殺戮のメイド銃士
銃士の読み方はガンナーでお願いします
「……」
俺が再びログインした時、メンバーは誰もいなかった。……もしかしたら幼虫嫌いの俺に戦闘を全て任せたことを後ろめたく思っていて、顔を合わせづらいのかもしれないが。
「……行くか」
俺はすでにボスを倒しているのでボスと遭遇することなく洞窟を適当に突き進んでいく。……岩系のモンスターに対しての不安が少し残る。対処法は色々思いついているが、銃弾が貫通しないから全くダメージを受けない訳で、《銃士》ソロとなった今の俺では厳しいかもしれない。
銃に小さな刃を装着してそれで敵を攻撃する『銃剣術』は、俺がネプチューンと戦った時に剣のような『銃殴術』の使い方をしたから手に入れたスキルだが、銃につけた剣で攻撃する近接攻撃スキルのため、ハンドガンを手に入れ弾丸を手に入れた俺にとってあまり使えるスキルではない。それに、前提として装着する剣がない。
それに、斬撃ダメージもかなり軽減される。打撃の内素手もダメ。となると本当に『変幻弾丸』しか打つ手がなくなる。しかも【ハンマー・ブレット】ぐらいしか使えない。【アックス・ブレット】も使えないことはないが、【ハンマー・ブレット】が一番効果的だろう。
最初は『零距離射程』と『ツインバースト』が効くかどうかを試すしかないが。
「……」
俺はアナバット五体を二挺の拳銃で乱れ撃ちし倒す。……メンバーはもう洞窟を抜けただろうか。クーアが怯えていなければ良いのだが。
そう言えば半分からこちら側はアイテム採集ポイントになっていると言っていたな。採掘ポイントは裂け目のある岩や壁なので分かりやすい。
「……」
今までは草木が一本もないただの洞窟だったが、植物や小さな虫がいることが多くなった。湧き水が出ている場所もあったりと、完全に採集用洞窟となっている。
「……」
俺はそこで最初の採掘ポイントを見つけ、採掘キットを取り出す。ピッケルだ。キンカンキン、と繰り返しピッケルを振り下ろして一発毎に転がり出てくる素材アイテムを採り尽くす。一つの採掘ポイントで採れる素材は無限だが次第に良い素材の確率が減っていき、石ころの確率が多くなっていくらしい。大体十から二十回が目安となっているそうだ。……βテスターには千回程繰り返した勇者がいたそうだが、石ころ八割だったそうだ。それなのに超レアアイテムが一つ手に入ったのみ。労力と成果が割りに合わないそうだ。百回ぐらい繰り返すと手が痺れてきてやる気が失せるそうなので、俺は一つにつき百回程で次の採掘ポイントに向かう。それを繰り返して石ころを大量にゲットした。
……いらないのだが、まあ仕方ない。その分素材も大量にゲットしたのだ。多少の石ころには目を瞑るべきだろう。石ころはあまり素材にならない上に売っても一円にしかならない。つまり千個掘り当てれば千円の稼ぎになると言うことだな。現実と違ってただの石ころでも金になるところが素晴らしい。
途中昼食の時間を挟んで夕食までには洞窟を出て新たなフィールドに出る。……どうやら森のフィールドのようだ。洞窟を出るとすぐに森が広がっていて、澄んだ空気が身体中に満ちていくのを感じた。
……今まで洞窟と言う狭い空間の中にいたからな。清々しい心持ちだ。何と言う解放感だろうか。
森は素材アイテムの宝庫である。と言う訳で夕食と入浴を挟んで早朝、ようやく俺は新たな街に到着した。……素材採集に夢中になるのは良いが、土の採集や木材の調達などは際限がないので次からは時間を見てやることにしよう。
ジャイアントスパイダーの棲家と言う嫌な予感しかしないこのフィールドを進んでいくと新たな街が見えた。俺が来た二番目の街と言うことになる。……とは言えイベント中に来ているのだが。
新しい街はフェザンの街と言い、崖のすぐ横に位置している。ジャイアントスパイダーの棲家から進むとフェザンの街の三方を囲む穏やかな草原があり、残る一方が断崖絶壁となっている。
フェザンの街に向かうにつれて段々と坂道になっており、断崖絶壁はかなりの高さだと思われる。
出現するモンスターもなかなか強い。レベル20から30のモンスターが次々と出てくる上に、中ボスのような一際目立つモンスターも出てくる。だが今の俺ならソロでやる分にも問題なく突破出来た。
