一.
しとしとと降っていた雨は、深夜になってようやくあがった。
白い寝巻に身を包んだ三笠は、小さな酒瓶とガラスの盃を盆に載せて自室に入った。
卓に着き、瓶の栓を開けながら短く問いかける。
「お前は呑むか?」
「……キサマ、呑めないのではなかったの?」
窓辺に座っていたスワロフが、青い瞳でじろっと見つめてくる。雨上がりの月光に照らされたその顔は、いつもよりもなお白く見えた。
「弱いが呑めないわけじゃない。……それに今はほんの少しだけ酔いたい」
「そう……もらってあげない事もないわ」
スワロフは言って、また窓の外に視線を向ける。
三笠は二つの盃に冷酒を注いだ。そのうちの一つを水で割り、一口だけ呑んだ。
「大変な一日だったな」
「えぇ、そうね。……サーシャは、大丈夫なのかしら」
不安げなスワロフの言葉に、三笠は「あぁ」と答えた。
「敷島姉さんに任せておけば良い」
「……本当に大丈夫なの?」
心細そうなスワロフのの青い瞳に、三笠はしっかりとうなずいてみせた。
「もちろん。彼女に任せておけば問題ない」
盃を傾けつつ、三笠はおよそ一時間ほど前のことを思い出した。
あの戦いの後、三笠はラジオベルで敷島に連絡を入れた。事情を知った敷島は、すぐにに借りた自動車でその場に駆けつけてくれた。
意識を失ったアレクサンドルを自動車に載せた後、三笠は敷島に呼ばれた。
「……お前も少し休め。最近、ずっと働きづめだろ」
「問題ない。私は体は頑丈な方だ、これくらいどうということはないよ……それに、朝日姉さんについての手がかりが見つかりそうなんだ」
「……ッ!」
敷島は一瞬目を見開いた。しかし、すぐにまた険しい表情を浮かべる。
「なら、余計休むべきだ」
「姉さん……?」
「お前も知ってるとおり、朝日は手がかかるぞ。アイツのことだ、どうせまたロクでもねぇ事に巻き込まれてるんだろ?」
「……あぁ、そのようだ」
三笠はちらりと、自動車の後部座席に横たえられたアレクサンドルの方を見た。
敷島は三笠の肩を軽く叩いた。
「だから、休める時に休んどけ。おれも出来ることはやっておくからさ」
「……だが」
「――お前が心配なんだ。頼むよ、三笠」
真剣な敷島のまなざしに、三笠は何も言えずにうなずくしかなかった。




