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天気晴朗ナレドモ水ノ月  作者: 伏見 七尾
五.振りさけみれば
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十七.

 三笠は唇を噛み、空を睨んだ。雲の向こうには、あの彗星の如き巨獣がいるはずだ。

「……河内は、アマツキツネを墜とすつもりなのか?」

「可能性は高いわ」

「……墜とせるのか。あんな、巨大なモノを」

「多分、できるわ」

 朝日にかわって初瀬が答えた。

「万魔の剣はこの世界の呪術が一番強かった時代のもの。その力を発揮すれば、恐らくアマツキツネを引き寄せる事は可能でしょう」

「……墜ちたら、どうなるの?」

 引きつった表情でスワロフがたずねた。

 朝日は肩をすくめる。

「関東は消えるでしょうね」

「どうするのよ! このままだと全員死んでしまうわ!」

「うっさいわね! だからこれからどうすんのかって話をしてるんじゃないの!」

 スワロフに喚き返しつつ、朝日はポケットから真っ赤なラジオベルを取り出した。

「すでに霊軍はひそかに動いているけれど……正直、手は足りないと思うわ。あれだけのモノが墜ちてくるかもしれないんですもの」

 初瀬はゆったりと髪を弄りつつ、空を見上げる。

「アマツキツネの墜落をどうにか回避する方法はないのか?」

 三笠はたずねたが、すでにその答えは薄々わかっていた。

 初瀬と朝日が、同時に三笠の方を見る。

「……万魔の剣の破壊、かしらねぇ」

 のんびりとした初瀬の言葉に、ラジオベルを操作しつつ朝日も口を開いた。

「そうね……アマツキツネを引き寄せているのは、あの剣なんですもの。剣を破壊すれば、あのバケモノを引き寄せている霊気の流れは止まる」

「なら河内をぶん殴りゃ良いって事だな!」

 敷島がぽんっと手を叩いた。

 八島もうっすらと笑い、野太刀を肩に担いできびすを返す。

「フン、単純な話ではないか。とっとと行くぞ――一度弩級を斬ってみたかったんだ」

「待ちなさい、ばか」

「ぬぉ!?」

 コートの布地を初瀬につかまれ、八島がややのけぞった。

 その様子を脇目に、三笠は朝日に向き直る。

「……単純な話じゃないんだな?」

「そーよ。万魔の剣をとっとと壊さなきゃいけない。あまり長いこと放置しておくと、アマツキツネがこの星の重力圏に入っちゃう」

「そうすれば【彼】はこの星に惹き寄せられて……地上と熱烈なキスをするでしょうね」

 淡々とした初瀬の言葉に、その場の空気が一気にはりつめた。

 血相を変え、敷島が朝日に詰め寄る。

「時間はあとどれだけあるんだよ!」

「ギリギリ一時間くらいはあると思いたいわ。奴は今晩七時から零時にかけてゆっくりとこの星を通り過ぎる。それまでに河内を見つけないと――」

「……だが、防げるのか?」

 三笠の言葉に、辺りは一気に静まりかえった。敷島、朝日、初瀬、八島……神州皇国のマキナ達は、皆微妙な表情で三笠を見る。

 三笠は腕を組み、苦い顔で渦巻く雲を見上げた。

「あんな巨大なモノを迎え撃つことが……人にできるのか?」

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