十九.
眉を寄せた八島はまた口を開いたが、それよりも早くスワロフが言葉を発した。
「三笠が行くというのならワタシも行きましょう。文句は受け付けないわ」
「スワロフ……お前、助けてくれるのか」
「勘違いしないで。キサマがワタシ以外の誰かに殺されたら困るのよ」
「……ふふ」
スワロフは視線をそらす。その顔は今にも湯気が立ちそうなほどに真っ赤に染まっていた。
三笠は苦笑し、すぐに表情を引き締めた。
「では役割を分けよう。初瀬姉さんと八島、そして敷島姉さんは雑魚の処理を」
「お、おれもかよ!」
仰天した様子で敷島がのけぞる。
すると朝日がうなずいた。
「妥当じゃない? だってあんた、防衛戦得意でしょ」
「へ?」
ぽかんと口を開く敷島に対し、三笠はうなずいた。
「そうだ。【大襲来】の時も本土で拠点を防衛していただろう? それに私が不在の時は、代理で六六部隊の指揮をとっていた」
「いや、その……」
しどろもどろになる敷島に、朝日がさらにたたみかける。
「それにこの騒ぎじゃ他の前弩級も動いてるだろうし。あんた交友関係広いし、連中ともスムーズに合流できるでしょ」
「お、おう……って勝手に決めんなよ! おれにそこまで出来るか!」
敷島はぶんぶんと両手を振る。
すると朝日は唇をへの字にして、じとっと敷島を見つめた。
「……たまには頼れ、って言ったじゃない」
「あ、あぁ?」
「だから今、あたしも三笠もあんたを頼ってるの。今こそあんたの力が必要だと思うし。それなりに頼りにはしてるのよ? その……姉さんの事」
その言葉に、敷島は一瞬目を見開いた。
だがすぐににんまりと笑い、照れくさそうな様子で何度もうなずいた.
「お、おう……そう、そうだよ。存分にお姉ちゃんを頼れ」
「はいはい――三笠、話戻して」
「あぁ。今言ったとおり初瀬、八島、敷島は雑魚の始末。皇国電波塔には、私と、スワロフが向かう――朝日姉さんはどうする?」
三笠がたずねると、朝日は親指の爪を噛みながら考えだした。
「……そうね。あたしは、あんた達と一緒に行動するわ」
「ふむ……貴殿、武器もないのに戦えるのか」
その言葉に、八島がいぶかしげに朝日を見る。
朝日は手をひらひらと振ってみせた。
「ハッ、当然……と言いたいけど、霊軍研究所きっての武闘派を自称するあたしでもさすがに武器なしはややキツい。なので後方支援を担当するわ」
「わかった。では、他に意見はあるか?」
三笠はぐるりと周囲を見回す。
敷島、朝日、初瀬、八島――彼女たちの顔を見ていると、ふっと既視感を感じた。かつて六六部隊の隊長を務めていた時も、同じ光景を見た。
だが、今は昔とは違う。
最後に三笠がスワロフを見ると、彼女は悠々とした様子でわずかに顎を反らす。
三笠はうなずくと、刀の柄に手をかけた。
「よろしい――では、行こう」




