迷宮洞窟
「暗いですね」
「……ああ。足元に気をつけた方が良いな」
崖を無事下りたメンバーと話し合い、結果二人一組のペアは以下のようになった。
俺とリアナ。ウィネとティアーノ、ウィズクーア。リリスとレヴィ。クノとカタラ。セルフィとルイン。
俺と誰が組むかと言う問題でじゃんけんになり、勝ったのがリアナだった。五ペアに分かれた俺達はダンジョンである迷宮洞窟に入った。洞窟の中は暗く、フェザンに来る前に通った洞窟よりも少し暗かった。
俺が近接も遠距離も出来るため二人並んでの探索となる。だが強いモンスターが現れた場合、リアナが突っ込み俺が突っ込むまでの時間を稼ぐと言う戦法を取ろうと思っている。二人で近距離をした方が攻撃力は高いがそれだと防御と回復に難がある俺達二人では危険だ。すぐに全滅してしまうだろう。
俺達は警戒しながら洞窟内を進んでいく。すると道の先に明るい光が見えた。虹色の光だ。……何かは分からないが、何かあると思っておいた方が良いだろう。
「……行ってみるか」
「どっちにしろ一方通行ですしね」
俺が言ってリアナも頷く。
「「……っ」」
俺達は警戒して光の源に向かう。そこは広いドーム状になっていたのだが、俺達はそこに足を踏み入れた瞬間中の光景に目を奪われてしまった。
赤、青、黄、緑、黒、透明、白、灰……有り得ない程の多色な鉱石が壁中にあったのだ。それらが光り輝いて光となっていたようだ。
「……これは、クリスタルですかね。レア鉱石ですよ!?」
リアナが言う。俺も『鑑定』を使って確認し、今まで作成しても見たことがないようなレア鉱石が壁中にあった。
「……これは端から全て採掘するしかないな、リアナ」
「はい!」
と言う訳で、光らなくなるまでレア鉱石を採掘しただの壁になってしまった。
「……では先に進もう」
「幸先良いですね」
俺とリアナはホクホク顔で先に進んでいく。……と、Y字の分かれ道があった。
「……二手に分かれるのは危険か。どちらが良いと思う?」
「う~ん。右に行ってみて強いモンスターとかが出たら戻って左、って言うのはどうです? トラップにかかるのも危険ですし」
「……では右に行こうか」
「良いんですか? そんな簡単に決めちゃって」
リアナが聞いてくるが、俺は他のメンバーと違って経験がある訳ではないのでどちらへ行けば良いのか、などのことが分からない。なら勘で進むしかないだろう。
「……出たぞ、モンスターだ」
俺は言ってリアナに警戒を促す。……レベルは、57。今の俺達では到底勝てないレベルのモンスターだ。
「レベル高いですね。逃げますか?」
「……いや、硬いモンスターでなければ銃弾で倒せるのだが」
俺は言ってモンスターを完全に視認する。……全長一メートルくらいで三つ首の人型モンスターだった。深緑色をしていて長い爪を持ち、ギョロリとした目が頭一つに一つずつある。耳はない。
「……【トリプル・ショット】」
俺は『鑑定』の結果名前がギギーガだと判明したそいつが動く前に三発の弾丸を放つ『銃術』アビリティを発動する。二挺でやったので計六発の弾丸が三つの頭に向かい、意外な程にあっさりと撃ち抜かれた。……だがHPが消し飛んだりはしない。一撃死しないタイプのモンスターらしい。貫通ダメージとアビリティなので加算される攻撃力を合わせても六発でほとんどHPが減らなかった。百分の一ぐらいはダメージを与えられただろうか?
