リアナと~森の中の巨大な洋館で~
ペアになった俺とリアナが来たのは森の中の巨大な洋館だった。……若干リリスのいた第一回イベントフィールドに似ているように見えるのは否めない。
だが場所は山頂ではなかった。深く暗い不気味な森の中ではあったが、城と言う感じはしない。
嫌な雰囲気が漂う巨大洋館だが。
「よしっ。いきますよ!」
リアナはかなり機嫌が良いようで、胸の前で拳を打ち合わせた。……先程リアナとペアを組んで廃病院をクリアしたカタラの話では、嬉々としてゾンビの群れに突っ込んでいたらしい。どうやらテンションがかなり高いようだ。
カタラが言うには、原因は俺にあると言う。俺がリアナにあげたオリジナルスキル『天災格闘』の威力にテンションが上がって突っ走っているとか。
……俺に言われてもな。
「【メテオ・ナックル】!」
リアナはバタン、と勝手に扉が閉まったのにも怖がらず、嬉々として出現したミイラに攻撃する。【メテオ・ナックル】は拳を隕石に見立てて攻撃するリアナオリジナルスキルからヒントを得た「見立て格闘」アビリティの一つである。
『天災格闘』とは身体を自然現象に見立てて攻撃するスキルであり、リアナが苦なく遠距離攻撃を行えるようにと俺が考えたスキルである。例を挙げると【メテオ・ナックル】や【スター・ナックル】などは見立てたモノを飛ばすことが出来る。【メテオ・ナックル】なら拳に纏った隕石のオーラを飛ばす、と言うことである。
「……リアナ。あまり一人で突っ走るな」
俺が注意を促すものの、リアナは聞く耳も持たない。……一度痛い目を見ないと分からないか。だが俺が攻撃してもリアナは痛くない。なら敵に攻撃させるしかないのだが、今のリアナに勝てるモンスターなどいない。
「大丈夫ですよ! 私、負ける気がしませんから!」
余程テンションが上がってしまっているようで、満面の笑みを向けてきた。……これはダメだな。言葉で言って聞くとは思えない。
俺もリアナが攻撃しない内に烈火で幽霊などを倒していたが、七割程度はリアナが倒したと思われる。
リアナの活躍――と言うよりは独走――により俺達は楽に突き進んでいけた。
「「「……」」」
そして途中で負けなければ二ペアと戦うことになる遭遇戦一回目が始まる。
遭遇戦は回避出来る。初心者プレイヤーがサービス開始からやっているプレイヤーに勝てる訳がないからだ。相手の情報はないので勘になるのだが、初心者プレイヤーはほぼ確実に回避する。負けると強制転移させられて街に戻ってしまうが、回避すると探索を続けられる。
遭遇戦に勝利するとスコアが加算されるので、自信のあるプレイヤーはランキング入りを目指して回避しない。
二対二の遭遇戦はペア間での連携は必要不可欠となる。二対一で勝てる程甘くはないのだ。
しかも今回俺達が遭遇した相手はジャンがギルドマスターを務める《インフィニティ》に所属する《騎士》と《魔術師》の上位職らしき二人組だ。リアナが一人で突っ込んでいては勝てない相手だろう。二人の顔は見ているが、確か俺やジャンと同じく最初からプレイしている。
つまり俺と同じくらいのレベルで、リアナよりもレベルが高いペア、と言う訳だな。
リアナもそれは分かっていると思うのだが、意識から外しているのだろうか。ウズウズした様子で渋い男性の声が行うダッグマッチ決闘のカウントダウンを聞いている。
相手は俺が“黒蠍の銃士”と“黒蟻の破壊王”(リアナの呼び名)だと知ってか警戒した様子で開始の合図を待っている。……その間に俺は目で二人に対して「……少し痛い目を見させてやってくれ」とアイコンタクトを取った。伝わったかどうかは分からないが、二人が驚いたように俺を見てコソコソ話し合い始めたので、伝わったのかもしれない。
