十五.
「――ッハアァ! シャバの空気は良いわぁ!」
劇場の扉を蹴り開け、朝日は大きく息を吸い込んだ。
そんな彼女に呆れた視線を送りつつスワロフが外に出て、空を見上げた。
「……厄介なことになっているようね」
「あぁ……」
後に続いて玄関ホールからでた三笠も、鋭い目で頭上を睨む。
嵐の前触れか、雲が激しく空を流れていく。時々稲妻が走る曇天を背景に、青いオーロラがゆっくりと波打つようにうごめいていた。
「ひどい状態でしょう?」
振り返ると、初瀬が左目を手で覆いながら空を見上げていた。
大きく伸びをしていた朝日が、ぎろりと彼女を睨む。
「あんたね、三笠達をけしかけたの」
「そうね。姉様が少し苦労しているようだったから」
「ハッ、余計なことを。――それにしてもよくあたしの居場所がわかったわね」
「ふふふ、わたしと三笠は運命の赤い糸で繋がれているのよ」
初瀬は自分の左手を掲げてみせる。その薬指には、彼女が三笠に与えたものと同じ銀の指輪が煌めいていた。
「この指輪で、私の位置がわかったのか」
「そうよ、親と子で一対のペアリングでね。子供のリングに近づくと、親のリングが脈打ってそれを知らせるの」
「……初瀬姉さん、こうなる事がわかっていたんだな?」
三笠がやや呆れつつもたずねると、初瀬は幽雅に微笑んでみせた。
「……ぐだぐだしている暇はないぞ」
低い声に振り返ると、劇場の壁に八島がもたれかかっていた
八島は唇を歪め、その三白眼を空に向ける。
「見ての通り、周囲の霊気の動きが狂っている。――貴殿なら感じるだろう?」
「……あぁ、たしかに」
糸の結界の中でも感じた、空気が帯電しているような感覚。だがそれとは別に、肩にずしりとした重圧を感じる。
「――おぉい!」
突如響いた大声に、三笠ははっと空から視線を下ろした。
「敷島姉さん……」
通りの向こう側に、必死の形相で走っている敷島の姿が見えた。間もなく彼女は初瀬の側にふらつきながらも駆け寄り、荒い息を吐きながら抗議の声を上げる。
「お、置いていくんじゃねぇよ!」
「お疲れさま、敷島姉」
初瀬はおざなりなねぎらいの言葉をかけた。




