六.
「んーと、それなんだけど……なんかちょっと厄介な場所にいるみたいなの」
「厄介な場所?」
首をひねる三笠に対し、河内はぶるっと震えてみせた。
「浅草の下町近く。【大襲来】の時、地震で壊滅しちゃったとこ」
「……確か、未だに妖魔が出るんだったな」
【大襲来】の際、神州では巨大な地震が起こった。その影響でかつて神州一繁華だった下町は壊滅し、遊郭街は火炎に包まれた。
今はほとんど復興しているが、それでもあの近辺は時折妖魔が現れるらしい。
「それだけじゃないよ。あそこらへんかなり治安悪いの。ホント怖いんだから」
「警察の連中も苦労しているらしいな」
「そ。だから、先輩についてきてほしいんだけど……」
河内の声は徐々に細くなり、消えた。
腕組みをして考え込んでいた三笠はぴくりと眉を動かす。
「私に、か?」
「そう! 今は香取の捜索に人員割いてるし……元々霊軍の警邏隊って人員あんまり足りてないの。今の状況だと、私だけであそこに行くことになるかも……」
河内がすがるような目で見つめてくる。
三笠はその捨てられた子犬のような様子に、ふっと笑みを浮かべた。
「……わかった。出よう」
「ほんと!」
「元々居場所がわかり次第出るつもりだった――待っていろ、準備をしてくる」
はしゃぐ河内を背に、三笠は家の中に戻った。
居間に入ると、ちゃぶ台を睨み付けていたスワロフがぎろりと視線を向けてくる。
「何事?」
「朝日姉さんの居場所がわかった。お前も来るか?」
「……フン、仕方がないわね」
スワロフはゆっくりと立ち上がり、近くの壁に立てかけていたサーベルを取った。
三笠はシャツを脱ぎ捨て、旧軍服に袖を通した。
ふと、右手の薬指に嵌めた銀の指輪が目に入った。初瀬から与えられたお守りだ。
「……今が動くべき時、なのか? 初瀬姉さん」




