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四.
途端、青い瞳が一瞬見開かれた。そして、今度はスワロフが視線を泳がせる。
「や……やっぱり、いいわ」
うわずった声で言いながら、スワロフは逃げるように身をひいた。雪のように白い肌が、今にも湯気が上がりそうなほどに紅潮している。
「しっかり見ろと言ったじゃないか」
「う、うるさい!」
スワロフは激しく首を振ると、ぐびぐびと酒を呑んだ。
三笠は眉をひそめつつ、たどたどしい手つきで盃に酔い覚ましの水を注いだ。
夜はゆっくりと更けていく。
河内が訪れたのは、その翌日の事だった。
「こんにちはキャバレー先輩!」
「……うむ」
元気よく片手をあげる河内に対し、三笠はげっそりとした顔でうなずいた。
河内はそろそろと手を下ろし、首をかしげた。
「……どうしたの? なんか顔色が死にたての死体みたいな感じだけど」
「いや……なんでもない。気にするな」
三笠はゆるゆると首を振った。河内の声が頭に響き、重い痛みをかき立てる。
河内は首をひねりつつ、家の中に上がった。