……俺のレベルが高いせいか、あまり経験値としては美味くない。素材としては美味いのだが。次々と今までにない素材が手に入る。それもあって街に到着したのは早朝になってしまったのだが。
「……やっと来た」
一番近い入り口から街に入るとクノと数人がいた。俺を待っていてくれたようだ。
「……待たなくても良かったのだが。他のメンバーはどうした?」
俺は言いつつ尋ねた。
「他のメンバーなら街を見て回ってるわよ。私達はクーアちゃんがリョウと一緒に回りたいからって言うから待ってたの。ね?」
ウィネが言って抱えているクーアに聞く。
「……ん。くーあ、りょうといっしょがいい」
クーアがこくんと頷くとウィネはクーアを下ろした。クーアは俺の方にててて、と駆け寄ってきて脚に抱き着いてくる。
「……そうか」
俺は頷いてからクーアを抱える。
「……やっぱりりょうがいちばん」
するとクーアは俺の胸元に顔を埋めてくる。少し嬉しそうなので良かった。クーアに引かれて避けられたら、どうしようかと思っていたところだ。
「……ではクーアが行きたいところへ行こうか。どこが良い?」
「……くーあ、りょうといっしょならどこでもいい」
「……そうか」
「何そのラブラブカップルみたいな会話」
俺がクーアに行きたいところを聞いていると、ウィネが呆れたような視線を俺に向けてきた。……何を言っているのだ、ウィネは。
「……くーあとりょうは、らぶらぶ」
「……よしよし」
クーアが妙なことを言い出したので頭を撫でて誤魔化しておく。クーアはまだ子供なので「好き」の使い分けが出来ないだろう。そう言うことを明確にする必要は、ない。それにクーアにはまだ分けられないだろう。なのでこれで良い。誤魔化すのが正解だ。
「……で、どこへ行く?」
俺は俺を待っていてくれたクノ、ウィネ、レヴィ、リアナに尋ねる。
「私達も一応、イベント中に見て回ったから特に目ぼしい場所はないんだけど」
ウィネが言う。……確かに、俺も一通り見て回ったから今更どこに行きたいなどは思わない。
「……一応、街中を見てみるか」
俺は言い、四人が頷いたので街を見て回ることにした。道中残る四人と鉢合わせしたので結局ギルド全員で街を見て回り、メンバーが「美」のつく者ばかりだからだろう、大いに注目を集めてしまった。
その結果すれ違い様に俺が何度悪態をつかれたか分かったモノではない。途中から数えるのを止めてしまった。その度にリリス含む数人がキレて襲いかかり決闘を挑もうとするので、止めるのが大変だった。レベルとしてはトップではないので、あまり無闇やたらと決闘を挑んでもらうのは遠慮して欲しい。
「……レベルはイベントで戦い続けたプレイヤーの方が上だ。俺達が決闘を挑んでも負けるだけだろう」
俺はそう言って言い聞かせるのだが、メンバーは聞く耳を持たない。それどころか、
「あら? レベル5以上差があっても一対六の戦いで勝ったのは誰だったかしら?」
などと言い返してくる始末だった。……おそらく第一回イベントの説明を行い職業代表のプレイヤーを発表した時の決闘を言っているのだろうが、あの時は相手が俺を嘗めていたから出来たことで、正面から戦っていたら勝てるかどうか分からない。
「……とりあえず転移ゲートをギルドに繋いでおくか」
新しい素材も手に入れたのでギルドホームに戻って生産に勤しむのも悪くないと思う。街の中心に設置してある転移ゲートから設定すればギルドに直接ゲートを繋ぐことが出来る。転移先はギルドコアのある場所なので人数を考えた方が良いギルドもあるが、それを考慮して広い場所にコアを設置しているギルドホームもある。
「……それが良いと思う」
カタラが賛同の声を上げ他のメンバーも頷いてくれたので俺はフェザンの街にある転移ゲートに向かう。
「……りょう、くーあおなかへった」
俺に抱えられているクーアが俺の服を引っ張って訴えてきた。
「……そうか。どこかで食事をしようか」
俺はクーアの頭を撫でて言う。
「……くーあ、ぴざたべたい」
クーアが期待の込められた眼差しで俺を見てくる。……ピザか。この街にあったか?
