強く、身動きが出来ない。……ゾンビ化したら『限界点突破(リミット・ブレイク)』という人間の身体にかけられたリミッターを外すスキルが発動し、とんでもない力を発揮することがある。それが俺の身動き出来ない状況へ繋がっているのだろう。

 ……だが、優しいな。はむはむと甘噛みすることでゾンビ化することはないらしく、ギュッと抱き着いてくるだけでこのまま腕をし折ったりしないようだ。


「……っ!」


 だが身動きが出来ない俺の腕に、一体のゾンビが噛みついてきた。……痛みが軽減されているとは言え、痛いな。それに嫌なモノが俺の中に流れ込んできて汚染していくように感じる。嫌な感覚が俺の中に流れ込んできて意識に霞をかけていく。

 ……マズいな。このままではゾンビ化してしまう。状態異常の表示が出かけている。明滅しているのはかかりかけ、と言う表示だ。このまま振り払えなければゾンビ化してしまうだろう。


「リョウ!」


 まだ『一旦停止』しているウィネが悲鳴を上げる。……だから俺はウィネを見上げて口だけで「……悪いな」と言い、虚脱感に苛まれる身体に身を委ねる。

 ……意識が霞んでいく。だが代わりに別の意識が浮上してくる。敵を倒せ、と。頭の中に声が響く。


「……ウゥ」


 そして俺は完全にゾンビ化した。そのためゾンビ達は仲間を襲わないので俺から離れてクーアを抱えるウィネを見上げて一斉に手を伸ばす。……仲間、か。笑わせてくれる。


「……『限界点突破(リミット・ブレイク)』」


 俺は感情の赴くままに呟く。力が湧き上がってくるのを感じた。


「リョウ?」


 ウィネは周囲のゾンビと違う俺を不思議に思ったのか怪訝そうな顔で、しかし『一旦停止』の効力が切れて落ちてくる。ウィネは待ち構えるゾンビに襲われることを想像してか目を瞑りクーアをギュッと抱き締めた。

 ……大丈夫だ、ウィネ。お前とクーアは俺が守ってやる。

 そう言ってやりたかったが、俺の意思とは無関係に身体が動く。両腕にグッと力を込めて、腰を低く構える。


「……ッ」


 そして俺は両腕を武術とは無関係な動きで、ただ力いっぱい振り回す。だが渾身の力を込めた振り回しにより、ゾンビ共は拳圧だけで全て吹き飛んでいく。


「あっ……」


 俺は落ちてきたウィネを受け止める。……腕が千切れそうになったものの、千切れたらウィネが自分の体重のせいだと思ってしまうかもしれないので何とか耐えた。


「……オレガ、ナントカスル」


 俺は何とかそれだけを言ってウィネを地面に下ろし、グッと脚に力を込めて一気に巨大ゾンビへ突進する。一跳びで巨大ゾンビの下に辿り着いた俺は右拳を振るって腹に巨大な風穴を開ける。『空中跳躍』で頭まで跳び、巨大ゾンビの拳で右上半身が千切れるが、痛覚はないので気にしない。

 俺は左拳を巨大ゾンビの顔面に叩き込み、頭を吹き飛ばす。巨大ゾンビは倒れる。


「……」


 だが俺のゾンビ化が解けることはない。素早くウィネの下に戻った。これは脱出ゲームであり、脱出するまでクリアとはならない。二つの宝箱に未練があるが、俺の中にあるゾンビの本能が勝ってしまった。

 しかもゾンビ共は倒せていないのでまた集まってきていた。その前にウィネの下に俺が駆けつける。


「……リョウ?」


 だが今の俺はゾンビであり、生身の人間に対して異常な執着を覚える。……もちろん先程ウィネを抱き止めた時もその衝動はあった。噛みつきたいと言う衝動だ。


「……ウィネ」


 だから俺は抱き止めたウィネに顔を近づける。俺が出来るだけ優しくしようとゆっくり顔を近づけるからか、途中まではキスするような格好になってしまう。だからだろう、ウィネがビクッと身体を震わせて目をギュッと瞑ったのは。

 だが俺はウィネの白く滑らかな首筋しか視界に入っていない。軌道を逸らしてガブリとウィネの首筋に歯を立てて噛みついた。


「っ!」


 ウィネが今度こそ痛みで歯を食い縛る。だが少し甘いような味がして、ゾンビになった俺はウィネに強く噛みついた。ウィネはギュッと痛みに耐えながら、ゾンビ化していった。


 きっと、ウィネの頭にも響いただろう。「GAME OVER」と言う渋い男の声が。


 俺とウィネはゾンビ化したまま襲いくるゾンビ共の中心で互いに抱き合い、意識を暗転させていった。


 俺達は死に戻りと言うことで、最初の街に戻ってきた。……俺にとっては初めての死に戻りだ。デスペナルティの子供の姿になりステータスが三割減、というモノがどう言う感じなのか気になるのだが。

 ……これは、どういうことだろうか。


「……リョウ、大丈夫――ってあれ?」


 隣に転移してきたウィネが目覚めて俺の姿を見て、驚く。……俺も自分の姿を見て(・・)驚いた。


「……う。りょう、こども」


 続いて目覚めたクーアがキョトンとして言った。


「えへへっ」


 そう。俺は子供の姿になり、伸縮自在の効果がまだ発動していないのかブカブカになった元俺の服を着て屈託のない無邪気な笑顔を浮かべる、黒髪黒眼であどけない童顔にクリクリした瞳をした黒い〈蠍〉の尾が生えた身長百センチくらいの男の子が座っていた。


 ……それを俺は男の子の背後霊のようにプカプカと浮かんで見ている。ウィネとクーアが俺に気づいた様子はないので、デスペナルティの子供化とはそのプレイヤーを元に子供のAIを使う、と言うことなのだろう。そしてプレイヤーはその子供がいるところを見ているだけ、と。


(な、何よこれ!? リョウが子供になったってこと!?)


 頭の中にウィネの驚く声が聞こえてきた。……もしかしてこれは、心の声というヤツだろうか。何故それが俺に聞こえるかと言えば、一応クリアしたということで宝箱に入っていたスキルの書を手に入れたらしく、『心意』のスキルを習得していたからだろう。

 ……俺がウインドウを開いても少年は微笑んでウィネを見つめている。ログアウトは、あるな。俺の意思でログアウトは出来るようだ。

 『心意』というスキルはスキルレベルの低い今でもギルドメンバーの心の声を聞くことが出来る。心を読むスキルのようだ。スキルレベルが上がれば敵の心さえ読めるかもしれない。


「お姉ちゃん♪」


 子供の俺は無邪気な笑顔を浮かべてウィネにギュッと抱き着いた。……俺の心の声が聞こえない。だが俺の子供の頃はこのような可愛いと表現出来る子供ではなかったと思う。限りなく今に近い子供だった。


「っ……!」


(か、可愛い……っ!!)


 ウィネは子供の俺に抱き着かれて、萌えていた。……何故か子供の俺の感覚が共有されているようだ。ウィネの柔らかい感触が顔を挟んでいる。

 ギルドホームに戻っていく。俺はただ、子供の俺を中心にほのぼのした空気を醸し出す三人の後をフヨフヨとついていくだけだった。

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