十七.
三笠は唇を噛み、空を睨んだ。雲の向こうには、あの彗星の如き巨獣がいるはずだ。
「……河内は、アマツキツネを墜とすつもりなのか?」
「可能性は高いわ」
「……墜とせるのか。あんな、巨大なモノを」
「多分、できるわ」
朝日にかわって初瀬が答えた。
「万魔の剣はこの世界の呪術が一番強かった時代のもの。その力を発揮すれば、恐らくアマツキツネを引き寄せる事は可能でしょう」
「……墜ちたら、どうなるの?」
引きつった表情でスワロフがたずねた。
朝日は肩をすくめる。
「関東は消えるでしょうね」
「どうするのよ! このままだと全員死んでしまうわ!」
「うっさいわね! だからこれからどうすんのかって話をしてるんじゃないの!」
スワロフに喚き返しつつ、朝日はポケットから真っ赤なラジオベルを取り出した。
「すでに霊軍はひそかに動いているけれど……正直、手は足りないと思うわ。あれだけのモノが墜ちてくるかもしれないんですもの」
初瀬はゆったりと髪を弄りつつ、空を見上げる。
「アマツキツネの墜落をどうにか回避する方法はないのか?」
三笠はたずねたが、すでにその答えは薄々わかっていた。
初瀬と朝日が、同時に三笠の方を見る。
「……万魔の剣の破壊、かしらねぇ」
のんびりとした初瀬の言葉に、ラジオベルを操作しつつ朝日も口を開いた。
「そうね……アマツキツネを引き寄せているのは、あの剣なんですもの。剣を破壊すれば、あのバケモノを引き寄せている霊気の流れは止まる」
「なら河内をぶん殴りゃ良いって事だな!」
敷島がぽんっと手を叩いた。
八島もうっすらと笑い、野太刀を肩に担いできびすを返す。
「フン、単純な話ではないか。とっとと行くぞ――一度弩級を斬ってみたかったんだ」
「待ちなさい、ばか」
「ぬぉ!?」
コートの布地を初瀬につかまれ、八島がややのけぞった。
その様子を脇目に、三笠は朝日に向き直る。
「……単純な話じゃないんだな?」
「そーよ。万魔の剣をとっとと壊さなきゃいけない。あまり長いこと放置しておくと、アマツキツネがこの星の重力圏に入っちゃう」
「そうすれば【彼】はこの星に惹き寄せられて……地上と熱烈なキスをするでしょうね」
淡々とした初瀬の言葉に、その場の空気が一気にはりつめた。
血相を変え、敷島が朝日に詰め寄る。
「時間はあとどれだけあるんだよ!」
「ギリギリ一時間くらいはあると思いたいわ。奴は今晩七時から零時にかけてゆっくりとこの星を通り過ぎる。それまでに河内を見つけないと――」
「……だが、防げるのか?」
三笠の言葉に、辺りは一気に静まりかえった。敷島、朝日、初瀬、八島……神州皇国のマキナ達は、皆微妙な表情で三笠を見る。
三笠は腕を組み、苦い顔で渦巻く雲を見上げた。
「あんな巨大なモノを迎え撃つことが……人にできるのか?」




