十三.
直後、ガラスの砕け散るような音が響いた。
「う、嘘……」
スワロフが目を見開く。
氷柱は呆気なく砕け散り、そのかけらが辺りに降り注いだ。煌めく結晶が散る向こうには、傷一つない天井が見える。
「わかったでしょ? これが弩級と前弩級の差。別物なのよ、ヤツとあたしらは」
自分めがけて落ちてくる大きな破片を避け、朝日は顎をそらす。
三笠は唇を噛み、天井を見上げた。
糸の結界によって守られたそれは、弩級と前弩級とを隔てる壁にさえ思えた。
「特攻鬼装でも破れないのか?」
「やめときな。今ここで無駄に力を消費するんじゃないの。本当の目的は河内をブチのめすことなんだから」
「だが、このままだとここから出られない」
「そうね。ったく、予定が狂いっぱなしよ。ともかくどうにか脱出しないと……」
「三人で攻撃してみない?」
その言葉に、三笠と朝日はスワロフに視線を送った。
一度魄炉を鎮めたスワロフは、鋭いまなざしで二人を交互に見る。
「三人分の霊気を同時に打ち込むの。そうすれば魄炉を解放せずとも、特攻鬼装に匹敵するだけの威力を出せるはずよ」
「三人、ねぇ……悪い案じゃないわ。結界の脆そうな所に打ち込めば崩せるかも」
朝日は唇を舐めつつ、天井を見上げる。
「探せるか? 結界の弱点を」
「ハッ、あたしを誰だと思ってんの」
三笠の問いに、朝日はべぇっと舌を出して笑う。その舌先には、敷島型である事を示す赤い八重桜の鬼印が刻まれていた。
朝日は霊視ゴーグルを装着すると、その脇についているダイヤルを弄り始めた。
「時間は?」
「三分もいらない。準備しといて」
「承知した」
短い会話の後で、三笠は腰に提げた刀の柄に軽く手を触れさせた。
スワロフが側に立ち、ちらっと視線を向けてくる。
「信頼しているのね。彼女を」
「あぁ。一応はマキナの姉妹として、それなりの付き合いがあるからな」
「……そう」
スワロフはどこか不服そうに眉を寄せると、視線をふいっとそらした。
その様子がやや気に掛かり、三笠は再び口を開く。
「なにか――」
「はいっ、あがり。脆そうな場所見つけたわよ」
しかし言い切るよりも早く、朝日が霊視ゴーグルをずらして振り返る。
そして、天井のある一点を指さした。
「一通りデータ取って比べてみたけどね。あそこ、霊糸の掛け具合が若干甘い。それでも前弩級一人だけじゃどうにもならなそうだけど――」
「三人ならばいけるかもしれないという事か……」
「そうね。――じゃ、やってみましょうか」
朝日はニヤリと唇を吊り上げると、三笠達を手招きした。
そして朝日は一枚の札をポケットから取りだし、天井の一点に投げつけた。ぴたりと貼り付いたそれを指さし、彼女は言った。
「あの辺り狙って。五秒後に魄炉起動。その状態で出来る最大の攻撃。いいわね?」
「承知した。やろう」
「さっさとカウントしなさいな」
「はいはい。じゃ、いくわよ。五、四、三、二、一――!」
直後、轟音が耳をつんざいた。
三笠の抜刀から放たれた黒い風が、スワロフの繰り出した氷槍が、朝日が振り払った手より放たられた光輪とがまったく同時に天井に叩き込まれた。
爆発的に膨れあがった霊気が強烈な閃光を放ち、視界は真っ白に染まる。




