俺の一人勝ち
一セット目を十五対七で先取した俺達は、二セット目になって新たなフォーメーションを試すことにした。
その名も『俺の一人勝ち』だ。
名前の由来はただ俺が一人でやることが多いと言うだけだ。
二セット目はこちら側のサーブから始まるのだが、リアナにサーブを任せている。
そのリアナは現在、ゴゴゴ……と言う怒りのオーラを纏っている。ただ『鬼化』しているだけではない。
「……リアナ、その水着可愛いな。だが敵はティアーノに夢中だな」
と俺が耳打ちしたせいだと思う。上げてから落とす。煽るには最適なセリフだったと思う。……俺は嘘をついた訳ではない。八点差がついているのはこちら側の実力もあるが、作戦通りティアーノを前に配置して揺れる豊満な胸によって敵を撹乱することに成功し、たまに胸で受けると言うこともやってのけたティアーノの作戦がかなり効いている。
「【マグマ・ナックル】、【メテオ・ナックル】、【シャーク・ナックル】……っ!」
ボールを斜め上に投げ、ジャンプサーブを放つ時にアビリティを使った。溶岩で出来た鮫が隕石を伴って突っ込んでいくと言う、強力な一撃だ。
リアナのジャンプサーブは現実ではあり得ないくらいの速さでカクッと落ち、相手コートの砂を巻き上げて叩きつけられた。
「「「っ……」」」
「ふーっ」
相手の六人が唖然として、ポッカリと穴が開いてクレーターのようなモノが出来ているのを見る。リアナは軽く着地して大きく息を吐き、相手チームの恐怖を煽る。
サーブはポイントを取ればそのまま同じ人がやるので、再びボールはリアナの手元に戻ってくる。
その後リアナはボールをわざと相手に向けて打ったりしてHPにダメージを与えつつ、六連続サーブの後ネットにかけると言うミスにより五対一で相手にサーブ権が移る。
「すみません」
「……良い。五連取したからな。よくやった、リアナ」
俺がけしかけたこともあってしっかりと褒めてやる。頭を撫でたので子供扱いしないでといつものようにキレられるかとも思ったのだが、嬉しそうにしてくれていたので良かった。
「……では作戦開始といこう」
俺は言って、前の中央に構える。左端にティアーノ、右端にカタラと言う布陣で後ろは左からリアナ、クノ、ウィネの順で並んでいる。
「はっ」
相手の男子が上からサーブでかなり強力な一撃をウィネに向けて放つ。……やはり長い間戦っていると唯一近接戦闘職でないウィネが狙い目だと分かってくるか。
「……問題ない」
だがウィネもそれは心得ていて、すぐに避ける。ボールの行く先に現れたのは真ん中でリベロとして構えていたクノだ。クノは持ち味の素早さを活かしてウィネのいた場所に素早く現れ、強力なサーブを上手くいなして斜め前に上げる。
「……リョウ」
カタラがそのボールを中央にいる俺の真上辺りにトスする。かなり高めになっているが、問題ない。
「……いけるか」
俺は思いっきり屈んで『跳躍』する。俺は元々近接《銃士》だ。この『跳躍』と言うスキルは重宝し、レベルが上のボスと戦う時も使っていたのでスキルレベルも上がっている。今ボールが上がっている三メートル程まで跳ぶことなど造作もないことだ。
「……『チャージ・ショット』」
俺達が試した結果、銃のスキルはボールを打つ時でも適用されるのが分かったので俺は『チャージ・ショット』を試合が始まってからずっと溜め続けていたのだが、ここで放つことにしようと思う。
『跳躍』で高々と跳んだ俺はボールに狙いを定め、光を纏う左手を振り上げる。それで何とか習得したバレーのアタックを放つ訳だが、そこで俺の手による『零距離射程』を放つ。……残念ながらバレーボールを打つ時、勝手に発動してしまうのだ。だからあまりサーブやトス、レシーブは得意でない。手加減が難しいからだ。
俺の打ったボールは真っ直ぐリベロの男に向かっていく。と言っても目でその速度が追えたかどうかは分からないが。俺でも今までないくらいにチャージしていたからな。高速で放たれるボールは構えていたリベロに当たり、残り八割近くあったHPを消し飛ばしてそのまま砂浜に落ちる。落ちるだけでは留まらず、ズザザザ、と砂を巻き上げながら地面を突き進んでいく。数十メートル進んだところで、やっと止まった。
「「「……」」」
あまりの威力に俺も観客も両チームのメンバーも唖然としていたが、相手はリベロが倒されると言う最悪の状態となっている。
そのまま《ラグナスフィア》有利で試合は進んでいき、十五対五で二セット目を取って勝利を決めた。
「……無事に勝利したな」
俺はギルドメンバーで集まり雑談していた。今日はこれで試合もないので各自生産や狩猟で時間を潰してもらうしかないのだが。
「……りょうりょう。くーあといっしょにおよぐ」
だがクーアが俺の脚にくっついて海に出ようと提案してくる。……沖に出るとモンスターが出てくるので面倒なのだが。
「……では、一緒に行こうか」
俺はクーアを抱えて言う。クーアに甘えられると弱いのは俺の欠点だが、クーアが喜んでいるので良いだろう。
「……なら皆一緒に。ボートを借りれば出来る」
だがテーアを抱えたクノが一緒に泳ごうとする俺達を引き止め、ボートを借りメンバー全員で沖に出ようと言い始めた。……確かにその方が魔法を使えるメンバーがいて俺も戦いやすくなるだろう。
「……分かった。では行きたい者だけでボートを借り、沖に出るようにしよう」
俺はクノに頷き、行きたいメンバー全員でボートを借り沖に出ることにした。……行きたいメンバーとは全員だったのだが。
こうして時間を見ながら交代でログアウトしつつ、釣りや狩りを行って時間を潰していた。




