リョウとryo
昨日はすみません
ちゃんと割り込ませておきましたので……
結論から言おう。
ルインの加入が決まった。
一つは『料理』のスキルレベルが高く、ピザの美味さがメンバーに絶賛されたこと。
もう一つは今回のナンパは自分が仕組んだことだったが、実際にあの手のトラブルが絶えないと言うことで女性陣から票を集めたこと。
二つが主な原因となる。
ナンパ目的は兎も角、《銃士》なので戦力として数えられないことも多いと言う。
それにはレヴィが気の毒そうな顔をしていた。……俺はどちらかと言うとルイン加入反対派だったので、特に説得はされていない。多数決でも俺とティアーノは挙手せず、最後まで反対した。つまりそのまま押し切られる形になった訳だ。
だがクーアがピザを絶賛し入れると言って聞かないので、結果として加入は決定事項となった。
ピザを平らげた後、俺達十一人はルイン加入のためにクエスト集会所に向かい、正式な手続きを踏んだ。
クエスト集会所にあるギルド案内所にはギルドの平均レベルとメンバーやらが掲示されているのだが、レベルは三十を超えてから、六十を超えてから、九十を超えてからの三回、必要経験値が大幅に底上げされる。そのため平均が四十に達しているギルドはなかった。どのトップギルドもだ。……そう言えばユイも四十に達していない。純粋に戦闘だけをこなしていると言うのにその進行速度はおかしいだろう。
俺も三十五に到達してから全くレベルが上がっていない。やり込んでいるハズなのにな。生産に重点を置いている時が多いからだろうか。
「では改めて、自己紹介しますね。私はルインと言います。職業は《銃士》で種族は獣人族〈犬〉です。主な武器はスナイパーライフルですが、『暗器』を取得してるのでサブマシンガンや手榴弾も使います。その代わり移動制限が多くて機敏には動けませんが」
新たに《ラグナスフィア》に加入したルインはスカートの裾を摘み、上品にお辞儀をする。
「……ふむ。《銃士》が増えているのは運営としての良いことで俺も嬉しいのだが、何故近接の《銃士》が現れない?」
狙撃銃と機関銃と言う、移動制限のかかる重量級銃器を装備する《銃士》はいるが、一向に俺のような近接戦闘もこなす《銃士》は現れない。どう言うことだろうか。
「噂によると、《銃士》は一人から十人程まで増加したそうよ。その中で何人リョウみたいな《銃士》がいるかは知らないけど、リョウのPVを観た人の中にはリアナのように他の職業でのヒントを得た人も多くて、ほとんどがそっちに流れた感じね。特に『安定したいなら他の職業へ』の辺りが効いたのかしら」
運営側としてプレイしていたリリスが言う。……リリスが攻略法を知っているのは第一回イベントまでだと言う。つまりイベントが終わってからは純粋に元βテスターよりも少し知っていることが多いプレイヤーとしてUCOを楽しむそうだ。
「……それは諦めるか。《銃士》の繁栄はどうでも良いからな。それより次はどこに行く? 一応転移ゲートとギルドホームは繋いだから帰ることも出来るのだが」
「……崖を下りたところにある迷宮洞窟に入ってみたい」
俺が聞くとクノが俺を見上げながら言ってきた。……迷宮洞窟? 海底都市のように予め迷路の順路を見ることが出来なさそうだ。
「……迷宮洞窟?」
「……ダンジョンの一つ。でも道によっては有り得ないレベルのモンスターが出てくるから今はオススメしない。それに一つの道に人数制限があって二人までと決まってる。トラップも多数設置されてて危険」
俺が聞くとカタラが説明してくれて、しかし忠告してくる。……カタラは迷宮洞窟反対派か。
「……入ってみるだけなら問題ないだろう。それに、運が良ければ良い素材が手に入ると言うことだろう?」
「……」
俺が言うとカタラは少し躊躇する。
「……入ってみるだけなら問題ない」
俺は再度言い、メンバーを見渡す。反対する者はいないようだ。
「……それで、どうやって崖を下りる?」
俺が聞くと全員がガックリと肩を落とした。……何だよ。
「フックつきロープを使うかロッククライミングの要領で下りてくのよ」
ウィネが呆れたように言ってくる。……ロッククライミングか。一時期ハマっていたな。それならロープはいらないか。
「……そうか。では行こう」
俺は言ってさっさと崖の方に向かう。
