ギルド対抗ビーチバレー大会開始
ルイン、セルフィ、リリス、リアナ、ジャンの五人と五回のイベントをこなした俺は、暇を持て余して休日の父のようにクーアとテーアと遊んでいた。
もちろん腕が増やせるので合間に生産を行っている。
遊んでいる、と言ってもクーアとテーアが遊んでいるのであって、俺は積極的に遊びに参加している訳ではない。公園の遊具で遊ぶ子供を見守る親のような立ち位置にある。
じゃんけんで順番は決まっているが、明日はユイ、クノ、ウィネ、カタラ、レヴィ、ティアーノの順の予定だ。
ギルド対抗ビーチバレー大会にもエントリーしているが、午後一時から決まった時間で試合が行われる。
ギルド内で選手が零にならないよう調整しつつ、試合を行う。
参加ギルド数は百二十三チーム。トーナメントなのでシードは五つとなる。
シードはユイ率いる《魔導学院》、ジャン率いる《インフィニティ》、《マッスル帝国》、《天波羅騎士団》、《レイジング・アーマメンント》の五つで、《ラグナスフィア》は入っていない。人数の多いギルドがシードになると思われる。
人数が多くても一チームしか参加出来ないので参加人数は限られてくるのだが。最近ビーチバレーと言えば二人ペアでの競技と言うイメージが強い。だが今回はギルド対抗だからか六人で一チームとしての試合になる。十五点先取の三セットマッチとなっており、特別ルールとして選手はスキルによる妨害を行って良い。ただし、相手に直接のダメージを与えるモノは禁止。ボールを魔法で加工するなどはありらしい。因みにHPとMPはそのまま採用されるのでHPがなくなれば死に戻ってしまう。
今日は一回戦のみが行われるため、五大ギルドは観戦して次に相手となるギルドを視察すると言うことになる。
一時まで昼寝をする二人を見守っていたり遊ぶ二人を見守っていたりしていた。もちろん生産も行っていたが、テーアのためのクッションを作成して新たな魔銃を作成してホルスターに入れられる銃が多くならないか検証してみた。
その結果、新たな魔銃の作成に成功し、氷結、土石、大木の三つの魔銃を手に入れた。次の三つは雷撃、閃光、暗黒の三つだが、それも作成出来た。次の銃三つは作成出来そうにないので保留してある。
「……では、行こうか」
俺は言って、ギルドメンバー全員を連れて午後一時から、ビーチバレーの会場である灼熱のビーチに向かった。
更衣室を通ってビーチに行く。もちろん今回ビーチでは水着を着用しなければならないので水着に着替えての集合となる。
俺は兎も角として、《ラグナスフィア》には「美」のつく女性プレイヤー達が九人もいる。各々好みの水着を着ているとは言え、その注目度はかなり高い。……と言うか周囲の男が全員鼻の下を伸ばしているのが丸分かりだ。
クーアとテーアも水着に着替えていて、十二人全員が揃う頃には九人への下心丸出しな視線と同じくらいに俺に対する嫉妬の視線が増えていて、居心地がかなり悪くなっていた。……今更脱退出来ないが、覚悟していたとは言えキツいな。
「……確か俺達の場所は《マッスル帝国》のすぐ下だったか」
一応「……似合っているな、可愛いぞ」とだけ褒めておいて、すぐに話題を逸らす。……俺がサラリとでなくともそう褒められたのはユイの教育のおかげと言っても過言ではない。と言うかユイに「見た目に変化があったら、特別な衣装を着たら、女の子は褒めること」と言われていなければ普通に流していただろう。
すぐに十一人から視線を逸らして試合のないギルドが思い思いに遊んでいるのを見据える。……カップルがイチャイチャしている。引き籠もりニートの俺にとっては羨ましい光景である。全く以って、俺にとっては縁のないイベントであった――ハズなのだが。
「それっ!」
リアナが弾けるような笑顔を浮かべて練習用のビーチバレーボールをトスする。リアナの驚異的な筋力によってボールは高く高く上がる。……素早くトスも上手い。リアナはリベロ向きだな。身長は低いが跳躍力があるので前にいても活躍出来そうだ。
「……あう!」
ボールを取ろうとしていたクーアが上手く取れずに頭にボールを直撃させて涙目になる。俺はクーアの頭に当たって誰もいない場所にポチャリと落ちたボールを取りに行きながら、思った。
……これはカップルよりもマズいシチュエーションではないのか?