「そう言えば、フェザンには露店がありましたよね。あそこならピザもあるかもしれませんよ」
セルフィが両手を合わせて言う。……俺達はクーアの期待に満ちた眼差しに負けてセルフィの言う露店へ足を運んだ。
「いらっしゃいませ。ご注文は何かありますか?」
おそらく『料理』のスキルを持っているのだろう、メイド服を着た女性プレイヤーが露店を開いていて立っていた。……誰かと思えば狙撃のソロ賞を貰ったプレイヤーだ。有名になっただろうに、まだギルドに所属していないのだろうか。《銃士》だからか? いや、例え《銃士》であってもこの容姿だ。誘われていない訳がないだろう。なら断ってきたか、一人で露店をやっていてもギルドには所属しているかのどちらかだろう。どちらにしろ俺には関係のないことだ。
「……ピザを十人前頼めるか?」
「はい、少々お待ち下さい」
メイド――確かルインと言ったか――は微笑んで屈み、何やらゴソゴソと調理し始める。時間がかかりそうなので俺達は露店近くのベンチに座って待機する。俺は丁度良いので転移ゲートに向かう。
「……?」
転移ゲートをギルドホームと繋いでから露店に戻ってくると、露店の前に屈強な男数人が詰め寄っていた。……あの容姿だからな。ナンパされてもおかしくはない――が何故屈強な男ばかりなのか。
「……何だ、あれは?」
俺は呆れたようにそれを眺めているメンバーに尋ねた。
「……どうもこうもないわ。見なさい」
「……?」
苛立ったようなティアーノに言われ、俺は露店の方を見やる。……ああ、そう言うことか。
俺は露店の方を見て納得する。
「や、止めて下さい」
ルインの態度が、わざとらしい。絡んでいるプレイヤーがどいつもレベルが高そうな装備をしている。
つまり、全てルインが仕組んだ可能性が高い。その証拠に俺が戻ってきてもルインの方へ向かわないと見ると「はぁ」と溜め息をついていた。
「あんまりしつこいと、武力行使と言う形を取らせてもらいますが」
遂には自分で解決しようと言うらしい。お手並み拝見といこうか。
「武力行使だぁ? 嘗めてんじゃねえぞ!」
屈強な男達は各々に武器を構えてルインに攻撃を仕掛ける――前にルインがメイド服のスカートの中から、入るハズのないサブマシンガンを二挺取り出した。……何てヤツだ。狙撃銃を装備するだけの筋力があるから出来る芸当だろうが、サブマシンガンを二つ同時に操るなんて真似、普通では出来ないぞ。
「は?」
「さようなら」
ルインはにっこり微笑むと、サブマシンガンを乱射して屈強な男数人を蜂の巣にする。……その時ルインがニヤリとした笑みを浮かべていた。バカな男共を銃で乱射して抹殺するのが楽しくて仕方ないと言う表情だ。
「……今の、見たか?」
俺は呆然とするメンバーに尋ねる。
「今の、サブマシンガンですね。《銃士》なんでしょうか」
レヴィが俺の尋ねた意味を取り違えたのかそう言った。
「……そうではない。あいつ、男達を撃っている時笑っていたぞ」
「えっ?」
「……Sだな。メイド服はカモフラージュか」
「……注目しているところが違いすぎて分からないわ」
するとティアーノを代表として全員に呆れたような視線を向けられてしまった。
「……とりあえずピザが出来たか聞いてみるか」
「「「……」」」
俺はメンバーの責めるような視線に耐えながら露店に向かう。
「……ピザは出来たか?」
