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天気晴朗ナレドモ水ノ月  作者: 伏見 七尾
五.振りさけみれば
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三.

「磁力を使った銃? この国にはそんなモノがあるの?」

「私の記憶では無い。――が、そんな能力を持つマキナは一人心当たりがある」

「それは誰?」

 スワロフが身を乗り出し、鋭く問いかけてくる。

 三笠は無数の釘をぶらさげた鉄針を見つめると、ゆっくりと首を振った。

「……今は言わないでおく」

「何故?」

「曖昧な情報に振り回されて、より事態が混乱しては困るからな。それに私が知らないマキナがこの針を使った可能性もある」

「……慎重すぎるわ」

「状況が状況だ」

 三笠は渋い表情のまま、鉄針と釘を片付ける。スワロフは不服そうに鼻を鳴らしたが、なにも言わずに盃を煽った。

 そのまま二人はしばらく無言で、ちびちびと酒に口をつけた。

 三笠が再び口を開いたのは、小さな酒瓶の中身が半分ほどになった頃だった。

「……ボーリグラート、の話だが」

「語らないんじゃなかったの?」

 盃を一息で空にして、スワロフは訝しげな視線を向けてきた。ほんのりと頬が赤いが、そのまなざしはまだしっかりしている。

 対する三笠は、もうだいぶ酔いが回っていた。

 ランプの光に照らされた部屋の風景が、酔いのせいでくらくらと揺れて見える。

「……気が、変わった。私も、お前の事情に足を踏み入れたから」

「フン、律儀な事ね」

 スワロフは鼻を鳴らすと酒瓶を引き寄せ、自分の盃に酒を注いだ。

 三笠はまぶたを閉じ、首をこくりと傾かせた。

「……三年前の二月。私はボーリグラート救援のため、アリョールに向かった。第二次軍だったかな。川が凍り付いていて、進むのに苦労した」

「……あの頃のアリョールは、地獄だったでしょう?」

「あぁ……革命派と、妖魔とが国土を蹂躙していた。先にボーリグラートに向かっていた私の恩師も、革命派に……」

「殺されてしまったの?」

「私が殺した。妖魔に変異する前に……私がとどめを刺した」

 三笠は顔を上げた。盃に残った酒が、ランプの火に微かに煌めいていた。

「……そう」

「その後も私は進軍を続けた。だが町に到達する前に……撤退命令が出た。先行していた部隊が妖魔によって壊滅し、さらに革命派の追撃にあってな」

「その部隊は、どうなったの?」

「……玉砕した。何一つ、救えやしなかったよ」

 コレ以上ノ進軍ハ不可――総員玉砕ス――御国ニ幸多カラン事ヲ――ノイズ混じりのあの音声は、まるで呪詛のように耳にこびりついている。

 不意に顔に温かな感触を感じ、三笠は目を開けた。

「ん、スワロフ……?」

「それが全て、なのね」

 スワロフは三笠の頬に触れつつ、わずかに身を乗り出して問いかけた。

「あぁ……これが、全てだ」

「そう」

 スワロフはうなずき、目を伏せた。

「……キサマの事は、気に食わない」

「そうか」

「ただ、キサマが我が祖国を救おうとしてくれた事は……嬉しく感じるわ」

「……だが、私は救えなかった」

「それでもよ、それでもキサマは戦った。――ありがとう、三笠」

 スワロフの指先が頬から離れ、卓上に置かれた三笠の手の上に重ねられた。

 三笠は首を振り、うつむいた。

「……私は、そんな……感謝など……」

「失礼なヤツね」

 スワロフは眉を吊り上げると反対側の手を伸ばし、三笠の顎を掴んだ。

「痛っ、おい……!」

 強引に顔を引き寄せられ、首に痛みが走る。

 呻く三笠に対し、スワロフは鋭い口調で言った。

「宿敵が感謝しているのよ。――しっかりとワタシを見なさい」

「まったく……」

 三笠は仕方なく、スワロフを見る。


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