と。
カップルがイチャつくのには最適なビーチと言う場所ではあるが、よく考えてみればクーアとテーアが溺れない程度の浅瀬でビーチバレーを楽しんでいると言うこの状況は嫉妬の視線をより強くするのではないだろうか。
クーアは参加しようとボールを追いかけているが、テーアは小さな浮き輪の上に寝転がってプカプカ浮いている。テーアの子守はあまり動けないからと参加を辞退したセルフィが見ている。
この中から六人を選ぶ訳だが、相手をより見蕩れさせるメンバーを入れようかと思っている。特にリリス、ティアーノ、ウィネ、レヴィの辺りだ。
ティアーノがかなり注目を集めている。普段は鎧を着ていて分からないが故に、注目の度合いはかなりのモノだ。……その中でも一番動けるのがティアーノか。と言うことはティアーノとリアナのレギュラー入りは決まったようなモノだな。
俺は最近ティアーノに対して耐性がついてきたらしく、そこまで見蕩れることはなくなった。ティアーノがギルドホームでは鎧を脱いでいることが多いからだろう。
……それよりも意外に露出度の高い水着を選んだリアナが目に毒だ。保養かどうかは分からないが、少しズレたら見えてはいけない部分が見えてしまうのではないかと思ってしまう。布の面積が少なく露出で勝負してきたように見えて不憫に思ったのは内緒だ。
俺達の試合は三時からなので、たっぷり練習してメンバーの具合を見ながらレギュラーを決めることにする。
三時になって、俺達の試合が始まる。相手は《クロニカル・サバイバーズ》と言う名前の中小ギルドの一つで男が多い。応援に女性プレイヤーがいるので男だけと言う訳ではないのだが。
『試合、開始!』
決闘の時と同じく渋い男の声が言って、相手のサーブから始まる。
《ラグナスフィア》の内六人、俺、クノ、ティアーノ、カタラ、リアナ、ウィネがレギュラーで、フォーメーションはクノとリアナとウィネが後ろで俺、ティアーノ、カタラが前と言う布陣だ。一応リベロはクノに設定してある。リアナには重要な役割を果たしてもらうからだ。
ルールはほぼバレーと同じ。ただ直接攻撃以外のスキル使用が許可されているのが肝と言うヤツだろう。
相手のサーブを後ろ中央に姿勢を低くして構えるクノがしなやかな動きで勢いを殺し、かつ良い場所に上げてくれる。だから俺達はいきなり使うことにした、切り札を。
「……ティアーノ、カタラ」
俺は両側にいる二人に呼びかけ、後ろに退散する。二人は事前に練習していたので淀みなく動き、真ん中に上がったボールに向かって跳躍する。……ティアーノが凄い。ジャンプする前は下がり、跳躍が最高点に達したところで上に跳ね上がる。その大きな動きに相手の前にいた二人は見蕩れてしまい、反応が出来ない。一人はカタラの前だったためセーフだった。
「……氷雪」
「……火炎」
二人は同時にボールにスパイクをするような姿勢を取る。『二刀流』のカタラには無理を言って左手にしてもらっている。
「「……アタック」」
二人はスパイクをする手に吹雪と火炎を纏わせて同時にボールを叩く。まさに息の合った二人だからこそ出来る、コンビ技。二人にスパイクされたボールは吹雪と火炎が混じり合い勢いを増して相手コートに叩き込まれ、こちらの点数となる。……俺はまだ出番を作らないでおこう。『チャージ・ショット』でスパイクしてみるために溜めておきたい。
俺はそう思って左手に光を溜め始める。唖然とする相手チームと観客はそれに気づいていない。
では、このまま押し切ろうか。