「再生する前に叩きます! 【シェル・ナックル】!」
三つの頭を撃ち抜かれて怯んだギギーガに突っ込み、リアナは自分の右拳を砲弾に見立てて腹部を殴りギギーガを後方へ吹き飛ばす。
「……下がれ、リアナ。攻撃するのは怯んだ時だけで良い」
俺は言って追撃しようとするリアナを引き止める。……動く前にHPの一割を減らせたのは良かった。
俺は右手の銃をゴム弾用の銃に変え、『跳弾』の射線を見極める。……一発の攻撃力も高いので、数回跳ねさせれば一発で一割削ることも可能だろう。
「……リアナ。今からゴム弾を使う。動くなら俺が言った通りに動いてくれ、良いな?」
「はい」
リアナは頷いてくれた。
なので俺は遠慮なく洞窟内を上手く使ってリアナに当たらないように射線を調整し、ゴム弾を八発放った。
「ギギィ!」
俺の放ったゴム弾八発がギギーガに到達する前に、ギギーガは起き上がって苛立っているのか三つの額に青筋を浮かべると射線が見えなければ避けることなど不可能だろうゴム弾八発を、素早く振るった両腕で両手八本の爪に一発ずつ刺して取った。
「……っ」
俺は予想外の出来事に少し目を見開く。……弾速が足りなかったか? やはり自分で作った銃では速度がなくなってしまうのか?
「ギッ」
俺の頭には様々な疑問が浮かんできたのだが、そんなことはお構いなしにギギーガは両腕を振るって爪に刺したゴム弾を放ってくる。……チッ。俺の武器が相手に利用されるとはな。『跳弾』のスキルはないだろうがゴム弾自体には攻撃力がある。しかも『射線表示』で視てみると全てがリアナに当たってしまう。
「……そのままで良い。怯んだら攻撃してくれ」
俺はリアナに言い、左手の拳銃で『早撃ち』を使い八発銃弾を放つ。リアナに向かって跳んでくるゴム弾八発に、寸分の狂いもなく命中させた。『精密射撃』のおかげだ。
銃弾と言う「モノ」に当たったゴム弾は折り返すようにギギーガへと跳ね返っていく。
「ギッ!?」
ギギーガは空中でいきなり方向を変えたゴム弾に驚いていたため、ゴム弾八発は見事にギギーガの身体に直撃した。当初の予定より跳ねる回数が減ったのでダメージはHPの二割程度だ。あと七割もある。
「【シャーク・フック・コンボ】!」
だが前以って言っておいたためリアナがゴム弾に直撃し怯んだギギーガに突っ込み追撃を行う。
リアナが右フックをすれば頬白鮫のオーラがギギーガの身体を噛み千切り、続いて左フックをすれば同じように身体を噛み千切る。フックの一発毎に頬白鮫のオーラが対象を噛み千切るアビリティのようだ。
「――っと。十発いったので一旦引きます」
リアナは言って十発目のフックを真ん中の顔面に入れてからアビリティを中断し、後ろに大きく跳んで引く。……【シャーク・フック・コンボ】は獰猛な鮫が五回以上噛み千切るアビリティなので五発はやらないと中断出来ない。だが六発目以降は任意で発動出来るのだ。
「あれで倒れない普通のモンスター、初めて見ました」
リアナはまだHPが二割も残っているギギーガを見て苦笑した。……それはそうだろう。リアナの拳はボスでさえも一撃で怯むような威力を持っている。それを雑魚モンスターがアビリティありで十一発も受けておきながら、まだHPを残しているのだ。
「……俺も、ゴム弾を利用してくる相手には初めて会ったな」
俺は言って嘆息する。……それはつまり、このレベルの相手に今の銃では通用しないと言うことだ。それまでに改良を重ねなければならないな。
「あの速度を八発ほぼ同時に捉えるなんて、人間には無理ですよ」
嘆息する俺を見てかリアナが慰めてくる。
「……確かにな。だが俺達が戦っているのはモンスターだ。人間基準では負けるだろう」
俺は言って、油断なく起き上がったギギーガを見据える。……こいつ、倒れた時にこちらをじっと見ている。そのため警戒して手が出せない。撃ってこいよ、と言うような態度も癇に障る。
「そうですね」
リアナは頷いて構える。
