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天気晴朗ナレドモ水ノ月  作者: 伏見 七尾
四.二人のインペラートル
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三十一.

「ここで終わってしまったら……ッ、全てが無駄に……ッ」

「サーシャ、もうやめて」

 スワロフがなだめるように、両手を前に出す。

 しかしアレクサンドルは激しく首を横に振って、その命令を拒否した。

「駄目、止まってはいけない……ッ」

「サーシャ……!」

「私が倒れるわけにはいかないの!」

 アレクサンドルの絶叫に、スワロフは言葉を呑み込んだ。

 血を吐き、全身を大きく震えさせつつ、アレクサンドルは三笠に向かって一歩踏み出す。

「うっ……、私が倒れてしまえば……くッ、私が負けてしまったら……ッ」

「……アレクサンドル」

 苦い表情で、三笠は彼女の名を口にした。

 大きくアレクサンドルはふらつき、半月斧を地面についた。その柄にずるずるともたれかかりつつ、彼女はか細い声で言った。

「私が倒れれば……バルチックが、完全に敗北したことになる」

「……っ」

 スワロフは目を見開き、口元を手で覆った。

「帝国も、同胞も……この六年間に失った全てが、意味を無くす……」

「……結局、捨てきれなかったんだな」

 三笠は刀をゆっくりと納めた。

 その言葉に、アレクサンドルは薄荷色の瞳を大きく見開いた。

「なに、を」

「お前は先ほど、スワロフを責めた。彼女を思い出に溺れているとなじり、過去は無価値だと言い放った。だが……」

「……あぁ」

 そこでアレクサンドルはきつく眉を寄せ、天を仰いだ。

 その苦しげな姿を、三笠はじっと見つめた。

「お前もスワロフと同じだった。過去を捨て去ることなど、できなかったんだ」


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