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Universe Create Online  作者: 星長晶人
第二章

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クーアの成長

「……で、他のメンバーはどうした?」


 俺は迷宮洞窟を出て地面に倒れ込み乱れた呼吸を整えると他のメンバーがそうしているように地面に座って、すでに戻ってきていたメンバーに尋ねた。


「他のメンバーなら、もう全員迷宮洞窟を出てるわよ。ここにいないのは死に戻りしただけよ」


 クーアを抱えたウィネが言う。……ここにいるのはウィネ、ティアーノ、クーア、リリス、レヴィ、セルフィと俺とリアナだけか。いないのはクノ、カタラ、ルインの三人だな。


「……もんむーいたの。ぐおーってきて、わーってなったの」


 クーアがウィネから俺の方に来てギュッと抱き着き、上目遣いで訴えてくる。


「……そうか。ではすぐに出てきたのか」


 俺はクーアを抱えると、ウィネとティアーノに尋ねた。


「……ええ。クーアの言う通り、私達は入って最初の部屋に着いたのよ。かなり巨大な部屋だったから覚悟はしていたのだけれど、レベル84のボス級モンスター、モンムーがいてすぐに逃げてきたのよ。私が作った氷の壁もあっさり壊されてしまって、手も足も出ずに」


 ティアーノが悔しさの滲む表情で説明してくれる。……またクーア独特の表現かと思ったら、モンムーと言う名前のモンスターだったようだ。


「私達は入ってすぐの通路でレベル76の雑魚モンスターの大群が押し寄せてきて、そのまま出たわ。運営もよくこんなダンジョンを作ったわね。運が悪ければ一生クリアされないわよ」


 お前も運営側だっただろうが、とは言わないが誰もがそう思っていたハズだ。リリスとレヴィのペアも何もせずに戻ってきたらしい。


「えっと、私とルインさんのペアなんですけど、最初に遭遇したレベル97のアシュラザウルスを見て私は逃げようって言ったんです。でもルインさんが頭を貫けば倒せると言ってサブマシンガンを乱射して、結果全て弾かれルインさんは一撃で倒されました。私は洞窟内を水でいっぱいにしてすぐに逃げてきましたが」


 ルインは無謀にもレベル差60以上あるモンスターに立ち向かったらしい。それで結局死に戻っていては意味がないと思うのだが。


「メールが届いていますけど、カタラさんとクノさんはレア鉱石に目を奪われて採掘している間に背後からモンスターに襲われ、死に戻りしたようです」


 レヴィがここにはいないペアの報告を行う。……確かにそう言う文面のメールが届いている。


「……俺達は入って最初の空間でレア鉱石を大量に採掘した後レベル57のギギーガと言うモンスターと戦闘し、勝利した。だがその後レベル99のミニボアに襲われ、脱出したと言う訳だ」


「運が良い方ね。でもレベル99のミニボアって……何? 何なの、このダンジョン」


 ウィネが言いつつ頭を抱える。全員の気持ちを代弁したかのような言葉だった。……銃弾を避けるとか有り得ない反応速度だろう。当たらなければ意味がないとはこのことだ。


「……ミニボアに左右のステップで弾丸を避けられた時、少し気落ちしたのだが」


「「「……」」」


 俺が呟くと全員が同情したような目を向けてくる。……猪なのだからせめて前後のステップにしようか。猪の癖に華麗な左右のステップとかいらないから。しかも銃弾を回避出来る速度のステップとか落ち込む。俺があいつに勝つにはどうしたら良いのか全く分からないのだが。素材もミニボアの素材だと思われるのであまり進んで狩ろうとは思わない。


「……だが手に入った素材は今の俺では加工も出来ないレア素材だから、現段階では特に何もすることがないと言うことか」


 成果はあったが現状を打破するような画期的なモノではなかった。そう言うことだろう。


「スキルレベルを上げてレア装備を作れるようになるしかないわね。それより新フィールドで素材採集しない? この先を行ったところに海岸があるからそこやもう一つの新しい街の方のフィールドで素材収集しまくって《ラグナスフィア》の新商品を出そうと思うのよ」


 ウィネがこれからの方針を提案してくる。


「……そうだな。ではこちらのフィールドで自由に素材採集をしてから一旦集合してもう一つに向かうと言うことで良いか?」


 俺が頷き聞くとこの場にいる全員が頷いた。


 と言うことで《ラグナスフィア》当面の方針が決まったため、各自そう言うことで動いていく。


 俺は早くもう一つの新しい街の近くにあると言う粘土の洞窟とやらに行きたいのだが、新しい素材を手に入れて《ラグナスフィア》を繁栄させるのにギルドマスターである俺が協力しない訳にはいかないだろう。

 クーアを抱え二人で一緒に素材を採集してフィールドを回っていた。無限迷宮で死に戻った三人にもメールを送って方針を伝えた。


「……では、行こうか」


 俺は一旦最初の街の転移ゲートにフェザンの街から転移し、ギルドメンバーを召集してレヴェッサの森の先にあると言う新フィールドを目指す。


「……新フィールドに行くにはどうしたら良い?」


 俺は誰にともなく尋ねてみる。かなりご機嫌で目を放すとすぐにどこかへ駆けていってしまいそうなクーアを宥めながらである。……結構長く一緒にいて構っていたからな。テンションが高い。素材収集が終わったらギルドホームでゴロゴロさせてやるのも良いだろう。


