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天気晴朗ナレドモ水ノ月  作者: 伏見 七尾
四.二人のインペラートル
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三十二.

「……情けない……この、私が」

 アレクサンドルはがっくりとうつむいた。

 スワロフは一瞬、戸惑ったように目を瞬かせる。やがて意を決したようにごくりとつばを飲み込むと、アレクサンドルの元に近づいた。

「サーシャ」

「……私を笑いますか、スワロフ。この、無様な私を」

「フン、笑えないわね」

 スワロフは不機嫌そうに鼻を鳴らし、アレクサンドルの前に屈んだ。血や泥に汚れた金髪をそっと避け、彼女の顔をのぞき込む。

「全く笑えないわ――ワタシも、たいがい無様だから」

「スワロフ……」

「まだ、道筋は見えない。どうすれば良いのかもわからないわ。ただ……」

 アレクサンドルはなにも言わない。

 その薄荷色の瞳をまっすぐに捉え、スワロフはぽつりぽつりと言葉を紡ぐ。

「少しずつ、一つずつ歩んでいきましょう……必ず、道は見つかるから」

「……そう、なのかしら」

「そうよ。だって、ワタシ達は常勝不敗のバルチックよ」

 か細いアレクサンドルの声に、スワロフは深くうなずいてみせる。

 アレクサンドルは大きく目を見開いた。

「バルチック……」

「えぇ。アナタとワタシと、そしてニコライがいれば何も恐れることはない」

「……ボクも、役に立つの?」

 胸を押さえたまま、ニコライはよろよろと立ち上がった。

 スワロフは振り返り、うなずいた。

「そうよ。アナタは第三部隊の隊長じゃない。大事な仲間よ」

「仲間……ほ、ほんとに?」

「二度も同じ事を言わせない!」

「は、はいッ! ……え、えへへ」

 鋭い声にピシッと姿勢を正したものの、ニコライは照れたように笑った。

 スワロフは微笑み、再びアレクサンドルを見る。

「ねぇ、サーシャ。だから、神州の掌握なんてバカな事はやめましょう?」

「しかし……」

 アレクサンドルは一瞬目を伏せ、迷うようなそぶりを見せた。

 そんな彼女に対し、スワロフはまた口を開く。

「大丈夫よ、これからまた――」

「――ッ!」

 瞬間、三笠は鋭い耳鳴りを感じた。

 反射的に彼女が刀の柄に手をかけるのと同時に、アレクサンドルが目を見開く。


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