俺は一応銃をホルスターに収納し、腕を組んで戦わないアピールをしておく。……その気になれば『早撃ち』で攻撃することも出来るが、いくら『早撃ち』慣れした俺でも腕を組んだ状態からでは遅れる。
「「「……っ!」」」
合図があり、三人が一斉に動き出す。動かない一人は俺だ。リアナが真正面から突っ込んでいき、俺はわざと大袈裟に肩を竦めてみせる。……痛い目を見させてやってくれと言うアピールに必死だ。直接言う訳にもいかないからな。
《騎士》系職が【グラディウス・ガード】と言う防御をかなり上昇させるアビリティを使ってリアナと正面から向き合い、盾を中心に構えて迎え討つ。……【グラディウス・ガード】は《剣闘士》のアビリティだな。と言うことは《騎士》からやや攻撃よりの《剣闘士》に進化させたと言ったところか。
《魔術師》系職は【ブリーズ・エンチャント】と言う武器に風を纏わせる魔法を唱えた。……風系統を使うのか。それならおそらく《風魔術師》だな。
戦士職と魔法職と言う良い相性の上、二人で攻撃と防御を強化すると言う連携も見せている。そうすることで互いにMPの余計な消費を減らせるのだ。
……対するリアナは真正面から《剣闘士》に突っ込んでいくのみで、何も補助をかけない。俺に援護を要求したりもしない。連携も何もあったモノではないな。
「【シューティングスター・ラッシュ】!」
どうやらリアナは何でも一人で出来ると思い込んでいるらしい。何もしない俺に気づかず両拳を流星に見立ててラッシュを放ち、流星群となって《剣闘士》に襲いかかる。
「【シールド・バッシュ】!」
だが相手もリアナより経験豊富なプレイヤーである。リアナのラッシュの内一撃を見極めて盾を前に突き出し、リアナを怯ませた。……【シールド・バッシュ】は相手の攻撃に合わせて盾を突き出すことによって相手を怯ませるアビリティだ。リアナのラッシュを見極めたのでかなりの腕前だと思われる。
「っ……!」
「【ブリーズ・ストーム】!」
怯んだリアナの目の前に《風魔術師》が魔方陣を展開する。魔方陣から風の嵐が吹き荒れて、リアナのHPを削り後方にいる俺のところまで吹き飛ばす。
「……」
俺は吹き飛んできたリアナを片手で受け止めてやる。リアナのHPは半分まで減っていて、良い薬になったのかテンションがかなり下がっている。
「……すまないな、付き合わせて」
俺は受け止めたからか俺を見てくるリアナを無視して相手二人に言う。
「えっ……?」
「まあ、良いってことよ。俺も新人の教育には苦労してるからな」
リアナがキョトンとするのも構わず、《剣闘士》の方が苦笑しながら言った。……やはり分かってくれていたか。
「……ウチのリアナが迷惑をかけた」
「……」
「ま、あんたが手を出さないのにも気づかないで突っ込んでくるのは、流石に無謀だしな」
俺が軽く頭を下げるとリアナが羞恥に頬を染め、《剣闘士》が少し困ったように笑った。
「……ああ。分かったか、リアナ? 周りを見ずに突っ込むとどうなるか。わざわざ一撃死ではなく魔法で吹き飛ばして手加減してくれたのだから、手加減されなかったらどうなっていたかは分かっていただろう?」
「はい。ごめんなさい」
「……一人でやれると思うのは勝手だが、それでペアや仲間に迷惑をかけるのはやってはいけないことだ。一人でやるにしても、もう少し工夫するとか色々あっただろうに」
「……はい、ごめんなさい」
俺が説教しているとリアナはシュン、と俯いて落ち込んでしまった。
「……分かったなら良い。すまないな、詫びに俺が全力で相手をしよう」
「“黒蠍の銃士”っつっても、一人で俺達を相手に出来るとは思わないことだな」
「……別に俺一人で勝てるとは思っていない」
俺は言いつつ、左手に超銃を持つ。
「……リアナ。しっかり見ていろ。あと、隙があれば割り込んでも良いからな」