街を出る直前にある道具屋でフックつきロープを数人が買い、街を出る。
街を出てから数メートルのところには地面がなく、すぐに崖となっていた。文字通り断崖絶壁。何メートルくらいあるのだろうか。
「……こわい」
俺が抱えていたクーアがふるふると身を震わせていた。……どうやら高いところは苦手なようだ。
「……高所恐怖症はいるか?」
そこでふと思い至り、メンバーに尋ねる。
「……」
するとガクガクブルブルと膝を笑わせながら、青褪めた顔で挙手するウィネがいた。
「……ウィネか。他にはいないな?」
俺は高所恐怖症のウィネを確認し、他に尋ねる。他全員は頷いたので大丈夫だろう。
「……では先に行ってくれ。ウィネは俺が何とかしよう」
「む、無理よ! こんな高いところから下りるなんて絶対に嫌!」
俺が言うとメンバーは崖ギリギリにフックを引っ掛けてロープを伝い下りていく。リアナはロープを使わずに下りていく。流石だ。セルフィは一応浮くのだが、説明によるとアクアリングは地面から数センチ浮くと言う効果のようで、崖から下りると一直線に落ちていく。さらに浮力はそこまで強くないのであまり高いところから飛び下りると地面に激突してしまうそうだ。だからセルフィは腕の力だけでロープを伝って下りていく。
ウィネはと言うと、地面に座り込んでしまった。
「……立ってくれ。それと、クーアを抱えてくれ」
崖を下りる時は風がキツい。クーアが飛ばされたら困る。俺が飛び下りなければならなくなる。
ウィネにクーアを抱えさせ、立たせてやる。
「ど、どうするの?」
ウィネは泣きそうな顔で俺を見る。……そんなに怖いのか。いつか克服させてやらなければならないな。
クーアもクーアでウィネにギュッと抱き着いて顔を上げない。
「……抱えて下りる」
「危険だから嫌よ!」
俺はとりあえず思いついている案を提示する。にべもなく断られてしまったが。……背負うのはクーアを抱えられない。かと言って抱いても下りるのに邪魔だ。
「……仕方がない。問答無用だ」
「えっ? きゃっ」
俺は仕方なく、良い方法が思いつかなかったので立ち上がったウィネの背中と膝に手を添えて、そのまま持ち上げる。つまりお姫様抱っこ、と言う格好になる。これでは両手が塞がってしまうが、問題ない。何故なら俺は蟲人族〈蠍〉だから。
「ちょ、ちょっと。まさかこのまま下りる気じゃ」
「……その通りだ。このまま下りる。暴れるな、しっかり掴まっていろ」
俺は慌てるウィネに言って崖まで歩いていき、直前で後ろを向いて尻尾を崖に突き刺す。そのまま後ろ向きに飛び下りた。
「きゃあ!」
ウィネが悲鳴を上げるが無視だ。俺は尻尾で二人とちょっとの体重を支え、二本の腕を出し岩を掴む。足も引っ掛ける部分があれば引っ掛ける。……ロッククライミング用なのか、随分とゴツゴツしていて登りやすそうな崖だ。角度は垂直なのでかなり高い頂上まで行くのは大変だろうが。
「な、何でこんな下り方なのよ! もっと安全な下り方があるでしょ!」
俺が下を確認しながら足と手と尻尾を岩に引っ掛けて下りていると、ウィネが涙目で反論してきた。
「……そうか。では次はここから落としてみようか」
「止めて下さいごめんなさい」
落として下で受け止めると言う方法も思いついたのだが、ウィネに猛反対されてしまったので止めるか。
「……では大人しくしていると良い。クーアも頼むぞ」
「……う。くーあ、たかいとこきらい」
「私もだから大丈夫よ」
俺が言うとクーアが顔を上げないまま言って、ウィネが青褪めた顔をしながらクーアを撫でていた。……自分の現状を考えないようにさせるのも気を逸らせて良いかもしれない。
「……もう半分だ。もう少しだからな」
俺はロープを伝ってゆっくりと下りていくメンバーを抜いて素早く下りていく。……怖いことは少しでも短い時間の方が良い。俺もワームは瞬殺すべきだと考えている。
「えっ? もう?」
ウィネは驚いたように言って上を見る。
「……当たり前だ。俺は一度ロッククライミングに凝ったことがあってな。その時極めた」
俺は言いながらも下りる手を止めない。下を見てルートを確認しそのルート通りに一瞬でシュミレートした手足の動きを再現していくだけだからな。ほぼ手元足元は見ていない。もし間違っていても尻尾が命綱として俺達を支えてくれるので問題ない。
