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天気晴朗ナレドモ水ノ月  作者: 伏見 七尾
四.二人のインペラートル
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二十六.

「……回復する時間を稼いだのか」

 三笠は刀を構え直し、唇を噛む。

 その間にもニコライの幻影が一度にいくつも現れ、三笠の周囲を飛び回った。

「こっちだよ!」

「ほらほらぁ! ボクが本物だ!」

「違うよ、ボクが本物だよぉ!」

「……っ」

 頭に鈍い痛みが走り、視界がチカチカとまたたく。長時間幻覚に晒されているせいで、身体と精神に損傷を受けているようだ。

 だがこの一連の戦いの中で、ようやく目が醒めた気がした。

 四肢の感覚ははっきりしていて、頭痛の中でも思考は冴えている。

 まるで一振りの刃の如く、自分の全てが戦闘に特化していく――久々の感覚だ。

「サーシャ、もしかしてボク達……勝てそう?」

「えぇ。我々は六年前の屈辱をようやく打ち払うことが出来るのですよ」

「す、すごい! 三笠って大したことないね!」

 姿は見えないまま、アレクサンドルとニコライの声だけが霧の中に響く。一面ミルク色の世界に、嘲笑うように幻影が駆け回った

 この状況を打開する手立ては――三笠は納刀し、鋭いまなざしで辺りを見回した。

「で、でも、もし三笠が特攻鬼装を出したら――」

「それも無意味です。そもそも我々が出した時点で出さなかったのがおかしい。恐らく、我々とは相性の悪い特攻鬼装なのでしょう」

 違う、と心の中で三笠は呟いた。

 魄炉解放すれば、ニコライとアレクサンドルを打ち破る事はたやすい。

 だが、今はスワロフの居場所がわからない。加減を間違えれば、三笠は彼女を殺してしまう事になる。

「……どこだ」

 三笠は低い声で呟いた。

 白く濁った霧のせいで、スワロフの気配が読み取り辛くなっている。今頃彼女は暴れたり叫んだりしているはずだが、その様子もほとんど感じられない。

「さぁ、見ていなさいニコライ。かつての仇敵が徐々に死へと沈んでいく様子を」

「倒れろ、倒れちゃえ三笠……!」

 手を繋いだニコライの幻影が辺りをぐるぐると走り回る。幻影で神経をすり減らす作戦に切り替えたようだ。

 三笠はやや眉を寄せ、鈍く痛むこめかみを押さえた。

「ご覧になっていますか――皇帝陛下。我らバルチックの勝利を」

 こだまする嘲笑の中で、熱に浮かされたようなアレクサンドルの囁きが聞こえた。

 その瞬間、急に三笠はおかしくてたまらなくなった。


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