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天気晴朗ナレドモ水ノ月  作者: 伏見 七尾
五.振りさけみれば
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一.

 しとしとと降っていた雨は、深夜になってようやくあがった。

 白い寝巻に身を包んだ三笠は、小さな酒瓶とガラスの盃を盆に載せて自室に入った。

 卓に着き、瓶の栓を開けながら短く問いかける。

「お前は呑むか?」

「……キサマ、呑めないのではなかったの?」

 窓辺に座っていたスワロフが、青い瞳でじろっと見つめてくる。雨上がりの月光に照らされたその顔は、いつもよりもなお白く見えた。

「弱いが呑めないわけじゃない。……それに今はほんの少しだけ酔いたい」

「そう……もらってあげない事もないわ」

 スワロフは言って、また窓の外に視線を向ける。

 三笠は二つの盃に冷酒を注いだ。そのうちの一つを水で割り、一口だけ呑んだ。

「大変な一日だったな」

「えぇ、そうね。……サーシャは、大丈夫なのかしら」

 不安げなスワロフの言葉に、三笠は「あぁ」と答えた。

「敷島姉さんに任せておけば良い」

「……本当に大丈夫なの?」

 心細そうなスワロフのの青い瞳に、三笠はしっかりとうなずいてみせた。

「もちろん。彼女に任せておけば問題ない」

 盃を傾けつつ、三笠はおよそ一時間ほど前のことを思い出した。


 あの戦いの後、三笠はラジオベルで敷島に連絡を入れた。事情を知った敷島は、すぐにに借りた自動車でその場に駆けつけてくれた。

 意識を失ったアレクサンドルを自動車に載せた後、三笠は敷島に呼ばれた。

「……お前も少し休め。最近、ずっと働きづめだろ」

「問題ない。私は体は頑丈な方だ、これくらいどうということはないよ……それに、朝日姉さんについての手がかりが見つかりそうなんだ」

「……ッ!」

 敷島は一瞬目を見開いた。しかし、すぐにまた険しい表情を浮かべる。

「なら、余計休むべきだ」

「姉さん……?」

「お前も知ってるとおり、朝日は手がかかるぞ。アイツのことだ、どうせまたロクでもねぇ事に巻き込まれてるんだろ?」

「……あぁ、そのようだ」

 三笠はちらりと、自動車の後部座席に横たえられたアレクサンドルの方を見た。

 敷島は三笠の肩を軽く叩いた。

「だから、休める時に休んどけ。おれも出来ることはやっておくからさ」

「……だが」

「――お前が心配なんだ。頼むよ、三笠」

 真剣な敷島のまなざしに、三笠は何も言えずにうなずくしかなかった。


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