俺は最後に右手でリアナの頭を撫でて、右手に烈火を持ち一気に駆け出す。
俺は真正面から突っ込みつつ、【ファイアランス・ブレット】を《剣闘士》に向かって放つ。銃弾の速度で放たれる火の槍が盾とぶつかり、怯ませる。
風の牙を生み出す【ウインド・ファング】と風の鳥を放つ【ウインド・バード】を放たれるが、『魔法破壊射撃』で中心を撃ち抜き霧散させる。その隙にと突っ込んできた《剣闘士》に対して烈火の『バースト・ショット』を放ち牽制しつつ『跳躍』する。空中では身動きが取れないだろうとばかりに魔法を三つ展開してきた《風魔術師》に『空中跳躍』で水平にジャンプしながら『魔法破壊射撃』で破壊する。
リリスとの夜中の学校探索の時ボス相手に使ったおかげかスキルレベルが一気に上がった『空中跳躍』の効果で三回の空中ジャンプが可能となり、上に脚を向けて空中を蹴り、身体を反転させて素早く地面に着地する。
超銃の『バースト・ショット』で《剣闘士》の背中を攻撃しつつ、【ファイアブレード・ブレット】を《風魔術師》に放つ。【ファイアブレード・ブレット】は展開された【ブリーズ・シールド】に阻まれる。《剣闘士》の方も防御を上げているせいかダメージはそこまで大きくない。……これは『ツインバースト』でなければ大きなダメージを与えられないな。
俺は先に《風魔術師》の方から倒すべきかと思い駆け出す。魔法を展開すれば『魔法破壊射撃』で破壊して抵抗する暇を与えない。《剣闘士》も黙って見ていることはなく、斬撃を飛ばす【スラッシュ・レイジ】を使ってくるが【ファイアアックス・ブレット】で相殺し、速度を緩めずに《風魔術師》まで辿り着く。俺は超銃を溜めて、《風魔術師》のこめかみに『跳躍』しながら銃口を突きつける。『バースト・ショット』と『零距離射程』のコンボ。《風魔術師》の頭は消し飛びHPも一緒に消し飛ぶ。
「クソッ!」
呻いて俺に突っ込んでくる《剣闘士》だが、俺は嘲笑うかのように『空中跳躍』で遠くまで回避する。
「……俺にだけ集中していて良いのか?」
俺は悔しげな顔をする《剣闘士》に尋ねる。その横から、
「【ヴォルケーノ・ナックル】、【シャーク・ナックル】!」
右手を溶岩で出来た鮫に見立てて拳を振り上げるリアナが突っ込んできていた。身体強化が出来る『鬼化』のスキルも使用しているので、受けたらHPが消し飛ぶだろう。……と言うかオーラが一つに融合している。アビリティは別々に使っているのだが。
「くっ!」
《剣闘士》は隙を作ったところを狙われ、頭にリアナの強力な一撃を受けてしまい、倒れる。
「……リアナ、よくやった」
俺は勝利宣言がされると共にリアナに歩み寄り、頭を撫でて褒める。
「いえ。私はただ、リョウさんに迷惑をかけただけです」
だがリアナは調子に乗っていたことをかなり気にしているようで、シュンとしてしまう。
「……迷惑をかけたと思うなら、これから協力して返さないとな」
「はいっ」
「……それと、カタラにも謝っておかないとな」
「あっ、はい。私、これからも頑張ります! その、ギルドとして!」
リアナは撫でられるに身を任せていたが、しっかりと宣言した。……理解してくれたようで良かった。
「……では行こうか。二人でな」
「はいっ!」
俺は言ってリアナと二人で先に進んでいく。
俺とリアナと言うアタッカーペアが共闘すれば、早くクリアするのは当たり前である。
ボスとしていた吸血鬼(正確に言えばヴァンパイア)を瞬殺して早々にクリアしてやり、ギルドホームに戻った。
次の俺のペアはギルド内ではなく、途中で会って声をかけてきたジャンとペアを組んだ。……ジャンを盾にして俺が後ろから銃で攻撃していただけで夜中の学校をクリア出来たので、まあ良しとするか。




