十二.
「ハッ、失礼ね。この朝日をこんなヒヨコなんかと一緒にしないで。――さて、もう休憩は十分ね。今からこれからの話をするわよ」
朝日は急に表情を切り替えると、壁から背を離した。
スワロフがびっくりしたように、部屋の中を横切る朝日を見つめた。
「……な、何?」
「切り替えが早い人なんだ……しょっちゅう言動が変わるせいでついて行けない」
三笠は呆れつつも、心が弾むような気持ちを感じていた。
朝日は振り返ると、軽く手を広げた。
「正直、ここから抜け出すのは難儀だわ。霊糸で何重にも結界が織り上げられてて、内側から誰も出られないようになってるみたい」
「外はどうなっている?」
三笠は朝日が入ってきたドアの方を指さす。
朝日は肩をすくめた。
「この部屋の外も似たようなモノよ。外には小さな部屋がいくつかある。元々の設備を改修したんでしょうね。ただ出入り口は封鎖されてる」
「外にも糸の結界が?」
「そうよ。この地下のフロア全部が封じられてる」
「地下を覆い尽くす結界……? あの軟弱なマキナに、そんな事が?」
スワロフが目を見開く。
朝日は壁に手をつくと、不機嫌そうな視線をスワロフに向けた。
「いい加減認識を改めなさいな、バルチックの隊長さん。あんたが軟弱と呼んでる相手はね、あたし達とは別格の存在なの」
「別格、ね……」
スワロフが苦々しい表情で朝日を睨んだ。
「そっ。弩級はすぐに超弩級に追い抜かされて、忘れ去られてしまったけど……それでも、マキナに革新をもたらした存在であることには違いないわ」
「忘れ去られたマキナ……」
栄誉とかなんにもないもの――悔しげに言った河内の姿が、脳裏をよぎった。
考え込む三笠をよそに、朝日は腕時計を確認する。
「もうじき夕方になる。邪魔なあんた達をここに閉じ込めたと言うことは……河内の奴、今夜必ず何かやらかすわ」
「ならとっとと出ましょう。霊気で攻撃すれば結界だって破れるはずよ」
「……お好きにどうぞ」
朝日は何故か微妙な表情でうなずいた。
「言われなくとも――魄炉、起動!」
昂ぶる霊気に青い瞳が輝かせ、スワロフは頭上に掌を振り上げる。
瞬間、ミシミシと音を立てて床から氷柱が伸び上がった。鋭く煌めくそれは槍の如き勢いで、天井めがけて突き上がった。