「ギギッ!」
ギギーガは喚くと左右の壁を行き来するように跳躍していく。手足の爪を立てて天井を素早く移動すると、俺の方に飛び下りてきた。……俺狙いとは良い度胸だな。
俺はギギーガが着地すると前以って変えていた右手の拳銃で脚を、左手の拳銃で頭を撃つ。だがギギーガは両腕の爪で撃った弾丸十発を器用に弾くと俺に向かって跳躍し、長い爪を振るってきた。……くそっ、速いな。
「私を無視するとは良い度胸ですね。【ビートル・アッパー】!」
だがギギーガに無視されたリアナが後ろから迫り、甲虫のオーラを左手に纏うとギギーガをアッパーで天井に叩きつけた。と思ったらギギーガは天井に足を着けて体勢を整え、俺に向かって、ではなくアビリティ使用後のリアナに向かって突っ込んでいく。
「……させるか」
俺は呟いて駆け出すと、リアナに長い爪を突き立てようと迫るギギーガの背中に二挺の銃口を突きつける。銃身に光が溜められ、波動が放たれた。『ツインバースト』だ。
「……ギガァ」
ギギーガは波動で身体に風穴を空けられ呻いていた。HPも残りは一割となっている。
「トドメです! 【パラポネラ・ナックル】!」
最強の蟻に最強の蟻の攻撃力を重ねた最強の一撃が、ギギーガの倒れた身体に叩き込まれる。リアナの現最強アビリティの前に、ギギーガは倒れた。
「ふぅ……ね。何とか倒せましたね」
「……ああ、何とかな。一撃でも攻撃を受けたら死に戻りしていたところだ」
俺は戦闘が終わりリアナと一息つく。二人共軽装備のため一撃でも攻撃を受ければ倒れていたのはこちらだったのだ。リアナも安心して微笑んでいる。
「プギィ!」
するとそこに、新たなモンスターが奥から現れた。懐かしいその声の主は、ミニボアだ。チュートリアルフィールド限定で出現するようなミニボアが、こんなところに出てきていた。
「……9、9だと……?」
そして俺はミニボアの姿を見て唖然とする。……姿形は変わりないと言うのに、レベルが桁違いだった。
「ミニボアって、チュートリアルフィールドで出るような雑魚モンスターのハズじゃないんですか!?」
「……俺にも分からない。だがちょっと威嚇射撃で頭を狙ってみるから、ダメだったら全速力で逃げよう」
「はい」
驚くリアナに言い、『早撃ち』三発で両目と頭を狙ってみる。チュートリアルフィールドにいたミニボアでは絶対に避けられない攻撃。しかしレベル99のミニボアは華麗な左右のステップで三発の銃弾をいとも簡単に避けた。
「避けた!?」
「……逃げるぞ」
驚愕するリアナよりも内心では驚愕している俺は、真っ先に逃げ出す。
「待って下さいよ!」
「プギィ!」
遅れてリアナも駆け出し、ミニボアも後を追ってくる。ドドドド……! と言う音を洞窟内に響かせて、俺達よりも速く突進してくるミニボアを跳躍したり壁を蹴って上がったりしながら避けて逃げる。
「プギプギプギィ!!」
レア鉱石採掘場所まで来た俺達はそのまま出口へと一直線に走る。だがミニボアはまだ追ってくる。と言うか、壁走りならぬ洞窟走りで地面、壁、天井、壁、地面と言う風に螺旋状に駆けてくる。物凄い勢いなのでかなり危険だ。
俺は何とか銃弾を放って軌道を変えさせたり『見切り』でミニボアの走行軌道を読みリアナにも知らせてギリギリでやり過ごしていた。……ミニボアが撒き散らす石の礫でどんどんHPが削られていくので早く出ないと死ぬ。
「……っ!」
「で、出たぁ!」
「プギッ!?」
俺とリアナは洞窟を抜けてホッと安心する。ミニボアは洞窟で見えない壁にぶつかり不思議そうな顔をしていた。
「何とか、逃げ切り、ましたね……」
「……ああ。あまり深く入るのは止めようか」
俺とリアナはドサリと地面に倒れ込み、言い合う。……そう言えばギギーガの素材も手に入ったのか。後で確認しよう。
「お帰りなさい」
倒れ込む俺達を出迎えてくれたのは、一足早く洞窟を出ていた《ラグナスフィア》のメンバー数人だった。




