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天気晴朗ナレドモ水ノ月  作者: 伏見 七尾
五.振りさけみれば
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八.

「朝日姉さん……?」

 名を呼びつつ、古ぼけた木の扉を押し開けた。こじんまりとした空間だった。うっすらと埃を被った座席が数列に渡って並んでいる。

「……本当に小さな劇場ね」

 背後のスワロフの言葉を聞きつつ、三笠はその場に留まったまま辺りを見回した。

 その時――こん、と小さな音が聞こえた。

「ッ……姉さん?」

 三笠は思わず一歩踏み出し、朝日を呼ぶ。

 しかし音はそれから一切聞こえず、劇場はしんと静まりかえっていた。

「どうしたの?」

「今、何か音がしなかったか?」

 スワロフも三笠の隣に並び、じっと耳を澄ませた。だが、渋い顔で首を振る。

「何も聞こえない……キサマの勘違いじゃないの?」

「そんなはずは――」

「舞台の方から聞こえたんじゃない? ほら、あっち」

 後から現れた河内が前方を指さした。前方には黒い幕が垂れ下がり、向こう側にひっそりと舞台がある事がわかる。

 三笠が視線を向けると、河内は緊張した面持ちでうなずいた。

「間違いなく朝日さんはここにいるよ。……多分、きっと」

「……わかった」

 どんどん自信を失っていく河内を手で制しつつ、三笠は歩き出した。その後からスワロフも険しい表情で続いた。

 三笠は脇に小さな階段を見つけると、それをぎしぎしと軋ませながら舞台に上がった。

「姉さん、いるか?」

 重い幕をどけると、かび臭い薄闇が目の前にあった。

「ひどい場所ね……」

「私は舞台裏見てくるよ。二人はそっちをお願い!」

「へまをするんじゃないわよ!」

 バタバタと慌ただしく駆けていく河内に、スワロフが鋭い声で釘を刺した。

「朝日姉さん?」

 三笠は舞台上に進み、放置されたままの大道具の類いの陰を見て回った。

「いない、な」

「あの軟弱マキナ、偽情報を掴まされたんじゃないかしら?」

 きつく眉間に皺を刻んだスワロフが河内の去った方を睨む。

 ギシリ。何かが軋むような音がした。

「……何、今の音?」

「足下から聞こえた……どこだ? 朝日姉さんなのか?」

 三笠は舞台に膝をつくと、床に触れた。

 スワロフも近づいてきて、険しい顔で三笠の様子を見下ろした。

「暗くてはっきり見えないわね……どう?」

「……溝があるな。なんだこれは」

 三笠は眉をひそめ、床板に刻まれた僅かな溝を指でたどった。

「なんなの、一体?」

 スワロフも地面に膝立ちになり、床に触れた。

 その時――重々しい金属音が響いた。同時に三笠の掌から、床板の感触が消失する。

「なっ――!?」

「きゃあ――!」

 退避する間もなく、二人は突如舞台に現れた穴に墜落する。

 再び金属音。その後には静寂だけが残った。

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