十一.
「霊糸か……」
霊気から紡ぎ出された糸――それが霊糸だ。霊糸は攻撃に用いるだけでなく、複数の糸を織ることで防御にも転用できる。
そして今現在、神州で霊糸をここまで大量に扱うことの出来るマキナはただ一人。
「これでわかったでしょ。河内があんたらを嵌めたって」
朝日の言葉が冷たく響く。三笠はゴーグルを下ろすと、きつく目をつぶった。
「……あぁ」
「ちょっと、ワタシにも見せなさい」
スワロフにゴーグルを渡し、三笠は朝日を振り返った。
「……姉さんは、河内を追っていたのか?」
「向こうからあたしに声をかけてきたの。『前弩級分離に不満はないのか』とか言ってね。他の奴にも色々呼びかけてたみたいね」
朝日は壁にもたれかかり、苛立った様子で靴の踵をこつこつと鳴らした。
スワロフがゴーグルをかざしたまま、朝日を見る。
「つまりキサマは、奴とずっと一緒に行動していたというコト?」
「そーゆーこと。あいつがなにかヤバい事やらかすのはわかってたからね。初瀬も抱き込んで、色々手を打ってもらったの」
「……初瀬姉さんは、わりとしっかりと絡んでいたのか?」
「そーよ。まずこの朝日が河内の集団に入り込み、内側から崩す。そしてヤバい時はあたしの呼びかけに応じて初瀬が来て、外側から潰す」
「あの女……詳しくは知らないと言っていたのに!」
スワロフはこめかみを引きつらせつつ、朝日にゴーグルを投げつけた。
朝日はそれを難なく受け止め、肩をすくめる。
「そりゃそーよ。なんせこの朝日が口止めしてたんだもの」
「何故、そんなことを……」
三笠は眉を寄せた。
側頭部にゴーグルを着けながら、朝日は三笠に無愛想な視線を向ける。
「だって、絡んでくるでしょ?」
「それは当たり前じゃないか。だって――」
「魄炉が同型なだけで、あたしとあんたらに血縁はないわ。だからこの朝日が危険な事をしていても、あんた達が足を踏み込んでくる必要はない」
朝日は壁に背中を預けると、深々とため息を吐いた。
三笠は黙って朝日を見つめた。
「多分あんたらが色々嗅ぎ回ってたから、河内は方針転換したんでしょうねぇ。あたしを餌に、あんたらをおびき寄せた……」
「あぁ……そうだな」
「本当に、バカじゃないの? いや、バカそのものよ。……あたしの事なんか放っておけば、こんな事に巻き込まれなかったのに」
言葉こそ素っ気ないが、その裏側には確かな思いやりがあった。
それを感じて、三笠は小さく笑った。
「私達を危険な目に遭わせたくなかったんだな」
「当然よ。敷島はバカだし、初瀬は虚弱体質だし、あんたはヒヨコだし。この朝日にしか、あの弩級マキナを止められないじゃない」
「……キサマ、三笠にそっくりね」
ぶつぶつと呟く朝日に対し、スワロフがぽつりと言った。
「そうか……?」
「はぁ?」
三笠は首をひねり、朝日はぎろりとスワロフを睨み付けた。
スワロフは顎をそらし、うっすらと笑う。
「全て自分で背負い込んで行動する――そっくりよ、三笠と」