「凄いわね。いつもログインしてるから重度のゲーマーだと思ってたんだけど、違ったのね」
「……いや、それで合っている。今はゲーマーだ。今はUCOに凝っているだけのことだ。俺は元々フィギュアを売って金を稼いでいたのだが、ウィネはryoと言う名のネット上の人物を知っているか?」
俺はウィネの気を逸らすために会話を続ける。
「ええ、知ってるわよ。私も買ってみたけど、結構クオリティの高いフィギュアを作ってる人よね」
ウィネはどうやらryoを知っているようだ。それなら話が早い。
「……フィギュアだけではないが。今はフィギュアも作っていない。折り紙やプラモデルだった時もあったか。キーホルダーに凝ったこともあったな。まあ、そう言うことだ。ゲーマーだった訳ではないが健全な若者でもないと言うことだな」
俺はそう言って締め括る。
「えっ……? 何でryoの話からリョウの話に繋がってるの?」
ウィネは何故かキョトンとした顔をしていた。
「……何でと言われてもな。名前が一緒だろう? それで分かるようなことではないか?」
「いや、でも、『りょう』なんて名前の人いっぱいいるし」
「……では今度現実のウィネの住所に作成したオリジナルフィギュアを送ってやろうか?」
「…………それはその、別に良いんだけど。ゲームで知り合った人に、気軽に住所とか本名教えちゃいけないって言われてるでしょ? それにリョウが現実でも本当にそんな顔なのか分からないし」
「……それは俺が老けていると言いたいのか? これでも立派な高校二年生だぞ」
「えっ? 年下なの?」
「……年上だと思われていたのか。俺はウィネを短大生と読んでいたのだが」
「合ってる。まさか現実での私を知ってるの?」
「……まさか。ウィネのような人が街を歩いていれば忘れないだろう」
「そう。それで、どこの高校なの?」
「……それを教えるのはウィネの言うプライベートの侵害になるのだが。日本の屋根と称される田舎県の高校だ」
「……長野?」
「……ああ。ユイ、セルフィ、レヴィ、リアナも同じ高校のようだ。ユイは知っているが他は本当かどうか知らない」
「メンバーで顔合わせしたら絶対長野集合よね」
「……市街地に行かないと何もないようなところだがな」
本来夏休みは七月の下旬から八月下旬までで一ヶ月もないことが多いのだが、ウチの高校は特別で七月の頭から休みにしてくれる。二ヶ月間だ。だがその代わり春休みは学校に駆り出され、年末年始は一週間も休みがないと言う始末。
「まあ私も近くだから問題ないけど。同じ県だしね。……後でメール送るから、ちゃんとまだ未発表のオリジナルフィギュア、作ってね」
ウィネはどうやら住所を送ってくれるらしい。送ってくれたら削除しておこう。万が一と言うこともある。悪用する気はないが悪用される可能性も多くなるので危険だ。用心に越したことはない。
「……ああ。それよりこの世界で『フィギュア作成』のスキルを開発したのだが、何か良い素材はないだろうか?」
「こっちでもやるの? それならもう一つの新しい街の方に粘土の洞窟って言う粘土しか取れないよく分からない洞窟があるから行ってみれば良いんじゃない? モンスターも出ないし。ただ掘り続けて粘土を採集するための洞窟だから」
ウィネがとんでもない情報をくれた。これは有り難い。
「……そうかそうか。粘土を採集出来る洞窟があるのか」
俺は今から粘土採集が楽しみになってきて、五本目の腕を出しウィネの頭を撫でる。
「な、何よ」
「……いや、良い情報がくれたのでな。これで俺の今まで討伐したモンスターのフィギュアを作成出来るぞ」
俺は笑みを浮かべることはなかったが、内心では満面の笑みを浮かべていた。……これで俺のフィギュア作りにも拍車がかかる。有り難い話だ。
そうこうしている内に崖を下りることが出来た。
「……では、のんびりと残りのメンバーを待つとするか」
俺は行って二人を下ろす。……モンスターはいないようだ。崖下りで疲れているところにモンスターとの戦闘は流石に運営も躊躇ったのだろう。
顔色が戻ったウィネと、クーアを可愛がりながら雑談してメンバーを待っていた。
※長野に二ヶ月も夏休みはありません
一ヶ月さえありません
田舎者の作者には都会で暮らす人が書けません
もっと言えば自分の作品の主人公はほぼ左利きです
何故なら右で箸持つとか作者が理解出来ないからです




