十四.
やがて光がゆっくりと消えたとき、舌打ちが響いた。
「ハッ……イカレてる」
ゴーグルを左目に装着した朝日が引きつった笑みを浮かべる。
その視線の先には、無傷の天井があった。
「なっ……三人同時の攻撃も駄目!? ふざけているわ!」
「落ち着けスワロフ。姉さん、どうする?」
三笠は静かな声でたずねた。
朝日は髪をくしゃくしゃといじりつつ、思索にふけっている様子だった。
「そうねぇ……というか侮った。弩級の力ってここまでのモノなのね……一回健康診断と偽って中身見てみれば良かった。そうすりゃ……」
「そんなことをいっている場合じゃない。もう一度同時に攻撃してみるか?」
「正直それは望み薄ね。結界に傷一つ入っていないし」
「どうするの! このままじゃ、ずっとここから出られないわ!」
スワロフがキッと朝日を睨む。
朝日は顔をしかめ、鬱陶しそうに手を振った。
「うるっさいわね。あたしだって色々考え――て――?」
ぴたりと朝日は動きを止め、頭上に視線を向けた。
突然どうしたのだろう。じっと天井を見上げている彼女に、三笠は慎重に声をかける。
「姉さん? どうし――ッ!」
その時、三笠も異変に気づいた。頭上から、こつこつと小さな音が響いていた。
「……なんだ、河内か?」
「違うわ、あいつが戻ってくるはずが――」
朝日の言葉をかき消し、ガツンッ! と大きな音が響いた。同時にコンクリートの天井を、鋭い太刀の切っ先が突き破った。
息を呑む三人の前で、切っ先は再びゆっくりと天井の向こうに消えていった。
直後、轟音とともに天井の一部が崩れ、丸太のように巨大ななにかが床に叩きつけられた。
「これは……!」
天井を破壊したものを見て、三笠は目を見開く。
それは黒い毛並みに覆われ、大鎌にも似た鉤爪を備えた獣の腕だった。
「よ、妖魔!」
天井に飽いた大穴を見上げ、スワロフがサーベルを抜き放つ。
小山ほどもあろうかという大きさの犬が三笠達を見下ろしている。黒い毛並みは絶えず炎のように揺らめき、赤い瞳は爛々と光を放っている。
黒犬は三笠達を見ると、がばりと口を開けた。乱杭状に生えた牙がてらてらと輝く。
「くっ、襲ってくる!」
「待って」
サーベルを構えるスワロフを、何故か朝日が手で制した。
「キサマ、なにを――!」
「……生意気な真似してくれるじゃないの、ねぇ?」
目尻を吊り上げるスワロフを無視して、朝日はうっすらと笑う。
三笠もまた、唇を綻ばせた。
「結局、貴女も来たのか――初瀬姉さん」
「えぇ……なんだか、とても大変な状態みたいだから」
黒犬の影から、甘やかな声が響いた。
甘えるようにすり寄ってくる犬をそっと撫でつつ、敷島型三女――初瀬は幽雅に微笑んだ。
「死者の手でも欲しいでしょう?」




