三十一.
「ここで終わってしまったら……ッ、全てが無駄に……ッ」
「サーシャ、もうやめて」
スワロフがなだめるように、両手を前に出す。
しかしアレクサンドルは激しく首を横に振って、その命令を拒否した。
「駄目、止まってはいけない……ッ」
「サーシャ……!」
「私が倒れるわけにはいかないの!」
アレクサンドルの絶叫に、スワロフは言葉を呑み込んだ。
血を吐き、全身を大きく震えさせつつ、アレクサンドルは三笠に向かって一歩踏み出す。
「うっ……、私が倒れてしまえば……くッ、私が負けてしまったら……ッ」
「……アレクサンドル」
苦い表情で、三笠は彼女の名を口にした。
大きくアレクサンドルはふらつき、半月斧を地面についた。その柄にずるずるともたれかかりつつ、彼女はか細い声で言った。
「私が倒れれば……バルチックが、完全に敗北したことになる」
「……っ」
スワロフは目を見開き、口元を手で覆った。
「帝国も、同胞も……この六年間に失った全てが、意味を無くす……」
「……結局、捨てきれなかったんだな」
三笠は刀をゆっくりと納めた。
その言葉に、アレクサンドルは薄荷色の瞳を大きく見開いた。
「なに、を」
「お前は先ほど、スワロフを責めた。彼女を思い出に溺れているとなじり、過去は無価値だと言い放った。だが……」
「……あぁ」
そこでアレクサンドルはきつく眉を寄せ、天を仰いだ。
その苦しげな姿を、三笠はじっと見つめた。
「お前もスワロフと同じだった。過去を捨て去ることなど、できなかったんだ」




