九.
「……う」
頭にずきりと痛みが走り、三笠は眉を寄せた。
全身が重い。上に何かが載っているようだ。三笠はそろそろと手を伸ばし、自分にのし掛かるモノの正体を探った。
「うっ……く、曲者!」
「スワロフか? ――っぐ、暴れるんじゃない!」
鳩尾に肘を打ち込まれ、三笠は呻いた。
すると息を呑むような音がした。衣擦れの音がして、体の重みが消える。
「三笠、なの?」
「……う、そうだ……くそっ、綺麗に決めたな……」
呻きつつも三笠は体を起こし、辺りを見回した。
一面真っ暗で、そばにいるはずのスワロフの姿さえ見えない。
ただ、ぴりぴりとした感触を肌に感じた。全体の空気が帯電しているような違和感。
「わ、悪かったわよ! 仕方がないでしょう、いきなり頬に触れてくるから……ッ! そ、それより、一体何があったの?」
「わからない。どうも、舞台から落ちたようだが……」
「待って。何か音が――」
ギィイ……と錆び付いた蝶番が軋む音が響き、暗闇の一角に光が差し込んだ。
「――やけに喧しい音が響いたと思ったら」
開いたドアの向こうに、小柄な女が一人。
肩に掛かる程度の茶髪に編み込みを入れ、しゃれた髪型にしている。ブラウスに赤いスカートという令嬢然とした服装だ。
側頭部には、複数のレンズが付いた機械仕掛けのマスクのようなものを装着している。
女は赤い瞳を細め、三笠とスワロフを見つめた。
「ヒヨコの三笠じゃないの。何でこんな所にいんの?」
「……朝日姉さん。ずいぶん探したぞ」
三笠はなんとか平静を保とうとしたが、唇が綻ぶのを止められなかった。
スワロフが息を呑む。
「アナタが朝日……?」
「そうよ、あたしこそが朝日。なんだったら『様』をつけて呼んでも良いのよ」
敷島型二番鬼――朝日は豊かな乳房を誇るように胸を張る。
しかし直後訝しげな表情を浮かべると、髪をいじくりながら三笠を見た。
「どういう風の吹き回しよ……いや、本当にどういうことよ。なんだってあんたがここにいんの? 誰の手はず?」




