三十二.
「……情けない……この、私が」
アレクサンドルはがっくりとうつむいた。
スワロフは一瞬、戸惑ったように目を瞬かせる。やがて意を決したようにごくりとつばを飲み込むと、アレクサンドルの元に近づいた。
「サーシャ」
「……私を笑いますか、スワロフ。この、無様な私を」
「フン、笑えないわね」
スワロフは不機嫌そうに鼻を鳴らし、アレクサンドルの前に屈んだ。血や泥に汚れた金髪をそっと避け、彼女の顔をのぞき込む。
「全く笑えないわ――ワタシも、たいがい無様だから」
「スワロフ……」
「まだ、道筋は見えない。どうすれば良いのかもわからないわ。ただ……」
アレクサンドルはなにも言わない。
その薄荷色の瞳をまっすぐに捉え、スワロフはぽつりぽつりと言葉を紡ぐ。
「少しずつ、一つずつ歩んでいきましょう……必ず、道は見つかるから」
「……そう、なのかしら」
「そうよ。だって、ワタシ達は常勝不敗のバルチックよ」
か細いアレクサンドルの声に、スワロフは深くうなずいてみせる。
アレクサンドルは大きく目を見開いた。
「バルチック……」
「えぇ。アナタとワタシと、そしてニコライがいれば何も恐れることはない」
「……ボクも、役に立つの?」
胸を押さえたまま、ニコライはよろよろと立ち上がった。
スワロフは振り返り、うなずいた。
「そうよ。アナタは第三部隊の隊長じゃない。大事な仲間よ」
「仲間……ほ、ほんとに?」
「二度も同じ事を言わせない!」
「は、はいッ! ……え、えへへ」
鋭い声にピシッと姿勢を正したものの、ニコライは照れたように笑った。
スワロフは微笑み、再びアレクサンドルを見る。
「ねぇ、サーシャ。だから、神州の掌握なんてバカな事はやめましょう?」
「しかし……」
アレクサンドルは一瞬目を伏せ、迷うようなそぶりを見せた。
そんな彼女に対し、スワロフはまた口を開く。
「大丈夫よ、これからまた――」
「――ッ!」
瞬間、三笠は鋭い耳鳴りを感じた。
反射的に彼女が刀の柄に手をかけるのと同時に、アレクサンドルが目を見開く。