「あっ、はい。……でも何で助けてくれなかったんですか?」
ルインは俺の問いに頷き、しかし頬を膨らませて不満そうな顔をする。
「……ベストソロ賞に選ばれるようなプレイヤーが、あの程度の相手に負けるハズがないだろう」
「あら。知っていただけてるとは光栄ですね、“黒蠍の銃士”様?」
俺が言うとルインはチロリと舌を出して言った。……やはり俺のことを知っているか。
「……りょう、だれ?」
クーアがキョトンとした顔で聞いてきた。
「……知らないヤツだ。それよりピザ十人前でいくらだ?」
「……10000円になりますが、私を《ラグナスフィア》に入れて下さればタダにしますよ」
クーアへの答えに不満だったのかムッとしたような顔をするが、微笑んで答えた。……こいつの狙いは何だ? 何が狙いで《ラグナスフィア》に入ろうとしている。
「……クーア、どうだ?」
俺は念のためクーアチェックをする。
「……むー。くーあのごはんたんとーのひと?」
クーアはルインをじっと見つめて唸り、俺に聞いてくる。……どうやらクーアの判断基準では良いらしい。
「……だそうだが、どうだ?」
俺は遅れて近付いてきたメンバーに尋ねる。
「……あと一人で人数制限の十人に達する。生産スキルが『料理』だけじゃ加入は認められない」
「それなら問題ありませんよ。生産スキルは『料理』、『錬金』、『調合』、『銃部品作成』、『筒作成』、『スコープ作成』、『二脚作成』と数種取っています」
「……ほとんどが狙撃銃用だな。サブマシンガンは市販のモノか」
「はい。元々は狙撃銃だけのつもりだったのですが、ユイさんと言うプレイヤーから何か近くでも使える銃も装備出来た方が良いと言われたので」
ルインと質疑応答をしていたら、思わぬところでユイの名前が出てきた。
……確かに気が合いそうではある。同じ腹黒い者同士仲良く出来そうだ。だが黒い部分を表に出さない分、ユイの方が上手のようだ。
「……それでこの街でサブマシンガンを購入して『暗器』でスカートに仕込んでいる訳か」
「はい。何なら見ますか、私のスカートの中。『投擲』スキルも習得してるので色々『暗器』を仕込んでるんですけど」
俺が言うとルインは自分のスカートを摘んで少し上げる。……そう言えばルインはストッキングを穿いている。
「……いや。スカートの中は見えるモノではなく見えないモノだ」
俺はよく分からない答えを返してルインを止める。……ほら、何だ。チラリズムと言うヤツだな。
「では踏んであげるので平伏してくれますか?」
「……断る。やはりこいつを入れるのは止めようか。Sを表に出してきたぞ」
俺はにっこりと微笑むルインを拒絶してメンバーにやはり断ろうかと持ちかける。
「そ、そんなこと言わないで下さい、ご主人様!」
「……ご主人様?」
「……そんな呼び方をしたところで主人になりたいのはお前の方だろうに」
ルインが俺の服を掴んで言うとティアーノが何故か激怒したようにルインを睨んでいたが、俺は呆れて告げる。するとルインはバレたか、と言う風に微笑んだ。
「まあ確かにそれはあります。けどメイドもメイドで悪くないかな、と今は思えてるので」
ルインは正直に言う。……本心からの言葉かどうかは分からないが。
「……とりあえず、ピザでも食べながら話すか」
これは俺だけで判断するのが難しいと思い、俺はそう提案した。




