二十五.
断頭台の刃の如く斧頭が迫る。手足はぴくりとも動かない。もはや手詰まりか――。
刹那――脳裏にスワロフの背中と、野太刀の影が閃いた。
「――ちぃえあぁあああぁああッッッ!!!!」
三笠の口から迸った絶叫に、アレクサンドルの瞳が大きく見開かれた。
同時に大蛇の姿がふっと消え、四肢が自由になる。
その隙になんとか身をよじり、三笠は半月斧の一撃を紙一重で躱した。浅く喉の皮膚が裂かれ、鋭い痛みが走る。
三笠は背後に下がり、血のにじんだ喉を押さえた。
「八島の真似なんかするものじゃないな……」
「……なかなか、野蛮な技を使いますね」
耳を押さえ、アレクサンドルが三笠を睨む。
三笠は両手両足が問題なく動くことを確認し、アレクサンドルに視線を向けた。
「……先ほどから幻術破りの呪術が効いていないな」
「私の【巡り揺れる楽土】の前には無意味です――貴女はここで、悪夢の中に散る定め」
薄く笑うアレクサンドルの姿が、霧に溶けるようにして消える。
流石に特攻鬼装なだけはある。生半可な手段は通用しそうにない。険しい表情で納刀したその時、三笠は空気の揺らぎを感じた。
「とぉおう!」
霧を裂いてニコライが一人現れ、三笠めがけて斬りかかる。
とっさに抜刀した刃が双剣を――すり抜けた。
「――ッ!」
「こっちだよぉ!」
背後から声。同時に閃光が走り、三笠の右腕がぼとりと地面に落ちた。
肩口から滝のように血が噴き出した。
「ぎっ、ぐ、くっ――!」
悲鳴を奥歯で噛みつぶし、三笠は身を翻す。
追撃を加えようとするニコライをかわし、刀の柄をその頭に叩きつける。
「ぎゃん!」
ニコライが地面に倒れ込んだ。
彼女が立ち上がろうともがいている間に三笠は切断された左腕をさっと拾い上げ、血の溢れる肩にねじ込むように押しつけた。
人外細胞の作用により、すぐに切断面同士が元通り癒着を始める。
「ぐ……ッ!」
灼けるような痛みが腕に走った。だがこれはまだましな方だ。自己再生だけで一から腕を復元しようとすると、気絶するほどの激痛を感じる。
「く、くらくらする……!」
なおも倒れているニコライが悲鳴に近い声を上げた。
数秒で回復した左手の動きを確認しつつ、三笠は彼女に鋭い視線を向ける。
「よくもやったな!」
背後からもう一人のニコライが突進してきた。
三笠は構える。だが三笠に斬りかかる寸前で、ニコライの姿はかき消えた。
「これはッ――!」
振り返れば、倒れていたニコライの姿が消えている。