「……森を突っ切って大河を橋を使って渡るとある」


 カタラが代表して教えてくれる。……まずは森を突っ切らなければならないのか。橋があると言うので、確か初期スキルの一つにあった『釣り』が出来るのだろう。食材調達も出来るのかもしれない。


「「「……」」」


 俺達はレヴェッサの森を抜けて大河を見つけ、川に沿って見えていた大きな橋に向かう。大河を見たメンバーは、その陽光を反射する綺麗さに目を奪われていた。

 クーアのテンションも上がりモンスターも現れていたが、ほのぼのとした空気で橋まで向かっていた。


「……おー」


 橋の中央付近から川を覗き込むクーアがキラキラと目を輝かせた。


「……りょう、もっとちかく」


 クーアは俺にもっと橋の縁まで寄るように言ってくる。


「……危ないからだダメだ」


「……だいじょーぶ。こっちにいるから」


 俺がダメだと言うのに、クーアは大丈夫と言って聞かない。俺は仕方なくクーアを橋の手すりの上に手をかけるような形で乗せる。この体勢ならどう間違っても落ちることはないだろう。


「……おさかな!」


 クーアは目を輝かせて水面を指差す。……確かに魚はいる。だがかなり小さくて橋の上から見えたモノではない。俺もギリギリ見えたところだ。それも藻と重なって姿からはっきりしたからなのだが。


「……んっ」


 クーアは何を思ったのか手すりに足をかけて上り始めた。


「……待て、クーア。危ないと言っているだろう」


 俺が引き止めるのも無視してクーアはよいしょ、と手すりに両足をかけて上った。すると嫌な予感が的中し、クーアは足を滑らせてこちら側ではなく、向こう側に落ちていく。


「……っ」


 俺は反射的に動いていた。川へ落下していくクーアを掴むために、手すりに駆け寄ってそのまま川に向かって飛び下りる。だがそれでは俺も落ちてしまうので、橋の縁に尻尾を引っ掛けて落ちそうなクーアを両手で脇を抱えるように掴む。


「……りょう?」


 クーアが恐る恐ると言った風に振り返ってくるのだが、俺はクーアを睨みつけた。俺は怒っているのだ。


「……」


 俺は尻尾に力を込めて上がり、両足を縁にかけ足を手すりの柱に引っ掛けて、腹筋を使い上体を起こす。そして三本目の腕で手すりの柱を掴み立ち上がると、そのまま手すりを飛び越えて橋の内側に戻った。


「だ、大丈夫なの?」


 メンバーが心配そうに駆け寄ってくる。


「……先に行っていてくれ」


 だが俺はクーアと話さなければならないことがあるのでメンバーを先に行かせる。後ろ髪を引かれるような面持ちだったメンバーだが、先に行ってくれる。


「……クーア」


 俺はクーアを手すりの柱を背にして座らせる。俺は屈んでクーアの目を見据える。


「……りょう、おこってる?」


 クーアは涙目になって俺を見上げてくる。


「……ああ。これでもかなり怒っている」


 俺は言って少し目を細める。クーアはそんな俺を見てピクッと身体を震わせた。


「……クーア。何で俺が怒っているのか、分かるか?」


 俺は聞く。するとクーアはふるふると首を左右に振った。


「……りょう、くーあのこと、きらい?」


 どうやらクーアは俺がクーアを嫌いだから怒っているのではないかと推測したらしい。


「……違う。クーアが嫌いだから怒っているのではなく、嫌いではないから怒っているのだ」


 俺はクーアの目を真っ直ぐに見据えて言った。


「……きらいじゃない?」


「……ああ。だが怒ってはいる」


 不安そうに聞いてくるクーアに頷きつつ、しかし釘を刺しておく。クーアは再び俯いてしまった。


「……俺は、クーアが心配だから怒っている」


「……しんぱい?」


「……ああ。もし川に落ちたらどうする? 溺れてしまうだろう。落ちた時に川底に頭を打ったらどうする?」


「……ごめんなさい」


「……俺はしっかりと言ったからな、危ないと。それなのにクーアは、言うことを聞かずに上って落ちかけた」


「……ごめんなさい」


 俺が言うとクーアは俯いたまま涙をポロポロと流す。


「……俺はクーアが嫌いだから怒っているのではない。クーアが大切だから怒っているのだ。分かったな?」


「……ん。くーあ、もうしない。くーあ、ちゃんとりょうのいうこときいていいこにするの」


 俺が出来るだけ優しく言うと、クーアは泣きじゃくりながら約束してくれた。


「……良い子だ。では、行こうか」


「……ん」


 俺がクーアの頭を撫でて言うとクーアは涙を拭いながらこくん、と頷いた。


 俺はクーアを抱えて頭を撫で、橋を渡り切ったところで待っていてくれたメンバーと合流し、無事に《ラグナスフィア》全員で新フィールドに到達した。

 全員に心配をかけたクーアはメンバーのホッと安心したような笑顔に囲まれて謝っていた。

 これでもう、危ないことをすることはないだろう。


 クーアはまた一つ、成長したようだ。

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