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天気晴朗ナレドモ水ノ月  作者: 伏見 七尾
五.振りさけみれば
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十四.

 やがて光がゆっくりと消えたとき、舌打ちが響いた。

「ハッ……イカレてる」

 ゴーグルを左目に装着した朝日が引きつった笑みを浮かべる。

 その視線の先には、無傷の天井があった。

「なっ……三人同時の攻撃も駄目!? ふざけているわ!」

「落ち着けスワロフ。姉さん、どうする?」

 三笠は静かな声でたずねた。

 朝日は髪をくしゃくしゃといじりつつ、思索にふけっている様子だった。

「そうねぇ……というか侮った。弩級の力ってここまでのモノなのね……一回健康診断と偽って中身見てみれば良かった。そうすりゃ……」

「そんなことをいっている場合じゃない。もう一度同時に攻撃してみるか?」

「正直それは望み薄ね。結界に傷一つ入っていないし」

「どうするの! このままじゃ、ずっとここから出られないわ!」

 スワロフがキッと朝日を睨む。

 朝日は顔をしかめ、鬱陶しそうに手を振った。

「うるっさいわね。あたしだって色々考え――て――?」

 ぴたりと朝日は動きを止め、頭上に視線を向けた。

 突然どうしたのだろう。じっと天井を見上げている彼女に、三笠は慎重に声をかける。

「姉さん? どうし――ッ!」

 その時、三笠も異変に気づいた。頭上から、こつこつと小さな音が響いていた。

「……なんだ、河内か?」

「違うわ、あいつが戻ってくるはずが――」

 朝日の言葉をかき消し、ガツンッ! と大きな音が響いた。同時にコンクリートの天井を、鋭い太刀の切っ先が突き破った。

 息を呑む三人の前で、切っ先は再びゆっくりと天井の向こうに消えていった。

 直後、轟音とともに天井の一部が崩れ、丸太のように巨大ななにかが床に叩きつけられた。

「これは……!」

 天井を破壊したものを見て、三笠は目を見開く。

 それは黒い毛並みに覆われ、大鎌にも似た鉤爪を備えた獣の腕だった。

「よ、妖魔!」

 天井に飽いた大穴を見上げ、スワロフがサーベルを抜き放つ。

 小山ほどもあろうかという大きさの犬が三笠達を見下ろしている。黒い毛並みは絶えず炎のように揺らめき、赤い瞳は爛々と光を放っている。

 黒犬は三笠達を見ると、がばりと口を開けた。乱杭状に生えた牙がてらてらと輝く。

「くっ、襲ってくる!」

「待って」

 サーベルを構えるスワロフを、何故か朝日が手で制した。

「キサマ、なにを――!」

「……生意気な真似してくれるじゃないの、ねぇ?」

 目尻を吊り上げるスワロフを無視して、朝日はうっすらと笑う。

 三笠もまた、唇を綻ばせた。

「結局、貴女も来たのか――初瀬姉さん」

「えぇ……なんだか、とても大変な状態みたいだから」

 黒犬の影から、甘やかな声が響いた。

 甘えるようにすり寄ってくる犬をそっと撫でつつ、敷島型三女――初瀬は幽雅に微笑んだ。

「死者の手でも欲しいでしょう?」


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