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天気晴朗ナレドモ水ノ月  作者: 伏見 七尾
五.振りさけみれば
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十五.

「――ッハアァ! シャバの空気は良いわぁ!」

 劇場の扉を蹴り開け、朝日は大きく息を吸い込んだ。

 そんな彼女に呆れた視線を送りつつスワロフが外に出て、空を見上げた。

「……厄介なことになっているようね」

「あぁ……」

 後に続いて玄関ホールからでた三笠も、鋭い目で頭上を睨む。

 嵐の前触れか、雲が激しく空を流れていく。時々稲妻が走る曇天を背景に、青いオーロラがゆっくりと波打つようにうごめいていた。

「ひどい状態でしょう?」

 振り返ると、初瀬が左目を手で覆いながら空を見上げていた。

 大きく伸びをしていた朝日が、ぎろりと彼女を睨む。

「あんたね、三笠達をけしかけたの」

「そうね。姉様が少し苦労しているようだったから」

「ハッ、余計なことを。――それにしてもよくあたしの居場所がわかったわね」

「ふふふ、わたしと三笠は運命の赤い糸で繋がれているのよ」

 初瀬は自分の左手を掲げてみせる。その薬指には、彼女が三笠に与えたものと同じ銀の指輪が煌めいていた。

「この指輪で、私の位置がわかったのか」

「そうよ、親と子で一対のペアリングでね。子供のリングに近づくと、親のリングが脈打ってそれを知らせるの」

「……初瀬姉さん、こうなる事がわかっていたんだな?」

 三笠がやや呆れつつもたずねると、初瀬は幽雅に微笑んでみせた。

「……ぐだぐだしている暇はないぞ」

 低い声に振り返ると、劇場の壁に八島がもたれかかっていた

 八島は唇を歪め、その三白眼を空に向ける。

「見ての通り、周囲の霊気の動きが狂っている。――貴殿なら感じるだろう?」

「……あぁ、たしかに」

 糸の結界の中でも感じた、空気が帯電しているような感覚。だがそれとは別に、肩にずしりとした重圧を感じる。

「――おぉい!」

 突如響いた大声に、三笠ははっと空から視線を下ろした。

「敷島姉さん……」

 通りの向こう側に、必死の形相で走っている敷島の姿が見えた。間もなく彼女は初瀬の側にふらつきながらも駆け寄り、荒い息を吐きながら抗議の声を上げる。

「お、置いていくんじゃねぇよ!」

「お疲れさま、敷島姉」

 初瀬はおざなりなねぎらいの言葉をかけた。


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